ディルフォードはなんだかんだでそいつに言いくるめられ、あの洞穴を後にした。
そいつの正体はアール将軍……リファリウスである。
女のほうはアール将軍の側近の1人であるラミキュリアだ。
特にこのラミキュリアという女は厄介だ、先ほどのあの忌まわしい光景をフラッシュバックさせてくるのだ。
というのも、この女もまたプリズム族、誘惑魔法を用いてディルフォードの中にエレイアの存在を強く想起させて来たようだ、
あんな光景を何度も見させられたら溜まったもんじゃない……反抗しようがなく、素直に従ったほうがいいような気がした。
さらにあの後リファリウスにいろいろと言われたのだが、その言い分は圧倒的に正しかった。
中でも、「彼女がとられたのなら力づくでも奪い返して見せようって思わないのかい?」についてはディルフォードの心に思いっきり突き刺さるキラーワードである。
無論、それができていれば既にやっているという気がしないでもないが。
ただ、あの洞穴を後にすることになった理由はそのどちらでもない、それなら何故動くことにしたのか?
そんなの決まっている、相手がリファリウスだからだということに尽きる。
あいつの話を延々と聞かされてみろ、もう言いくるめられる云々の話ではない、ただひたすら鬱陶しいのだ。
ディルフォードとしては前にも似たようなことがあって、こいつのこの特性だけには参った。
とはいえ、あの時の対象は自分ではなくクラフォードという知人だった、
あいつはリファリウスと話してくると言って帰ってきた後、なんだか無性に腹を立てていて、
そのうえでさらにいろんな無理難題……だったのかはさておき、いろんなことを押し付けられていた気がする。
客観的に見ていたディルフォードとしては押し付けられていても仕方がない内容でクラフォードもそれは認識していたが、
その際のリファリウスの言い分がとにかく勘弁してほしかったということだった。
そんなに変な内容だったのか……そんなある日のこと、
クラフォードの友人であるウィーニアという女性とリファリウスが一緒に話をしているところに出くわしていた。
そしてその話の内容が、まさかのあの当時のクラフォードにまつわる愚痴……。
とにかくねちねちねちねちと……途中で聞いている側としても嫌になってきたディルフォードはあの場からさっさと退場していた。
それこそ先ほど男と認識していたハズのリファリウス、
あの時のウィーニアとの話や先ほどの洞穴でのラミキュリアとのガールズトークに女声としても通用するような高めの声……
つまり、ディルフォードとしてはリファリウスは女ではないが男でもない……
むしろ女と考えれば辻褄が合う――ぐらいの存在と思っているため、
要は女にぐちぐち言われようものなら溜まったもんじゃない……という考えにより、洞穴にこもるのを諦めたのだった、
女にぐちぐち言われて痛い思いをしたのは既に昔にエレイアを相手に体験済みである、
今は彼女のことを言うのははばかられることだが。
とにかく、そんなこんなでそう簡単に人一人を死なせてはくれなさそうだ。
だが、今は身体の調子があまり良くなくてまともに歩くことはできないが、
そのうち逃げ出してやる――ディルフォードは頭を抱えつつもそう思っていた。
場所はルシルメアよりやや北東の海岸、リファリウスは訊いてきた。
「さて、ここからなら南西のルシルメアと東のケンダルスがある。
キミとしては人の少ないケンダルスのほうが都合がいいと思うけれども?」
「ああ、そうだな」
正直なんでもよかったので空返事をした。
「なら、ケンダルスへ行こうかね。」
リファリウスはディルフォードの身体を支えつつ車の後部座席に突っ込むように乗せるとシートベルトをさせていた。
そしてラミキュリアが補助席に乗ると、リファリウスは運転席に乗りシートベルトを確認すると、
東のほうへと車を走らせた、文明の利器――
ケンダルスへは半日で着いた。リファリウスはディルフォードが車から降りたのを確認すると――
「悪いけど用事が出来たのでね、ここでひとまずお別れだ。」
おい! 無理やり連れてきたくせにどうしてだ!
「悪いね。ただ、ケンダルスには今なら私の知り合いがいるハズだから訊ねてみるといい。」
何を勝手な――そう思っていると、車は既に走り去った後だった――。
完全に置き去りにされたディルフォード、この始末、どうしてくれようか……。
かといって、またあの穴倉まで帰るのも……しかも車で半日の距離……
くそっ、計算していたな! あいつ! ディルフォードは落胆していた。
ディルフォードはリファリウスの知り合いとやらがいるらしい場所へと何ともおぼつかない足で赴いた。
目的も何も見失った彼は言われるままに向かうのみである。
ふん、何をいまさら……自分はリタイアを決意した身の上なのに何故何かしようと歩を進めているのだろうか、
それが不思議だった。
とはいえ、別にあの穴倉に戻らずともその辺で野垂れ死ねばいいという選択肢もあるにはある、
ケンダルスだったら付近の森の中に何かあるハズ……いや、そういえばケンダルスか……
この宗教国家の修行僧たちが森の中に結構立ち入りしているんだっけな……。
しかもそういうお国柄ゆえに死に瀕しているような者に施しをするような者までいる、
野垂れ死ぬまでのハードルはそこそこ高そうだ――あいつ! ここまで計算していたな!
ディルフォードはリファリウスにとにかく腹を立てていた。
「あら♪ イケメンさん♪」
また女……指定された場所でじっとしていると女がやってきた。
まったく、女というやつはますますわからんな。
ところが、もう女という生き物には関わりたくないディルフォードの期待に反し、その女は彼の腕をつかんだ。
「えへへっ♪ 捕まえたー♪」
「なっ、何のつもりだ! 離せ!」
「ヤダ。絶対にヤダ。せっかくだからこの私と一緒にイイコトしーましょ♪」
断固拒否する! ディルフォードはその女から逃げようとした。
よく見るとこの女、プリズム族ではないか!
プリズム女に敏感になっているディルフォードはすぐにわかった。
これまでプリズム女にまつわるイベントとくれば、大昔のプリズム女性との共闘に始まり、
最後はあのラミキュリアという女、それにルシルメアでのあの一件から始まり最後にセイバルの島――
ぐぁあああっ! あんな悪夢は二度とごめんだ! もう絶対に関わり合いになりたくない!
それなのにこの女! 必至になって振り払おうとしているにも関わらず、しっかり握って離さない!
「いいからさっさと離せ! あっちにいけ!」
ディルフォードは必死になって振り払おうとしていた、すると――
「いいから! アンタはこれからアタシと一緒にイイコトするんだよ!
だから四の五の言ってんじゃねーよ! このイケメン男!」
不意を突かれ、腹と顎に1発ずつ食らったディルフォードはそのまま気を失った――