ある日の夜のこと、ディルフォードはその時もまた窓辺に立って、
またオウルの里の方角のほうを向いて目を瞑り、腕を組んだままじっとしていた。
「ねえディル、どうしたの……?」
ディルフォードは微動だにしなかった。しかしそれに対してエレイアはディルフォードを誘うように言った。
「寂しいわ……こっちに来て、私をしっかりと抱き締めて――」
しかし――
「胸騒ぎがするのだ」
ディルフォードはそう言った。すると、彼女は起き上がった。
「やっぱり、残していった自分の種族のことが気になるのね」
「すまない、私はどうやら行かねばならんようだ」
彼女は頷いた。
「うん、そう言うと思った」
「本当にすまないと思っている。しかし私は行かねばならんのだ」
どうしても行かなければならない気がする――ディルフォードは落ち着かなかったのだ。
すると彼女は――
「そう。なら、私も一緒に行くわ」
なっ、何を言うのだ、これはシェトランドの問題、
彼女を巻き込むわけには――ディルフォードはそう言うが、彼女は首を横に振った。
「ねえ、約束してくれたよね、私と一緒にいてくれるって」
そっ、それは――ディルフォードは困惑していた。
「私はあなたと一緒にいたいの、たとえどんな目に遭っても。
私はエレイア、あなたの幼馴染と似た女、本物とは違うかもしれないけれども、
私があなたに出会えたのは彼女のお陰、
そうでなければ私はあなたとこんな生活を送るなんてことさえ出来なかったでしょうね。
だからあなたの幼馴染のエレイアの住んでいた里も知りたいし、
何よりあなたから離れたくないの! だからお願い!」
ディルフォードはその熱意に圧され、仕方なしに了承した。
恐らくダメと言ってもついてくるに決まっている、
なら、はじめから了承しておくのがベストだろうか、そう思ったのである。
フェルダスからならレザレム行の船に乗れば後はオウルまで陸路でたどり着く。
船は5日かかって到着する見込みだった。
「風、気持ちいいね!」
ディルフォードはエレイアのその表情になんだか安心したような感覚を覚えた。
やっぱり、エレイアは明るくて美人面が際立つ存在である、
自分の中の記憶にある彼女もまさにそういう存在だった、彼女はやはり同じ存在なのだろうか。
2年一緒に彼女と暮らしていたが、何度もそういう感じを思わせる彼女、どういうことなのだろうか。
ただ――潮風が気持ちいいのはわかるが、ディルフォードは注意を促した。
「潮風に当たりすぎると髪がベタベタのバサバサになる」
それさえなければ申し分ないのだが、ディルフォードはそう続けると、彼女は眉をひそめて言った。
「うん、何かそんな感じがしてきた。長居は禁物かな」
しかし、それでも2人は仲良く船旅を満喫した。
だが、その船旅において、何やら不穏な空気を感じ取ったディルフォードだった。
それは次の日のこと――
「どうかした?」
お風呂上がりのエレイアはいい香りを発しながら難しい顔で何やら考えているディルフォードに対してそう訊いていた。
「いや、さっき、なんとも妙な違和感を感じたもんでな、それで船をぐるっと見て回ってきたのだ――」
「そう……それで? 違和感の正体はつかめた?」
「ああ、変なことを言うようだが……妙に乗客が多すぎるような気がするのだ」
どういうこと? エレイアは訊いた。
「フェルダスからグレート・グランド行の船に向かうような連中ならいくらいてもおかしくはないが、
それでも、いくら何でも船に乗っている連中の数が妙に多すぎる気がしてな――」
そうなの? エレイアは訊いた。
「もしかして、何か起きようとしている?」
そういわれてディルフォードは腕を組んで悩んでいた。
「ありうるな――ここのところ、変な紛争があちこちで起きている、
だからもしかしたらそのために人が移動しているということかもしれないが――」
だとしたら何が起きようとしているのだろうか、ますます胸騒ぎがするようだ。