クラウディアスの株式市場にて……
「おお!」
「とうとうやりやがったな! シルグランディア・コーポレーション!」
「す、すげえ……」
「どうしたらあんなことするっていう発想にたどり着くんだ!?」
その日はまさにクラウディアスの株式史においても1位2位を争うほどのビッグニュースが報じられたのだった。
シルグランディア・コーポレーション……だいたい想像がつくが。
アリエーラはクラウディアスに帰って来るや否や、
とんでもない状況ゆえにいつものテラスからその光景をじっと眺めて唖然としていた。
「表に報道陣がずらっと並んでいますね――」
という光景である。
それに対してソファーベッドの上にひっくり返っているリリアリスは答えた。
「ホント、面倒くさいわね。
でも、残念ながら今は入城規制期間中だから申し訳ないけど職務中は取材お断りってところね。」
職務中とは? スレアはリリアリスの様子を見てそう思っていた、あんたひっくり返って本を読んでいるだけだろうが。
「すみません、状況を把握していないのですが、一体何を――」
アリエーラは疑問に思いつつ訊くと、スレアが答えた。
「エルクレンシャル・ホールディングス……
クラウディアスではまさに指折りとも呼ばれるような一大企業を買収しちまったんだよ」
「それを言うならエルクレンシャル・コーポレーションね。
業績が落ち込んでいるエルクレンシャル・ホールディングスのグループ会社の一部を買い取ったのよ、
要はうちの子会社にするっていう算段ね。
エルクレンシャル・コーポレーションは前々から狙っていて、ここだっ!
って思った時に一気に大量発注させてもらったからねー。」
毎度のことながら、本来であればどう考えても不可能に近いことを何食わぬ顔で平然と語るリリアリス、もはや手におえない。
スレアは悩んでいた、彼だけではないが……。
「大量ったって……いくら業績落ちてても天下のエルクレンシャルだぞ、
大暴落しているのならまだしも、そんなにあっさりと大量購入できるもんか?」
リリアリスは両手を広げつつ答えた。
「まあね、正直言ってかなりの無茶だったことは認めるわね。
それこそ後先考えずに自社の事業資金に手を付けてまで仕掛けているからね。
それからは止む無く借金生活よ。予定としてはとりあえず2週間程度で元が取れるつもりなんだけどさ。」
いやいやいや、つもりって本当かよ……やっぱりこの人、ギャンブラーだ……。
「そこまでしてエルクレンシャルが欲しかった理由は?」
スレアはそう訊くとリリアリスは得意げに答えた。
「言ってしまうと、どこもかしこも立地条件のいいところに店舗構えているからね。
その点ではうちのシルグランディア・フランネル……雑貨屋さんも負けてはいないと思うけど、
実のところ、エルクレンシャル・コーポレーションの展開している事業もそっち系なのよね。」
まさかの同業者……つまり、ライバル会社を蹴落とすため!?
「でも、言っちゃ悪いけど、エルクレンシャルのブランドってちょっと古臭くいないか?」
スレアが訊くとリリアリスは指をさしつつ言った。
「そう、まさにそれよ。
以前は少ない選択肢ゆえにお客も何も考えることなく決まったほうへと行くしかなかったんだけど、
うちが参入してからがさあ大変、選択肢が多くなりトレンド的にもどんどんうちのほうへと流れ込んでいったっていう背景があるってワケね。」
つまり、エルクレンシャルの業績悪化ってシルグランディアが参入したからってことじゃないか……
「といっても時代の流れってのはそう言うものだからね。
やがてはエルクレンシャルも地に落ち始める……そこに私って言う救世主が現れてエルクレンシャルを救ったと、
そう思ってもらいたいものね。」
「ということは……今回の買収って円満的買収だったってこと!?」
「ええそう、友好的TOBというやつね。
そういうこともあって、エルクレンシャルの商品については懐古ブランドという名目で細々と残そうって方針にしているのよ、
一応エルクレンシャルを支持している層もいることだしね。
んで、一方で残りのエルクレンシャルの事業については今後もあっちで継続していくみたいだからそっちには手を付けないつもりよ。
ただ……」
……ただ?
「まあ、あっちもそろそろ再建を迫られる時が来ると思うから、
その際はありがたくグループごとごっそりと買わせてもらおうかと思ってね。」
結局買っちまうのかよ!
「だって、そうしないと今度は外資に取られるだけよ、
友好的な買収もあれば敵対的な買収というのもあるからね。
そうなると、むこうはうちに泣きついてくるしかなくなるしさー♪」
まさか、足元を見て……!? なんて女だ……やっぱりやばいぞこの女……。
「よしよし、ここまでは予定通りね。
そしたら次はグレート・グランドのアジャール・ロイヤルの番ね。」
また買収する気か! つくづくやばい女だな!
「アジャール・ロイヤルの業績は好調なんだが……」
その場にいたクラフォードはボソっと呟いていた。
「知ってるわよ。でも、絶好調なうちには勝てないわね。
だから、例えホワイトナイトを味方につけたところでうちには勝てない予定よ。
さーてと、期限は1か月後、アジャールが降参するまでの準備と努力のビクトリー・ロードを突き進みましょうかしらね。」
しかも期限切ってるし……。
「多分うちが動いているのを把握しているハズね。
それでアジャールも対抗策を用意しているのは見ればわかんのよ。
恐らく、国に泣きついて何とかしているところなんでしょうけど、
調査したところ、残念ながらバルティオスの状況的にそれは難しいと言わざるを得ないわね。
というのも、バルティオスは今やIT事業展開に舵を切っているところで、
それでいてなおかつバルティオス・ウォータ出荷の最盛期のせいで資金繰りに一番苦慮する時期、
そう簡単に助けることができないことはすでにわかっているのよねぇ♪
そんな状況で自分たちの身をどこまで守れるのかしら? ふふっ……」
まさか、そんな状況を見越しての1か月先!? やっぱりやばいぞこの女、一体どういうつもりなんだ――。
「え? どうって? 別に? ただ買えそうだから買うだけの話よ。
それにどうせ買うんなら利用価値の高いところを買ったほうがいいじゃん?
それに金なんて買い物するためにあるんだし、不用意に余らせておいたって意味ないでしょ?」
やっぱりこの人、ギャンブラーだわ……。
「確かに! リリアさんの言うとおりですね!」
アリエーラさん、同調しないで……。