エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第2章 策士の真骨頂

第19節 最高額納税者リリアリス

 再びクラウディアスの株式市場にて……
「なんなんだあの人……」
「予想はしていたが、本当にグレート・グランドまで買っちまったな……」
「てか、グレート・グランド株は軒並み落ちているからな。 正直、タイミングが悪かったとしか言いようがないな」
「美人補正ってやつでも働いてるんだろうか……」
「補正が働きそうな性格はしてねえけどな」
「だけどやばいよな、シルグランディア・コーポレーション。買えば買うほど儲かるからな――」
 またしても、今度は世界の株式史においても1位2位を争うほどのビッグニュースが報じられたのだった。 シルグランディア・コーポレーション……予定通りじゃねえか。

 リリアリスはテラスでまたしてもじっと寝そべっているだけだった。
「自社株の勢いが強いのが理由か――」
 スレアは訊くとリリアリスは頷いた。
「ええそう。 何をどう頑張っても、現状ではうちが儲かる仕組みしかできていないのが最大の理由よ。 知っての通り、クラウディアスの地盤と言えば鎖国していたせいでまさにゆるゆるな状態だからね。 無論、こんな状況は長続きしないから今後はちょっと趣向を変えていく必要はあるかもだけど、 とにかく、発展途上な今のうちにやれることをやってせっせと稼ぐことで潤沢な事業資金を得られるってワケね。 そこでクラウディアスって言うネームバリューの付加価値を乗せて売り出せば――」
 ってか、それじゃあ虎の威を借る狐じゃんか。
「そんなの、商売の鉄則でしょ?  だいたい、たとえどんなにいいものを作り出したとて、実際に手を取ってくれなきゃわからないでしょ、 だからそのきっかけを作るためだったらグリーンな狸だろうがレッドな狐だろうが何者にだってなるわよ、決まってんでしょ。」
 いやいやいや、色を付ける必要はねえだろ。つか、色のチョイス……
「確かに、クラウディアスって名前がついている商品だったら信頼性は高いわな、それなら買うに決まっているか……」
 スレアは考えた。
「そうよ。それだけの国内での売り上げと信頼性があれば我が社の業績は間違いなしってわけよ。」
「確かに、あんたの狙い通りお宅の会社は投機の対象になっているな。 ここんとこ、お宅の会社とくれば連日ストップ高を記録し続けているし――」
「そこは上場したばっかりだから仕方がないわよね。 そのおかげで今のところはザ・一流企業的なポジに落ち着いてきているからいい感じよね。」
「だな、新参者のクセに、やっぱりエルクレンシャルとアジャールを買っちまったのが未だに信じらんないな」

 と、やたらと経済の話になっているのだがいかがだろうか。 そう、クラウディアスにはこういう人間がいるからこそ順調に再建してきているのである。
「す、すげ――数多のクラウディアス貴族を抑えて堂々の一位……」
 ラシルは何かを見て絶句していた。
「なんだ? どうしたんだ?」
「スレア、これ、見てよ……」

 その後、2人はリリアリスの元へとやってきた。
「どうしたの?」
 ラシルはその書類を見せた、すると――
「おっ! 一位じゃん! やったぜ!」
 やったぜって、いいのかよ――スレアは訊いた。
「別にいいんじゃない? 何か不都合でも?」
「不都合もなにも、全部税金として取られてるんだろ?」
 そう、その書類は税金納付額における、所謂長者番付的なものだった。 リリアリスの順位はなんと、数多のクラウディアス貴族を大きく突き放しての堂々の1位だった……。 なお、個人保護の観点からこの資料はあくまで関係者の中で、 所謂税金納付のチェック機構を働かせるためのものとして極秘に取り扱っているものである。
「取られるも何も、その使い道を決めるのは基本的に私らだからね。」
 あ、それもそうか、2人は考えた。
「それに今のクラウディアスは何かともの入りの状態だし、ちょうどいいんじゃない?」
 それなら寄付という手段もあるはずだが――
「いいえ、納税だからこそいいんじゃないのよ♪」
 どういうことだ?

 それは――こういうことである。
「リリアリス=シルグランディアだと……!?」
「あの女! 我々を出し抜きおってからに!」
 そう、貴族会――彼らを突き放しての堂々の高額納税者、 つまり、彼らよりも金持ちであることを堂々と見せつけられたのだった――。
「くっ! ど、どうするつもりだ!? このままではあの女、やりたい放題だぞ!」
「何を言うか! こんなもの、ただの偶然でしかあるまい!」
「だが! 現状はシルグランディア・コーポレーションはまさに投機の対象!  たとえ偶然だとしてもこの状況が長らく続くようならば結局あの女のシナリオ通りにしかならんのだぞ!」
「くっ、それもそうか――」
「いや、策はあるぞ! 我々がシルグランディア・コーポレーションを買えばよいのだ! さすれば――」
「やめておけ! あの株はあの女がしっかりと握っておるのだ! ほかの誰にも渡さんとばかりにな!  事あるごとに自社株を大量購入しているところを見たのだ! これ見よがしにな!」
「見よがしとな? まさか、我々への挑発のつもりか?」
「だったらその挑発に乗ってやろう! あのような会社! 私の手にかかれば一捻りだ!  さあ、どうあがくか見せてみるがいい!」
「お、おい! だから辞めろと言っている! あの女の思うつぼだ!」