エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第2章 策士の真骨頂

第9節 自由な職場

 リリアリスは服を着替えていた。
「ふぅ、重てぇなぁ……」
 アリエーラが話した。
「ほとんど鎧みたいなものですからね、私もアレを脱いだら身体が飛んでいきそうな勢いです――」
 リリアリスは頷いた。
「ワンピースの内部を金属を編んだものを入れているうえに、 さらにその下に鎖帷子をまとっているからね、 最初の頃は身体が押さえつけられるような感覚で難儀したっけ。 特に私なんか胸デカイから胸回りをぎゅと締め付ける加工もあって慣れるまでは大変だったわね。」
 アリエーラは頷いた。
「それは私も覚えていますね、でも、戦いに出るということはそういうことなんですよね。」
 リリアリスは頷いた。
「戦いとオシャレを両立するのは大変ってことね。 まあいいわ、やっと空飛べそうな服装にチェンジしたんだから自由に空飛ぶことにしましょ。」
 アリエーラは悩んでいた。
「リリアさん、いつも空を飛ぶように跳び上がったりしているのですがそれは――」
 流石はアリエーラさん、確かにその通りだ。

 リリアリスの服装といえばワンピースである。 ちなみに今回もまた着替える前後でそれは全く変わらない、内部構造のみが異なっているだけである。
 ワンピースにもいろいろとあるが、 リリアリスの場合は所謂、身体にフィットしないような、簡単に言えば元祖森ガール的な装いの服装である。 その様はまさに当人が精霊族であるという所にもマッチしたある意味神秘的な装いともいえるわけだが、 当人の性格を考えると手放しに素敵な女性と言えないのが男性陣としては残念なポイントである。 まあ、そう言えないキャラクターであるがゆえに男性陣から話しやすいのもポイントではあるのだが。
「なーんか、いっつもその服装だな。拘りでもあんのか?」
 いつものテラス、その場にクラフォードがやってきてリリアリスに訊いた。
「拘りなんかないわよ、だからいっつもこの服装なわけよ。」
 クラフォードは考えた。
「俺の印象からすると、子供の女が着ているような感じがする服装って気がするんだが?」
 リリアリスは頷いた。
「露出ほとんどないからなおさらね。 あえて別のを選ぶ必要もないしさ、私としてはこれで定着しているからいいかなーって。」
「でもさ、その服装だとむしろあんたが懸念している剣振ったり動き回ったりするのに邪魔になったりしないもんか?」
 リリアリスは頷いた。
「だから服を改良しているのよ、それしかないからね。」
 だったらさっきの胸の大きさの悩みの質問は何だったんだと思わずにはいられないクラフォードだった、 改良して何とかしているのならいいじゃねえか、と――まあ、改良でなんとかするためにさらにヒントが欲しいということでもあるのかもしれないが。 それに、別の服という選択肢も……と言いたいところだが、当人がそれでいいというのなら言うほどのことではないか。
「服を改良しているとなると、むしろ何かしらの拘りがあると思えるんだが?」
 クラフォードは訊いた。
「精霊だからね、この服装のほうがしっくりくるんじゃない?」
 それは俺に訊いているのか……クラフォードは悩んでいた。
「ところで何の用よ?」
 リリアリスは訊いた。

 クラフォードはリリアリスを連れてある場所へとやってきた、それは――
「忘れていたわね、これの件ね。」
 クラウディアスに新たに作られた建物のことである。
「一応、グレート・グランド共同出資プロジェクトだからな。 それで成果はどうだどうだとうちの重鎮共がうるさくてな、 だからこうして俺が視察するハメになった。 ただ……俺もこの事業自体が何なのかがさっぱりわからないから、 できればそこの説明からしてくんないか?」
 リリアリスは頷いた。
「この事業は主にとある職務形態のユーザーを対象にした経営として成り立ってんのよね。 そのうえではやっぱり最も注目される場所となると――」
 クラフォードは頷いた。
「クラウディアスってわけだな、 観光都市という側面で言えば必ずと言っていいほど名が上がる最強の大国。 で、それがデジタルなんたらって連中には受けがいいらしいが―― 職務形態ってことは仕事を放り出してやってきていいものなのか?」
 リリアリスは説明した。
「別に彼らは仕事を放りだしてきているわけではないのよ。 あんたも知っての通り、デジタルのツールはインターネットさえつながっていれば遠くの人とも円滑にコミュニケーションが取れるようになるわけよ。 遠くの人ともつながっているってことは極端な話、端末一つあれば仕事をする場所は問わないとも言うことができるわね。 つまり仕事をする場所がどこでもいいというのなら、それこそ観光しつつ、日々の仕事のノルマをこなせばいいとも言えるわけよ。 つまり、観光都市としても最強であるクラウディアスとしてはそういった”デジタル・ノマド”をターゲットにした事業を展開しようと考え、 彼らの日々のノルマをサポートするためのスペースの提供のためにいろいろとやるのが事業の趣旨ってわけよ。」
 クラフォードは頷いた。
「なるほどな、俺には理解しがたい世界だが―― だが、こないだのクラウディアスのシステムの件を見せられるとなんとなくわかる気がするよ。 つまり、ああいうのを生業にしている連中のための仕事スペースを提供しているんだな」
 リリアリスは頷いた。
「あんたに理解しやすい形で言えばそういうことね。 ついでを言うと仕事スペースというより住居スペースも提供するのがほとんどメインみたいな所があるわね。」
 クラフォードは考えた。
「観光どころかよその町や国に住んで仕事してもいいってわけか、そういう時代なんだな」
 リリアリスは頷いた。
「つまり、観光産業としては願ってもない層だから国としても力を入れたい所でもあるわけよ。 デジタルっていったらエンブリアではうちやルーティス、あとはガレアもそうだけど、 グレート・グランドについてはうちも力を入れたいって手を挙げてくれたところに端を発するところかしら?」
 クラフォードは頷いた。
「そんな話をしてたな。 インターネット網に関してはおたくらやルーティスのおかげで徐々に広がりつつあるが、 エンジニアの数に関してはどうにもならなくて、国としてはとりあえずやれるところからやってみようってのが主軸にある。 うちの国はバルティオス・ウォータ効果でもともと好調だが時代の変遷に伴ってそれだけでは先行き不安らしく、 今回の事業に関しても採算に関しては度外視で金を出すことに決めたらしい。」
 リリアリスは頷いた。
「事業に参画して、得られたノウハウを元にしてIT産業を成立させていきたいっていうのがあんたたちの目的らしいわね。 ちなみに話は戻すと、私がテラスでいろいろやってんのもあそこが好きだからってのがあるわね。」
 そういえばこの女、言われてみれば確かにリモート・ワーカーまがいの職務形態をとっていた、 それこそこの女の寝床と言えばこのテラスの隣にあるのだから、とにかく恵まれすぎていると言っても過言ではないだろう。 国政に関しては基本的に端末一つでたいていのことをこなしているからまさにそれといった感じである。 なんたって王室のみが見渡せる景色の上で仕事しているんだ、こんなやつ……他にいるわけがない。
「ん? ”ノマド”ってことは国を出ることもあり得るってことか?」
 クラフォードは訊いた。
「ええ、言うなれば旅をしながら仕事をするという感じだからね。 現状のエンブリアでインターネット回線が敷かれている国ってそう多くはないけれども、 そのせいか、クラウディアスは各地方都市内で彼らが循環しているおかげでそれなりの経済効果が見込めているのは事実よ。 最近ではガレアでのノマド効果のおかげで潤っているという話も聞いているわね。」
 そういう時代か。