数日後――
「なあ、あのバカップルはどこへ行った?」
イールアーズはオウルの里にてワイズリアにそう訊ねていた、
バカップル、もちろんディスティアとエレイアのことである。
「お前なあ……俺の娘とその婿だぞ?」
そう言われたイールアーズはあわてて口をふさいだ。
「まあいい、次から口の利き方に気をつけろよ、小僧。
ともかく、あの2人は行先も告げずにどっか行っちまったよ。
残念だがディルはもはやかつてのディルではない、これからは”賢者ディスティア”になったんだ」
そう言われてイールが思い出したように訊いた。
「賢者といえば……今まで気になってたんだがワイズリア、あんたのその名前もそういうことだろ?
”ワイズリア”ってあんたの名前でなくて、賢者の称号か、なんかだろ?」
ワイズリアは頷いた。
「おう、知ってるじゃねえか、その通りだ――って、そういやお前ケンダルスに何度か入り浸っていたんだっけな。
つっても俺がこうなったのはシェトランド人に知識を広めるためっていうだけのものだったんだがな。
シェトランドっつーのはこのエンブリアじゃあ元々グレート・グランドの島の周りでしか生活してねえもんだからな。
しかもそれでいて他種族との関わりを極力避けて過ごそうとする……
それじゃあいざ外界の連中が下手にしゃしゃり出てきたときに面倒が起きたらいろいろと厄介だってことで、
俺はオヤジに言われてケンダルスで修業し、”ワイズリア”って名前を戴いたってわけだな。
んで、それがきっかけで、こうしてオウルの里が新しくできちまったってわけだぜ」
イールアーズは少し驚いていた。
「まさかこの里ができたきっかけまで聞かされるとはな――」
オウルの里は賢者ワイズリアのもとにシェトランド人が集まってできた集落だった。
ワイズリアはワイズリアと呼ばれて随分と長いことが経つようで、かつて自分がなんて呼ばれていたかも覚えていないようだ。
でも、ワイズリアで定着しているんだからそれはそれでいいか。
実際、彼のもとにシェトランド人が集まったことには別の理由があった、
万人斬りなどに代表される通り、世に影響を与える通り名持ちが多いのがオウルの里の特徴……
そう、名声が欲しいマンの恰好の餌食となるのである。
つまり、通り名持ちのシェトランド人がグレート・グランドの島の周りにある本島の者たちに迷惑をかけたくないということでオウルの里に住を移したというのがきっかけである。
ゆえに、シェトランド人の実力者はオウルの里のほうが多いのである。
「話を戻すが、ディルのあの様子だと、ケンダルスで修業したのは間違いねえな。
となると話は簡単、あの2人の行先はケンダルスだ。
あのエレイアのことだから、ディルと同じような道を歩んでディルと一緒になりたいとか言い出しているに違いねえな。
で、あいつらに何か用でもあったのか?」
ワイズリアはそう訊くとイールアーズは本題を切り出した。
「実は……ルイゼシアの居場所が分かってなくってな、それで――」
セイバルの島の施設を次々と破壊しているという通り、つまりは彼女の所在もあらかた探しているということである。
それでも見つからないということだそうだ。
ワイズリアは頷いた。
「あれだけの核の力だからな、俺たちをモノ程度にしか見てないのは腹立たしいが、
それでも、そう言う見方をすれば、あの連中にとってもルーイはそれだけに貴重な存在といえるだろうな。
だから、多分無事だと思うぜ」
言われてみればそれも一理あった、そういうことならとりあえず一旦安心しておこうか、
イールアーズは改めて気を引き締めていた。
「仕方がない、また探すか」
だが、それにしてもオウルの里に戻ってきたのは60数人のシェトランド人のみ、
エクスフォスとの衝突より数をさらに減らしたものである。
ルイゼシアばかり気にしているのは身内である以上当然のことであるが、
それでもこのシェトランド人の現状、それはそれでイールアーズにとっても何やら刺さるものがあった。
それからさらに2年ほどが過ぎた、ディスティアとエレイアの2人はケンダルスの入り口にて、高僧に挨拶をしていた。
「うほほほほ、これまたせくすぃな賢者様の完成だわい♪」
「まあ、お上手ですね、お師匠様♪」
高僧はエレイアの姿にやや興奮気味だった、禁欲を課してから久方ぶりの……といったところだからだろうか。
エレイアはディルがルシルメアで再会したとき程度の多少の露出に、ローブを羽織っていた。
そんなエレイアの服装に対して高僧は彼女のローブの隙間から見えるエレイアの身体から目を離さず話をしているが、
エレイアは特段気にしている様子ではなかった。
「いろいろとお世話になりましたね」
それでもディスティアは丁寧に話をしていた。
「いやいやいや、よもや再び訪れるとは思ってもみませんでしたからね、
あなたたちであれば、いつでも歓迎いたしますよ。
特に、この度はとてもキレイでせくすぃな賢者様が誕生して、私も鼻が高い!」
だが、鼻が高いというより、鼻の下が長いというのが的確な表現のようだった。
それをエレイアがぼそっとそう言うと、
依然としてエレイアの身体から目を離さず話をしている高僧はやたら嬉しそうに話した。
「なるほど! 鼻の下が長い! 確かにそうとも言いますな!」
「……そうとしか言わない気が」
ディスティアは頭を抱えながら少々呆れた感じでそう呟いた。
だが、エレイアは一切嫌がっている気配はない、別に害もなさそうだし、
エレイアはむしろ楽しそうに話をしている……
今までのことを考えれば自然のこと、だからディスティアも気にはしなかった。
下手に自分が手を出すと彼女の行動を束縛することにもなる、
それだけは避けたかった、彼女は今は自由なのだから。
「では、私らはそろそろ行きますね」
ディスティアは挨拶を済ませ、早く行こうとしていた。するとエレイアが――
「待って! 私も名前を変える! だからちょっとだけ待って!」
そう言えばそうだった。エレイアにも新たな名前をつけるべきか、ディスティアはそう考えていた。
それに対して高僧は――
「それもそうですなぁ、しかしなんていう名前にしましょうか、
女人に対して名付けるというのはこれまでにないケース、さてどうしたものか――」
悩んでいた、エレイアの身体から目を離さず話をしていることに変わりはない。エレイアが出し抜けに言った。
「決められない? なら、私が考えてもいい?」
「ん? 自分で決める? そうですな、その方が手っ取り早いのかもしれませんな――」
高僧は頷くとエレイアは――すでに決まっていたようである。
「そうね、なら”レナシエル”でいいかしら?」
”レナシエル”か……ディスティアは覚えていた。
かつて自分がセイバルの生物兵器として一番最初に名付けられた名だった。
レナシエルの身体は既に連中に改造された折に出来上がっており、
”悩殺堕天使・セクシーガール・レナシエル”と言う存在として完成されていたという、
何度聞いても結構ひどい名前であるである。
しかし”レナシエル”そのものは元々のエレイアの意識がそのまま反映されていただけの存在、
それゆえにセイバルたちには失敗作扱いされ、命令コードなどで指令を与えられることで”メリュジーヌ”となった。
”レディ・ベーゼ”は”メリュジーヌ”という存在を隠すための存在だが、
それが消え去り、さらに改造を施されることで”シュリーア”となった。
そんな彼女の経緯ではあるが、
彼女の身体自体は”シュリーア”に改造されたままだが彼女の状態はその”レナシエル”の状態なのだという。
つまり、命令コードなどが与えられない状態、早い話、ほぼエレイアそのものである。
ディスティアの名前の由来は戒めそのものということもあるためか、
彼女もまた自らへの戒めのために名前を考えた、つまり”レナシエル”である。
そのあたりの概要をある程度把握している高僧が嬉しそうに話を続けた。
「うむ! いいですなあ! 彼と似たような境遇にして似たような経緯で考えられた名前!
まさに青春そのものですなぁ!
いいでしょう、その、とても美しくてせくすぃなぼでーにちょうど相応しい名前!
”賢者・悩殺堕天使・セクシーガール・レナシエル”という名前に祝福を与えましょう! ほっほっほ!」
スケベジジィ全快の顔つきでもっともらしいことを言った高僧、
言うまでもないがずっとエレイアの身体から目を離さず話をしている。
さらにはあまりの興奮具合に鼻の下が伸び切ると同時に鼻血も噴き出していた。
「あ、ありがとう、ございます……でいいのかな?」
レナシエルは戸惑いつつ、ディスティアの顔を見ると、彼は悩んでいた。
「そうだな、少なくともマジメにやってもらいたいな――」