エンドレス・ロード ~プレリュード~

最後の奇跡 第1部 光を求めて 第1章 すべてを失った時

第13節 戦の装い

 その日、オウルを出発しようと2人は里を発つことにした。 オウルの里を荒らしているセイバルに対抗するためである。 仲間たちを取り戻すために戦いに赴くのである。
 だが――出立の日のオウルの里はどういうわけかやたらと静かだった、ディルフォードは不気味に思っていた。
「そう?」
「思い過ごしであればいのだが――」
「でもさ、それって多分、大勢亡くなったからじゃないかな……?」
 人口が減って活気が薄れたのだろうか、それにしては異様な静けさだが、それでも確かに一理あった。 そもそもまともに動ける連中はすでにグレート・グランドの北東部にある通称”シェトランドの島”、 今はそこが激戦の地、2人も今そこへ向かうところである。
 ただ――いつもだったらどこかでどんちゃん騒ぎをしていてもおかしくはない連中の集いなので、 それがないというのはなんだかとても寂しいものがあった、そう、少人数でも活気があるはずなのだ、本来であれば――

 島へはレザレムの港からグレート・グランドのティルアへ上陸、 そして島に向かう同族の船主を探しだし、向かう手順がある。
 船主にはたまたま出くわすこともあるが、 一番確実なのはバルティオスのお城の酒場のマスターに話を付けること。 それで船主に会えない場合は代わりにボートを用意してくれるので、自分で動かす必要があるだ。
 案の定、エレイアにはその島の記憶がないようだけど、 実際には何度か来ているハズ、なんとなくだが覚えているような気がするのだそうだ。

 ところが、シェトランドの島はディルフォードの知っている島とはもはや様相が異なっていた。
「よう、ディル! ちょうどいいところに来てくれた! 頼むからあれを何とかしてくれ!」
 到着するや否や、いきなり戦場の装いだった。
「どうしたんだ? やってほしいだと?」
「頼むよ。ディルにしかできないからさ!」
 アスダルは調子のいいやつだ、自分でもできる癖に人にやらせるとは――ディルフォードは少しイラっとしていた。
「まあいい、こんなところにまでセイバル軍がいるのも不愉快だ」
 そのイラつきをアスダルは察していた。
「わ、わぁってるよ! 俺だってやるからさあ!  今オウルの連中がやってくるってんで……ほら、オウルの連中ってここの島の連中よりも腕が立つ連中ばかりだろ?  だからせっかくだし……なぁ?」
 ったく、横着したいばかりにか……ディルフォードは呆れていた、仕方がない―― 彼は万人斬りらしく剣を振り払い、対象となる敵をすべて一掃した。
「そうだ、イールはいないのか?」
 ディルフォードは出し抜けに聞いた。
「イールか? 戻ってねえぞ。リオーンもバルティオスにいるし、ワイズもまだオウルだろ?  つまり、連中は鬼の居ぬ間にやってきたんだ、卑怯な連中だよなぁ!」
 確かに卑怯な手口だが、そうでもしないと連中はシェトランドに勝てないのだろう。 それならば仕方がない、ディルフォードは敵に同情していた、ほんの少しだけ……。
 そういえば、オウルの里からの援軍もやってきているハズだが彼らはどこにいるのだろうか? ディルフォードは訊いた。
「そのオウルの連中はどこにいるって?」
 アスダルは悩みながら答えていた。
「一応、島の周りの防備を固めてもらっているって聞いてるんだけどな――」
「固めている割に侵攻されているようだが」
「ああ、助けに来てもらっていて言うことじゃねえんだが、もうちっと早く来てほしかったなぁってな……」
 早い話、助けに来るタイミングが少し合わなかったということらしい、それはオウル組としては不覚であるところだな、 ディルフォードは反省していた、自分だってこれまで――
 それにしても、この機に乗じて一気に連中が侵攻してくるというのもなんだか珍しい光景だった。 とはいえ、見た感じ、せっかくの鬼の居ぬ間なのに一気に侵攻してくる数が思ったほど多くないのも妙な感じだった、 それこそもっと大人数でぞろぞろとやってきてもいいはずなのに、先ほど切り捨てた連中の数のなんとも貧弱なこと、 どういうことだろうか、アスダルに訊ねた。
「そいつは俺も気になった。もしかしたら何かを警戒しているのかもしれないな」
 そうなると、やつらが気にする必要があるのは一つだけ――
「ディスタード軍? 確かにセイバルのバックには今はリベルニア軍が付いていたはずだ。 ディスタードとの衝突を避けるべく、目立った動きができないってことか」
「そうさ。ディスタードに目をつけられたらリベルニアとディスタードとの戦争になっちまう」
 そう言われてディルフォードは悩んだ。
「……それはそれでまた妙な話だな。 なんたって相手はあのセイバルだ、大昔にセイバルと与した陣営の中ではもはや目の上のたん瘤とも言われていたほどの問題児だったとも言われている奴らだぞ、 そんなんが例え仲間内であっても他所の勢力のメンツや衝突の可能性を考えたりするもんか?」
 そう言われてアスダルは悩んでいた。
「え? そうなのか!? んでも、そう言われたら連中らしいっちゃあ連中らしいところだよな。 でも、そのセイバルと与した陣営の連中もよくもまあそんなセイバルと徒党を組むことができたもんだなぁ……」
「”神授の御魂”と”二つの御魂”を研究していたからだな」
 ディルフォードに言われてアスダルはピンときた。
「お前、やっぱり頭いいよな! そうか、早い話兵器開発で優位に立ってから手を組んでいたってわけだな!」
 いや、少し考えればわかるだろ、ディルフォードは呆れていた。こういうところはシェトランドあるあるである。
 しかし、そんなセイバルやそいつらと手を組んでいるような連中のせいで新たな悲劇が生み出され、 ディルフォードをはじめとする戦争の駒もあちこちに飛ばされる。
 もちろん、そうなると彼にとっては里に潤いをもたらすための商売になるわけだが、それでもあまりいい気はしない。 背に腹は代えられないということか。

 ディルフォードとエレイアはアスダルに連れられ、集落の長の家へとやってきた。 相変わらず広くてぼろい家だった。
「あら? もしかしてディルとエレイア?」
 なんとも珍しい顔に出会ったことでディルフォードは驚いていた。
「ローナか、戻っていたんだな」
「ええ。でも、しばらくしたらディスタードにまた戻るつもりよ」
 彼女の名はローナフィオル。 彼女はオウルの里で暮らしていた……という建前だが、実際の出生地は不明である。 実はその特徴はディルフォードも同じであり、彼自身も自分の出身地についてはよくわかっていない。 それに建前という通り、ディルフォードも彼女がオウルに住んでいたのかどうかはっきりしないのである、 そもそも里で出会ったことさえないからである、もしかしたらいたのかもしれないが……。
 さらに言うと、ディルフォードと違って過去の記憶がないというのがある――どこかで聞いたような。 そんな彼女だが、今はディスタードのガレアで暮らしていて生計を立てている、 つまりはガレアの帝国軍に所属しているのである。
 なお、彼女もまたシェトランド人の中では3大美女の1人として知られている存在でもある。
「エレイア! 亡くなったって聞いたよ!」
 ローナフィオルはエレイアを心配しながら言うと、エレイアは襲る襲る言った。
「う、うん、大丈夫、私はちゃんと生きている――」
「へっ? エレイア、何かあったの!?」
 エレイアのその話し方に異変を感じたローナフィオルに対してディルフォードが言った。
「彼女、記憶がないんだ、だから――」
 ローナはエレイアの手を握って言った。
「なあんだ、そうだったのね。でも無事でよかった、本当によかった――」
 ローナの目には涙が。しばらくそっとしておくことにしたディルフォードだった。