エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第2章 策士の真骨頂

第20節 安定のリリアリス

 その日、リリアリスはアリエーラと一緒にアクアレアの海岸におり、釣りをしていた。
「なにやってんだ?」
 そこへクラフォードがやってきた。
「あんた、何処へでもやってくるわねぇ。」
「まあな、話したいことがあってな、 そろそろITの件について報告書を書きたいんだが、俺の頭じゃあいまだに理解が追い付いていないところがあってな。 それでラトラに訊いたんだが、あんたに訊いてくれって言われてな」
 なるほど――リリアリスは考えた。
「まあまあ待ちなさいな、釣りってのはこう――辛抱強く待つものよ。」
「巻きエサでも巻いたらどうだ? そしたらうじゃうじゃとやってくるぞ?」
 クラフォードは言うがリリアリスは否定した。
「大丈夫、もうすでにエサは撒いた後だからね。 でも、多分賢い奴はそう簡単に引っかからないと思うのよ。 だからとりあえず、頭の悪いのが1尾でも釣れれば十分なのよね。」
 なんとも謙虚だな――クラフォードはそう思っていると、その背後からラシルが慌ててやってきた。
「リリアさん! 大変です! リリアさんの会社が乗っ取られようとしていますよ!」
 なんだって! それはやばいのでは!?  クラフォードは焦っているが、リリアリスは振り向きつつ答えた……その顔は何故かニヤっとしていた。
「ふふっ、ほらね、頭の悪いのがしっかりとエサに食いついたでしょ♪」
 えっ、どういうこと? するとリリアリス、スマートフォンを取り出すと――
「査察部さん? お疲れー♪ ターゲットがボロを出してくれたわよ、予定通りにお願いね♪」
 リリアリスは腹黒そうな笑顔で滅茶苦茶嬉しそうに話をしていた、嫌な予感しかしないんだが――

 後日、シルグランディア・コーポレーションを買い占めようと画策した貴族が騎士たちに取り押さえられていた。
「くっ……あの女、まさかこのために……!?」
「だから辞めろと言ったのに――」
 その様を、あの会にいた貴族たちは頭を抱えつつ、見守るように佇んでいた。

 そして、そいつはクラウディアスのお城の一室へと突き出された。 目の前にはリリアリスとエミーリアがおり、エミーリアは座っていた。
「ヒット! これはまた見事な大物がかかったんじゃないの?」
 だが、その貴族は何も言わず、ただ黙っていた。
「さてと、もうネタが上がっていることだし、下手な言い訳は不要よね? もう面倒だから自分から言ったらどう?」

 ということで、その貴族は自白した。
 リリアリス的にクラウディアスの税金の流れを見て、どうしても納得のいかないものがあった。 それは主にグラエスタ貴族たちに関係するところだった。
 そこで目を付けたのが高額納税者リスト、所謂長者番付である。 その際、当然のことながら各貴族たちの財産や様々なお金の流れについてまず把握しておく必要がある。 その結果――一部の貴族たちの事業の収入に対して納付額が妙に少ないことが発覚し、脱税の可能性が出てきたのだった。 無論、これについてリリアリスはいつもの議員に訊いたのだが、相談した結果、恐らく正面から切り込んでもダメだろう――改めて考えるに至った。
 それならどうするか? 次に考えたリリアリスの策、それが自分が長者番付で1番になることである。 これにより、脱税している彼らと正規の額で高額納税する自分とでは明らかに差が付く上、 そのうえでクラウディアスの中では彼らを差し置いての大金持ちをアピールできるという狙いがある。 こうなると、誰かしらが何かしらの行動を起こすはず―― そう、リリアリスは自分の会社というエサを使い、文字通りの大物を釣り上げたのだ。
 そのためには自分の会社をどこまで育てるか……これが急務となるのだが、 そこは流石はリリアリス、常人ではまず成しえない行動と幸運に見舞われ、 計算上、恐らく脱税しているであろう程度の額があれば事業者本人が所有している株を超えることができるという、 何をどうしたらそんな計算と計画の実現ができるんだという状況へと持っていったのだった。

 話の全貌を聞いた者たちは皆頭を抱えていた。
「そこまでするか普通――」
 スレアは悩んでいた。
「普通じゃないからなこの女、だからするんだよ」
 クラフォードは皮肉った。
「でも、挑発に乗ってこなかったらどうするつもりだったんですか?」
 ラシルは訊いた。
「別に? 乗ろうが乗るまいがどっちでもいいんじゃない?  事業についてはこのまま続けていくつもりだしさ、 そもそも私の番付との差分というだけでも不自然だから暴かれるのも時間の問題でしかないのよねぇ。」
 言われてみれば確かに……。
「てか、長者番付に載るほどのことをしておいて、最初に言うことどっちでもいいって何だよ――」
「ええ、ものの数か月程度で大国クラウディアス一の大金持ちを達成したなんて、 まあまあ良かったんじゃないかしら? それなりに楽しかったわよ?」
 そ、それなりに楽しかったって――
「この人、長者番付載るのが……それもリストの一番下でさえ載るのがどれだけ大変なのか理解してんのか……?」
「マジだよ、気楽に考えてやれるもんじゃねえんだぞ――」
「やっぱりこの人ギャンブラーだわ……行為をゲーム程度にしかとらえてない――」
「というより、それはもはやただの狂人だな……」
 そうです、これぞ、リリアリス・クオリティ…… 常人にはまず不可能と言っていいような行為を”真正面から”、”平然とした顔で”、”何の気なしに”やってのける、 その名に違わぬ史上最凶の狂人……人呼んで、”安定のリリアリス”です。
「さーてと、次はどんなことしようかしらねー♪」
 わかった、あんたの会社、絶対に儲かる。
「俺、今からシルグランディア株買ってくるわ」
「僕も」
「俺も今すぐ買ってくる」
「俺はさっき買ったな」