エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第2章 策士の真骨頂

第12節 デジタル先進国への歩み

 リリアリスはルーティスのエンジニアたちから話を聞いていた。 だが、その内容はというとむしろリリアリスのほうが上回っており、エンジニアたちは舌を巻いていた。
「とりあえず、ハード面ではルーティスと海底ケーブルを結べばそれで問題なしってところね。 そして本格的にクラウディアス内でインターネット網を敷くのならクラウディアスで基地局を立てて回したほうがいいと、 それは確かにその通りだけど、その際はクラウディアスでプロバイダを新設するべきよね。 ソフト面での工程はとりあえず後回しでいいからそっちの話はハード面が整ってからにしましょ。 それで……エンジニアが少ないクラウディアスに対してどこまで協力してもらえるのかしら?  ちなみに、クラウディアスがやりたいと言っている以上、コスト面については全額こちらで負担させてもらうから、 その辺の心配はしなくていいわよ、もちろん、それについては海底ケーブルの件含めてだけどね。」
 そんな! ナミスは驚いていた。
「いいんですか!? 海底ケーブルについては折半で――」
 リリアリスは首を振った。
「ルーティスは今大変な状況でしょ。 一方でクラウディアスは強国と呼ばれているんだからそこはきちんと懐の深さを見せなきゃいかないからね。 なんだったらこれもルーティスへの戦後復興の支援の一つだと思ってもらえればいいからさ、ね?」
 そう言われてナミスは申し訳なさそうにしていた。
「すみません、それならお言葉に甘えさせてもらってもよろしいでしょうか?」

 が、リリアリスのその決定については方々から批判が殺到していた。
「リリアさん! インターネット……でしたっけ?  それで全額こちらで負担するって事ですが、関係各所から批判が出ています!  もちろん、我々としても全額というのはいかがなものかと不満が出ています!  今一度、お考え直しを!」
 例の議員がリリアリスにそう訊いてきたが、リリアリスは首を振った。
「何言ってんのよ、既に決めたことよ、今更撤回する気はないわね。 それに、我々としては大きなビジネスチャンスとなるこの事業に対して投資をしない手はないわね。」
 大きなビジネスチャンス? 議員は首をかしげていた。
「今の世の中で情報が得られるというのはそれだけで価値があることなのよ。 そう、言ってしまえば情報が金になる時代、これはそのための大きな投資だと思ってもらいたいものね。 だから今回のこれについてはクラウディアスの国営事業として、 国が自ら率先してやっていくだけの価値はあるってことなのよ。 そのためだったらいくらでも協力は惜しまないし、お金を出すことを躊躇ってはいけないことなのよ。 それに、エンブリアではまだまだ新しい技術だから早めに導入する価値もあるのよ。 すべての世界とつながっているということはそれだけ早い者勝ちであるということでもあるからね。 より良いを追求するのならなおのことで、 そこにクラウディアスというネームバリューでもついていれば乗っかってくるユーザーはこの世界にいくらいると思う?」

 それにより、クラウディアスの国営事業は大成功を修め、 議員らが思っている以上のリターンが戻ってきたのだった。 それはあれから3年後のこと――
「例の海底ケーブル敷設代の借金ですが、 今期のクラウディアス観光の決算報告による補填の結果、とうとう借金完済となる見込みだそうです!」
 その話を聞いていた議員たちは興奮し歓喜を上げていたが、 リリアリスはもはや予定通りと言わしめるような得意げ態度だった。
「だから言ったでしょ? クラウディアスにはそれだけの力があるのよ。 だからちょっとぐらい借金したところでカードさえしっかりと握っていれば失敗することなんてないのよ。 今回のカードはまさに情報の力で明るみになるクラウディアスの地そのもの―― つまり、クラウディアスを直接見に行きたいっていう人々が実際に行動を移すことで各地でその経済効果が発生するって言う算段なわけよ。」
 やっぱりこの女は恐ろしい。
「確かに概算ではありますが、 クラウディアスのとある飲食店での人の入りはこれまでと比べて約7倍であるとのデータもあるようです。 さらにリリアさんに言われた通りクラウディアス向けの定期連絡船の乗車賃を従来の2分の1に引き下げたところ、 乗船率が従来の5.6倍になったという報告も上がっています」
「ええ、でしょうね。そんなことだろうとは思ってたけど、我ながらやること成すこと思った以上に冴えてるわね。」
 つ、つくづくこの女恐ろしい……。

 議員の間ではもはや常識となっている通称リリアリス経済効果は留まることを知らず、 まさに彼女の存在はクラウディアスにおけるヒットメーカーそのものだった。
 そして、黒字転換したクラウディアスは得られた資金を元手に今度はクラウディアスの各所にて建設ラッシュが進み、 クラウディアスの西棟もそのうちの一つである、のちにデータ・フロアと呼ばれるようになるその建屋の着工も開始されるようになったのである。
「あくまでメルヘンチックにこだわるんですね」
 再びとある議員と話をしているリリアリス。
「ええ、クラウディアスだからね、そこは流石に景観破壊したくないのよ。 ここは条例で決めたほうがいいわね、クラウディアスで建造する建物についてはメルヘンチックさを取り入れるようにって。 如何にも大自然に住まう精霊様がいらっしゃいます感を強めにしておいたほうがいいからね。」
「確かに、クラウディアスに訪れる人はそのあたりを見る人も多いようですので、 そこはしっかりと線引きしておいたほうがいいですね」
 そこへラトラが現れ、リリアリスに訊いた。
「あのー、リリアさん、emilyの件ですが、個々のプラットフォームのOSやスペックはどんな感じにします?」
 リリアリスは申し訳なさそうに答えた。
「ごめんごめん、忙しすぎて返事忘れていたわね。 emilyはピンキリにしておいたほうがいいわね、スタンダードな仕様からハイエンドな仕様にね。」
「てことはつまりサーバもそれだけピンキリな設備を用意することになりますかね?」
「そういうことね。と言ってももちろん安物を用意するって意味じゃないからね。」
「もちろんですよ。 不特定多数で一斉に使用することを想定してのシンクラ端末ですからね、 サーバはそれに耐えうるレベルのスペックにしないといけません。 つまり、ハイエンド仕様となると……」
「ええそう、契約の話でお高めに設定する必要があるってことよ。 エンジニアとしては単にそれだけのものが入れられるサーバを選定すればいいということになるわね。」
「ですね。では、見積もっておきます――」
 という会話内容だが、議員は困惑していた。
「最近、リリアさんとラトラの話で言っていることが半分ぐらい理解できないのでいるのだが―― しかし、リリアさんの、いいスペックのものを使う場合は高い料金を支払えってことだけはわかった!」
 ですよね。