エンドレス・ロード ~プレリュード~

最後の奇跡 第1部 光を求めて 第1章 すべてを失った時

第4節 密かな暮らし

 こうして、ディルフォードは彼女との出会いを果たし、それからは長らく過ごすこととなった。 そうなるまでにほとんど時間はかからなかった、それなりの理由があったからである。
「そう言えば名前、まだ知らないよね?」
「私はディルフォードだ」
「へえ! 素敵な名前! 私の名前はエレイアっていうの!」
 エレイアだって!? ま、まさか……彼女と同じ名前なのか――ディルフォードは驚いていた。 しかし、冷静に考えてみれば人の名前なんて、同じ名前なんていくらでもいる。 だがしかし……顔もなんとなく似たような顔立ちをしているあたりも、なんていうか……。 ディルフォードは悩んでいた。
「エレイア、最初の元カレが亡くなったのはいつの話だ?」
 ディルフォードはそう訊くと、彼女はいきなり喜んだ。
「嬉しい! 私の名前を間違えずに呼んでくれた!」
 え?
「しかも初対面なのに、呼び捨ててくれるだなんて――」
 迂闊だった、確かにエレイアなんて名前、昔はよく呼び間違えてエレイアを怒らせたりしたもんだった。 そう言うこともあってか、今では間違えることなく普通に呼ぶことができる、 とはいえ、この場合はどう言うのが正解なのだろうか、ディルフォードは再び悩んでいた。
「わ、悪かった、今のは――」
 流石にいきなり呼び捨てはまずいか、そう思って繕おうとしたディルフォードだったが、今更遅かった。
「ううん! 私のことはそう呼んで! 私もあなたのことはこう呼ばせてもらうわ、”ディル”♪」
 声も似ているし、その呼びかたも彼の知るエレイアとしか思えなかったようだ。

 そんなこともあって、彼女と暮らし始めることになった。 気がついたらルシルメアの南にあるフェルダスの港の空き家で過ごしていた。
 その暮らしは少々不便なところもあったが、ディルフォードとエレイアはお互いに仲良く過ごしていた、 イールアーズあたりがこれを知ったらどう思うだろうか。
「ディル♪ ご飯できたわよ♪」
「エレイア、おはよう。おいしそうだな」
「うん! ディルが採ってきてくれたおかげだよ! やっぱりディル、流石だね!」
「エレイアがいるから私も頑張れるんだよ」
「わあ! 嬉しい! 私、ディルのお嫁さんになれるように頑張るからね!」
 ディルのお嫁さん――そういえば、あのエレイアもそんなことを言ってたっけ、ディルフォードは思い出した。
「俺はこういうオヤジだからな、あんまりあの娘には懐かれもしなかった。 だが、エレイアはお前にゃあすげぇ懐いていたからなぁ――。 だからいつでもこんなオヤジからさっさと持ってってくれればいいって思っているぜ」
 それはワイズリアのセリフだった、エレイア――私は――そんなことを考えていると、 彼女は気になって話しかけてきた。
「どうかした?」
 ディルフォードは我に返った。
「いや、なんでもない。せっかくだから温かいうちに食べてしまうか」
「はーい! いっただきまーす♪」

 その日の夜はディルフォードは窓辺に立って、またオウルの里の方角のほうを向いて目を瞑り、腕を組んだままじっとしていた。
「ねえディル、どうしたの……?」
 ディルフォードは微動だにしなかった。しかしそれに対し、エレイアはディルフォードを誘うように言った。
「寂しいわ、こっちに来て、私をしっかりと抱き締めて――」
 そう言われたディルフォードは考えるのをやめ、エレイアのほうを向いた。
「そうだな、今はエレイア、お前と一緒にいるべきか」
 そう言いつつ、ディルフォードは彼女の背後へと入り込み、後ろから優しくエレイアを抱きかかえた。
「おやすみ、エレイア」
「お休み、ディル♪」

 彼女と暮らし始めてから2年も経過した。 依然としてフェルダスの港で暮らしをしている2人、その仲もかなり親密なものとなっていた。
 2年も経っているとエレイアとは何でも話せた。 ディルフォードの知るシェトランド人のエレイアのことから里での生活まで。 流石に戦争の話まではしなかったが、それでも戦争に駆り出されていた程度の話はしていた。
「ディル♪ ご飯できたわよ♪」
 朝シャワーのシャンプーのいい香りに包まれた彼女は楽しそうにそう言う、 朝シャワーは彼女の日課なのか、ほぼ毎日のことである。 時折、汗びっしょりのこともあるのだが、いつも寝汗をかいているらしく、 朝起きたら速攻でシャワーを浴びているんだそうだ。 だが――いつも一緒に寝ているのであれば汗をかいていることがディルフォードにも伝わるハズ、 それなのに――ディルフォードは彼女を抱いて寝ると大体そのままぐっすりと眠り込んでしまい、真相は結局わからずじまいである。
 なお、この時のディルフォードは北西の空を見上げたまま返事をしなかった、向こうはシェトランドの里がある方角――
「胸騒ぎがするのね。私もなんとなくだけど、感じるわ――」
 エレイアがそう言うとディルフォードは黙ったまま椅子に座り、エレイアと一緒に朝ごはんを食べ始めた。
「故郷に帰りたい?」
「いいや。第一、私は里を捨てたのだ、今さら戻ることはできない」
 しかしエレイアは――
「でも、”もう一人の私であるエレイア”との思い出の地じゃない、行ってあげたら彼女も喜ぶわ」
「そう思うか?」
 一方でエレイアの話のほうはなんだかおかしかった。 プリズム族ではあるが、プリズム族の里のラブリズに行ったことはないという。 しかし、それなのに故郷はラブリズであるなどと言っているあたり、どういうことなのかがよくわからない。 元カレと暮らしていたという話についても何だか変で、一緒に暮らしていたという話はなく、 特定の相手がいたということでもなく、ただただいろいろな男を物色して遊んでいただけかもと、なんだか妙な話である。
 でも、もしかしたら精神的なショックが大きすぎて、記憶がはっきりしないというようなことも言っているので、 それを信ずるほかないようにも思える、ここまで来たのだから彼女を信じることにしたディルフォードである。