しかし、ディルフォードの胸騒ぎはそれだけにとどまらなかった。
「えっ、どうかした!?」
ディルフォードはエレイアの姿を見るや否や、なんだかほっとした面持ちだった。
「いや、急にエレイアの姿が見えなくなったからな、それから結構時間もたっていたし――」
なぁんだ、そんなことか――エレイアもまたほっとしていた。
「流石に船の上だし、私はどこにもいかないよ!」
エレイアは笑っていた。
「それはそうなんだが、私が心配していたのはそういうことじゃない」
どういうことだろうか、エレイアは訊いた。
「乗客の顔ぶれを確認する限り、何故か男ばかりなのだ」
そう言われて彼女は驚いていた。
「えっ、本当!?」
ディルフォードは首を振った。
「全員が全員そうかはわからん、だが――私が見る限りは男しかいないように思えた、だから――」
それに対し、エレイアは嬉しそうに言った。
「つまり――ディルってば、私が他の男たちに絡まれたりしていないか心配してくれたのね♪」
そういうことになる。
「ありがとディール♪ 私はここにいるわ、だから安心してね♥」
エレイアは妙にかわいく振舞いつつそう言ってディルに甘えてきた、だが――
「ん……? エレイア、なんか濡れていないか?」
これは汗か……? ディルフォードはすぐさまっ気が付いた。
「あっ、ごめーん! またシャワーを浴びてくるね!」
それについては汗っかきの彼女のことなので今更だが――
それにしても、なんとも妙な船旅であった。
そして――
「何か、緊張するね――」
レザレムにたどり着いた。緊張感に包まれていたのはエレイアだけでなく、ディルフォードもそうだった。
自分の故郷へ向かっているというのに、どういうことだろうか。
改めて、船旅での不穏な空気を思い出していたディルフォード、何事もなければいいのだが――。
とりあえず、まずはエレイアのためにホテルを借り、潮風でやられた髪を何とかするため、シャワーをしていた。
「うふっ♪ どう? ここのホテル、いいシャンプー置いてあるよ♪ いい香りするでしょ♪」
「まあ、そうだな」
ディルフォードも使ったことはあったが、意識したことはなかった。
せっかくだから自分も入ってくるかとディルフォードは考えた。
確かにエレイアは魅力的ではあるけど、
如何せんディルフォード自身はこういう性格だからエレイアもあまり楽しい想いとか出来なかったのかもしれない、
今のエレイアだってそうだ。
だから果たしてこのままでいいのか、些か疑問ではあった。
しかし、今のエレイアが彼の幼馴染みと同じ名前で、顔立ちも声も似ている彼女がそれでいいというのであれば、
ディルフォードは敢えてそれを問いかける必要もなさそうであった。
「ねえ、一緒に寝ようよ!」
彼女は寂しがりで、いつもそうだった。
そして朝、いつもどおり目が覚めると、彼女は先に起きていて――
「あっ♪ おはよ、ディル♪」
朝シャワーを浴びた後だった、いつも通りの彼女……ディルフォードは妙にほっとしていた。
あの後、ホテルの朝食をとり、オウルへと向かうことにした。
「なんか、嫌な臭いがするね――」
どういうことだかわからないが、血の臭いがしてなんだか物々しい雰囲気が漂っていた。
「エレイア! お前はここにいるんだ!」
「えっ、どうして!?」
それは……明らかに魔物がいる気配だった。
それも結構な数の魔物の気配、だからエレイアはここで待っていてほしいとディルフォードは願った。
「ここで待っていてほしいんだ。大丈夫、必ずお前の元へと帰ってくる、約束だ!」
「わかったわ、私はここであなたの帰りを待ち続けるわ!」
そう言ってディルフォードは剣を取り出しながら魔物の気配のする方へと走っていった。
何のことはない、どれほど魔物がかかってこようが万人斬りと称された男にとっては障害とはならない存在だった。
しかし――胸騒ぎがしてならなかった、
急に不安になったのだ、それは――残していったエレイアのほうから悲鳴があがったことがすべてを物語っていた、
ディルフォードは慌てて戻った。
「エレイア!」
案の定、狼の魔物数匹がエレイアに襲い掛かっていた、間に合うだろうか――
ディルフォードは剣を引き抜きながらその場へと向かっていた。
「私は、私は――」
くそっ、間に合え! 邪光の衝撃波を放ち、魔物へと遠隔攻撃を放った。見事にヒットしたが、数が多すぎた――
しかしディルフォードはあきらめず、さらに立て続けに、一心不乱に剣を振り続けた。
だが、もはやこれまでか、万人斬りという存在はやはり無力なのか――
「私は――」
ディルフォードはその場で立ちすくんでいた、
だがその時、エレイアに魔力が集中する!
「仇成す者への魂の裁きを! 集え、<ライトニング・ストリーム!>」
ま、まさかあの稲妻は! ディルフォードは驚いていた。
「喰らいなさい!」
エレイアの放ったすさまじい稲妻の魔法で周囲の魔物は一蹴された。
しかし、今の魔法、あの魔法が使える者はディルフォードは他に知らなかった。
「エレイア! まさか本当にあのエレイアなのか!」
ディルフォードは確信した、間違いない、彼女は”雷の娘”と呼ばれ、
自分の知っているあのエレイア、幼馴染のあのエレイアで間違いない!
「ディル! 私にこんな力があったなんて――」
エレイアはその場で立ちすくんでいた。
だけどもう何も言わなくていい、ディルフォードはそう言ってエレイアを大事そうに抱きかかえた。
そう、彼女はどういうわけか生きていたのだ、それだけでもディルフォードは嬉しかった。
昔の戦で多くの仲間が亡くなった、しかしエレイアは無事だった、ディルフォードの心が救われた瞬間だった。