エンドレス・ロード ~プレリュード~

最後の奇跡 第1部 光を求めて 第2章 再起への誓い

第22節 重症

 一方で、今度はさるコンビが辺境の洞穴へとやってきていた。
「ふんふんふん、臭うね、とっても臭うね。」
「本当に、ここにいるのでしょうか?」
「うん、恐らくここで間違いないだろう。 グレート・グランドの北からボートに乗ったみすぼらしい姿の男一人、 そしてそいつがルシルメア行きへの乗船、到着地にて町へと行かずに何もない東のほうへと向かっている妙な乗客、 ここまでの目撃情報に加え、我々がたどってきたそいつが遺していったらしい砂浜の足跡、 しかもまさにこの洞窟の手前の砂で途絶えている、まるでこの洞窟にいますよって訴えているかのごとくね。」
 洞窟の中の主にもその声が聞こえてきた、2人分の声のようだ。 両方女のような気がしないでもないが、片方は――なんだか聞き覚えのありそうな声だった。
 しかし、洞窟の主はそんなのを相手にするのも嫌だった、さっさと消えてほしい――。 しかしその思いとは裏腹にその2人は近づいてきた。もうなんでもいい、自分のことはほっといてくれないだろうか。
 だが――
「やあ、本当にこんなところにいただなんて。探したよディルフォード君。」
 ディルフォード? そう言われた洞穴の主は、そう言えば自分の名前がそういう名前だったことを思い出した。 しかし今はもう違う、自分は何者でもない、もはや完全にすべてを捨てることに決めたのだ、 だからもう誰も自分のことは構わないでほしかった。
「かつて万人斬りと呼ばれた男がこんな洞穴の中で一人寂しく死を待っているだなんて、とうとう落ちるところまで落ちたもんだね。」
 なんとでも言え、何を言われても構うものか、ディルフォードはそう思った。 自分はすべてに裏切られた、そしてすべてを忘れ、人知れずに命を終えようとしている。 もうこれ以上何も失う様を見たくはない、ただそれだけだった。

 両方女かと思ったが、この聞き覚えのある方の声の主は――特にこのどこか得意げな感じのの口調―― 恐らくあいつだろうとディルフォードは思った、あいつはお節介なところがある、まさに今のこの状況がそれを物語っている、ますます面倒な――
 すると、そいつはいきなり魔法を使い、光を発射した。まぶしいからやめてほしかったディルフォードだった。 ディルフォードはその場で所謂体育座りの体勢で項垂れた様子で座っていた。 その傍らには刀が、鎖によって鞘ごと雁字搦めにして抜けない刀が地面におかれていた。
「これはまた随分とヒドイ顔をしているね、せっかくのいい男なのに顔が煤だらけで台無しだよ。」
 そいつは光を、項垂れている彼の顔に光を当てながらそう言った、 構うものか、だからなんだ? 私に何の用だ? 自分はもう用済みだ、もう何をする気力すら湧いてこない―― ディルフォードはそう考えることさえも面倒に感じていた、とにかくその光がうっとうしいからやめてほしい――
「まったく、どうせだったらもう少し身なりを気にしてほしいもんだよ。」
 うるさいな、どうでもいいと言っている! だからほっとけ! ディルフォードはそう願っていた。
「よしよし、ちょっと待ってなよ。」
 何を待つんだ――そう思っているディルフォードだが、そいつはなんと、ディルフォードの顔を拭き始めた――やめろ、いらんことをするな!  ディルフォードは首を上げてぶんぶんと振っていた――
「ぃようし! やっと顔を上げてくれたね!」
 なんと、そいつはディルフォードの顔をがっちりと抱え込み、改めて顔を拭いていた、だからやめろと言ってるだろ――力づくで抑え込まれてなすすべがない。
「ほら、綺麗になった! できればもう少し何とかしたいところだけどとりあえず、こんなもんだろうね、どうかな?」
 解放されたディルフォード、どうかなって――するとそいつと一緒にいた、もう一人の女がディルフォードのことを――
「うふっ♪ ディル♪ 私――」
 その時、ディルフォードの脳裏にはあの時の光景が呼び覚まされた――

「ねえお願い、私をもう一回抱きしめて――」
 エレイア――ディルフォードは彼女の言われるがまま、再び彼女を――
「ああっ、ディル……私、とっても幸せ……。あなたと一緒にいられるだけでも幸せ――」
「私もだ、エレイア、エレイア……私はお前のことが――」
「ううん、もういいの、今までありがとう。私、あなたのことを一生忘れないわ――」
「私もだ、エレイア、私もお前のことを一生、忘れない――」
 一生忘れない……? そのセリフになんだか違和感を覚えていたディルフォード、すると――
「私、こんな淫らな女になってしまったの。ディルだってこんな女いやでしょう?  だから本当にゴメンね、これが最後だから。あなたはとっても優しいし、とってもいい人なの。 だからあなたは、あなただけは私という腐った女の元にいたらいけないわ。 私からの最後のお願いよ、ディル。あなたはここから離れるの。 そして、私という腐った女のことなんか忘れて幸せに暮らしてほしいの。 だからお願い、私のことはもう――」

「ぐっ! ぐあああああああっ!」
 ディルフォードは手元にあったあの剣を、抜けない剣を取り出してそのままぶんぶん振り回した。
「やめろっ! やめろぉおおおおおっ!」
 ディルフォードを抱いた女は即座に放れ、もう一人の後ろに隠れた。 そいつはディルフォードの剣に対してうまい具合にあしらいつつ、自分の後ろに隠れた女性に話をした。
「ごめんね、変な役やらせて。」
「いいえ! むしろ私のほうこそ感謝ですわ!  ディルフォード様のようなお方にこんなこと……夢のようですわ!  本当に、エレイアさんが羨ましい限りです――」
 エレイア、だと――そのワードにディルフォードはひどく反応した。
「やれやれ、これは重傷だね、まさかとは思ったけど――。 ということはつまり――自分の彼女が敵に取られ、挙句の果てに彼女からは自分を忘れてって言われ、 それで人生を捨てようとしているというところか――」
「ですね! 私もエレイアさんの気持ちがわかります!  そしてエレイアさんを失ったばかりに何もかも失ってしまっただなんて考えるなんて――そうまで思われているエレイアさんは本当に幸せ者です!」
「だね! 彼女の気持ちが痛いほどわかるね!  だけど自分の思い人のためを考えればこれが最善だっていう決断……これこそが”愛”ってやつだね!」
「ですです! 間違いありません!  エレイアさんは愛しているからこその決断で、ディルフォード様だって愛しているからこそがっかりしているんです!」
 だからなんだ? ディルフォードはむっとしていた、こんなところでガールズトークに花を咲かせてんじゃない、と。 片方は男だと認識しているが、女声でも通用するあたり、なおのことうっとうしく感じていたディルフォードだった。
「ごめんごめん、話が脱線してしまったようだ。 とにかく、キミにはこの世界からリタイアしてもらうのはまだ早いと思ってわざわざ探しに来てやったんだよ、ありがたいと思いな。 ほら、そうと決まったらさっさとここから出るんだ、こんなところにいつまでもいられるほど私も暇じゃないんだ、さっさと出るぞ。」
 ディルフォードは無理やりその場から外へと放り出された、勝手なことを――彼は頭を抱えていた。 ここへきてなんでこんな目に合わなければいけないのか。