クラウディアスはまさにリリアリスによる改革が着々と進められていた。
不平不満、さらには不安がる者も続出するも、リリアリスの改革は留まることを知らず、
また、これはおかしいと彼女が唱えるものに関しては徹底的にメスを入れていくなど、
どんどん切り込んでいったのである。
そんな中、貴族会にて――
「例の新参者、なかなか厄介ですな――」
「リリアリス=シルグランディアといったか、面倒な女がやってきたものだ。
この間もゴーディアスを解体に陥れたのもあの女、マークされたほうがよろしいかと……」
「無論、既にそれは行っておる。
だが――そもそも何者なのかがわかっておらんのだ。
それに、行動自体もまるで雲をつかむかのように足跡を残さん、
唯一判明しているのはディスタードのガレアとつながりがあることぐらいで、
それも自ら公言しているあたり、怖いものなしといったところだ」
「ディスタードということはそこを皮切りに――」
「したいのは山々だが、残念ながら綻びが一切出てこんということだ」
「精霊族……欲が薄いという話は本当だったか――」
「それに足跡を残さんというのは――我々の存在に感づいているということではないのか?」
「足跡を残さんというのは後ろめたいことがあるからだろう? 違うか?」
「純粋に鬱陶しいからついてくるなっていうだけの話かもしれん。
あのリアスティン陛下がまさにそういうお方じゃった――」
「まあいいだろう、昔からの流れが通用せぬというのであれば止む無しと考えよう。
所詮は年端のいかぬ小娘、やれることはたかが知れておるわ」
「だが、ゴーディアス解体で金の流れが――」
「確かにそれは痛手だが、我々にはまだ”貴族会”という切り札が残されているのだ。
これは王室のお墨付きを受けているもの、そこまでは流石にあの女の手を以てしても及ぶまい?
それに、これまではゴーディアスのおかげでたっぷりと甘い汁を吸わせてもらった、
これ以上はかのローファルのように足元をすくわれかねん、まさにちょうどよい”潮時”だったのだと考えればよいのだ」
「それもそうですな――」
だが、そんな貴族会も後に解体に追い込まれることになろうとは、彼らはまだ知る由もない。
その前にクラウディアスを追い出される者多数なのだが。
その一方で、リリアリスは例のテラスでいくつかのモニタを並べて作業をしたりいろいろとしたりしていた。
「それ、なんのグラフですか? 国営事業関連ですか?」
ラシルはモニタに表示されているそれを見ながら訊いた。
「これは株価チャートよ。
有望なところだったから買い注文をつけたのよ、もちろん国のお金でね。」
国のお金で!? ラシルは驚いていた。
「こういう国益になるような企業に対して積極的に投資していくのも国の役目だと思うのよ。
無論、直接的に投資しますっていうのも大事だけど、一般の人に混じってこうやって支援していくのも必要だと思うのよ。
それに、企業としては株価も上がってほしいわけだから、それなら国としてもやらない手はないってわけよ、違う?」
だが――ラシルは悩んでいた。
「株って難しくないか?」
一緒にいたスレアがそう訊いた。リリアリスは頷いた。
「まあね、その時の情勢やトレンドにも左右されるからね、
タイミングを逃したら後悔するしね、買うにしろ売るにしろね。
そこらへんは見極めが重要で、今見ているチャートもまさに売り時を狙ってのことってわけよ。
つってもここについてはクラウディアスで買った分はそのままだけど、
私個人のポケットマネーから買った分についてはしっかりと売らせてもらうわね。」
なんで! ラシルは問いただした。
「なんでって……そりゃあ、私が買った目的とクラウディアスが買った目的が違うからよ。
私が買った分についてはもちろん純粋に自己資産を考えてのことだけど、
クラウディアスとしては自国の企業に頑張ってほしいから、文字通りの先行投資のために買っているに過ぎないってわけよ。
それにクラウディアスが買う株については目的のために制限されるから、ここを買わざるを得ないというのもあるしねぇ。」
そうか、クラウディアスについては単にお金儲けだけが目的じゃあないもんな、ラシルとスレアは考えた。
「ま、クラウディアスが買った分に免じて、売却は半分に抑えておこうかしら、
いずれはまた投機の対象になる予感もするからね。」
それなら買ってみようかな――ラシルは自分の端末を出してそう考えていた。
「あの……インサイダーとかないですよね? そういうのって犯罪って聞いたことがあるので……」
リリアリスは答えた。
「ええ、ここで話している分ではそういうのはないわね。
一部ではグレーゾーンって言われたこともあるけど知っての通り、
うちで作った企業を締めているのはそう言う狙いもあるわね。」
まさか、インサイダーを避けて買うために!? やっぱりこの人、やり手だ……。
「なるほどね、ルシルメアのこの会社はまさに買い時ね。
よしよし、ちょっと待っててねー♪」
楽しそうだな。
「他所の国の株ってことはもちろんポケットマネーだよな?
欲はねぇって聞いた覚えがあるんだが?」
スレアはそう訊くとリリアリスは答えた。
「もちろん自己資産よ。
どーせ買うんなら有望なところがいいに決まってんでしょうよ。
言ってしまえばある種のゲームみたいなもんね。
さーてと、吉と出るか凶と出るか……」
この人、お金儲けよりも純粋に楽しむことが目的か……スレアは頭を抱えていた。
「勝負師(ギャンブラー)の考え方……」