エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第2章 策士の真骨頂

第10節 デジタル・トランスフォーメーション

 リリアリスはさらにクラフォードを案内していた。
「これはなんだ?」
 そこはお城の入口付近にある機械だった。
「これは”ポリト”、エミーリア姫が命名したのよ。 これによって女王陛下との謁見手続きから行政の手続きまですべてが行えるっていうスグレモノなのよ。」
 といいつつリリアリスはポリトのタッチパネルを操作すると、 そこには特別執行官のリリアリスとの面会を決定する項目が出てきた。
「私も一応、クラウディアスではこういう立場だからね。 個人のタスク管理も含めて管理は全部クラウド上での管理になってて、 このポリトはクラウドからデータを読み込んで謁見・面会の時間や可不可を判断してユーザーに知らせる機能が付いているのよね。 明日明後日は私もやることがあって面会できない状態だから面会を求めるのなら明々後日以降の日時を指定するようになっているハズよ。」
 それは便利だな……クラフォードは考えた。
「で、これが行政の手続きね。 住民票の発行手続きから転居届……国内国外向けのそれぞれの様式の書類が印刷できる機能がついているわね。 同じ国外向けでもスムーズな手続きができるようにルーティスの様式が作れたりするのもこいつの特徴ね。 後は税金関係の手続きや事業開設のための手続き、それから……職業相談の手続きもできたりするわね。」
 い、いろんなのがあるな……クラフォードは絶句していた。
「すべての行政の手続きがこの機械1つで全部できるってわけか――そいつはすごい……」
「あくまで手続きだからね、つまり、実際には案内窓口としての役割でしかないのよ。 とはいえ、それでも職員への負担軽減になっていることだけは間違いないと言えるわね。」
 なるほどな、クラウド上のデータから引っ張り出して楽できることは楽にできるに越したことはないからな、クラフォードは考えた。
「でも、こういうのって誰でも彼でも受け付けるかどうかで言えばそうでもないと言えるじゃない?」
 クラフォードは考えた。
「確かに、バフィンスのやつだったらこんなまどろっこしいものちまちま操作するなんてことしたくなさそうだな」
 リリアリスは頷いた。
「そういう人向けにコンシェルジュっていう専属のスタッフがいて操作案内する人もいるのよ。 あそこで案内している女の人がそうね。」
 と、リリアリスは指をさしてそう言った、そこには老人に対して丁寧に説明している女の人がいた。

 クラフォードは単身クラウディアスの町を歩き回っていた。 言われてみれば確かに会計で電子決済をしている人がいたり、 はたまた自動販売機では電子パネルの操作を見かけたりと、 見るからにどことなくメルヘンチックな世界観の国にしては妙にDXな生活感が感じられるのは、 やはりクラウディアスがデジタル先進国がゆえのことなんだろうと思ったのだった。 だからこそデジタル・ノマドとしても観光都市としての側面もあるクラウディアスが居心地がいいのだろうなと思った。 観光都市としては恐らくクラウディアスには叶うまい――だからこそ、 グレート・グランドとしてはクラウディアスに出資したんだろうと思った。 確かに、それはそれでアタリなのかもしれないが、国としてはそれで大丈夫なのだろうか、 自分の国をウリにしないものなのだろうか、そこが少々悩みどころである。
 とはいえ、現状のグレート・グランドの狙いとしてはまだ勉強段階、 つまり様子見なので、それはそれで間違いないのだろう。
「デジタル・ノマドの会……なるほど、同じ境遇の者同士でこうしてコミュニケーションを取ることもできるんだな」
 クラフォードはとある居酒屋の入口にある看板にそのような記載があることを確かめながらそう思った。 どうやら世界はさらに広がるようだ。

 一方でリリアリスはヒュウガと共に”アトリエ”と呼ばれる部屋で何やらを作っていた。
「とりあえず、これが試作品よ。」
 ヒュウガは考えていた。
「エーテルで作られたディスプレイパネルってか、またエライ角度の代物を作ったな。 問題はコレ、コスト的に大丈夫なのか?」
 リリアリスは考えた。
「コストよりも人体への影響のほうが懸念される代物ね。 で、それを問題のない水準にするとなると――」
 ヒュウガは悩んでいた。
「現状のパネルだと視力への負担が悩みどころだからな、 特に質の悪いLPTなんかは……いや、比較対象が悪いか」
 リリアリスは頷いた。
「液晶だの生ごみだのと開発が進んでいるのは喜ばしいことだけど、 エーテルで作っているケースは見たことがなかったからね。」
「普通は作らないからな、平たく言うと魔法そのものの力をディスプレイにしているわけだろ?  個人的には大賛成だが、エンブリアの世の中じゃあ普通じゃあない。 ってか、生ごみって有機ELのこと言ってんのか――」
「こないだ有機ELの処分方式が決まったからね。 生ごみと同じく処理可能というトピックスが自分の中でホットなワードだったからそう言っただけよ。」
「エンチャント技術ゆえに本来の素材と同じ処分法ができたんだったな。 だが、そしたら皮肉にもエンチャント技術で使うそっちのほうでディスプレイができるとはな――」
「とりあえず、テストケースとして1台作り上げてしまいましょ。 問題はビデオカードとどうつなぐかの課題だけど――」
「標準の信号線のつなぎ方でいいんじゃないのか?  ここでも発光方式が有機ELと大体同じっていう皮肉が利いているわけだが」
「確かにそれでいいかもね。 そっか、生ごみと一緒――ということで早速つないでみてくれる?」
「俺がやんのかよ、まあいいけど。ところで、人体への懸念ってどんな?」
「普通に魔法の力がその場にあるから――という問題よ。」
「なるほどな、エーテルの人体汚染か……特にあんたみたいに魔法抵抗の強い人間ならまだしも、 普通の人間には毒の塊みたいな代物ってことだな、まだまだ課題は多そうだ」

 ということで、そのディスプレイはテラスへと持ち運ばれると、早速画面を出力させていた。
「画面がすっきりクリアーなのがいいな、まるで汚れが全くない窓のようだ」
「でしょ? 普及できたら最強のディスプレイになることは間違いないからね。」
「問題はこれだけクリアーなものを作る技術と、人体汚染の問題ですかね――」
 ヒュウガ、リリアリスが話していると、アリエーラも話に参加してきた。
「そうなのよね、これだけのエーテルの加工技術はもちろんだけど、 エーテルを扱う側としても相当の技術を必要とすることよ。 うまくやんないとこれだけ綺麗なディスプレイを作り出すことはできないからね――」
 ヒュウガは悩んでいた。
「課題が多くなってくるな――」