それから3か月後、ディアスのもとにある知らせが届いた、それは――
「ルヴァイス副将軍の収支報告ですが、今期は2,000万ローダ程度の黒字を見込んでいるとの事です。
流石はご子息様ですね、着実で堅実にことを成し遂げられているようです」
と、つまり、彼が任せている各副将軍の業績についての報告だった。
「ルヴァイスか、確かに堅実でいい感じに成果を上げているんだが、何かにつけて決め手に欠けるキライがあるんだよな。
お前らもそう思ってるだろ? 俺のせがれだからって贔屓にしているみたいだが本音はどうよ? 忖度なしで訊いてみたいもんだな」
そんなこと、当人の前で言えるわけがない……周囲の者はビビッていた。
が、しかし――あいつだけは違った、そう――
「アールのやつははっきり言うけどな、将軍の器にしては少々物足りねえってな!
確かに、俺もそう思うな! だから、俺ならこの座を継ぐんだったらあいつに譲るけどな!
ルヴァイスはあいつの元で修行させるのが一番だ!」
そんな――周りは焦っていた。
「しかし、そのアール副将軍の収支報告なのですが、今期は3億ローダ程の赤字を見込んでいるとの報告が――」
なんだって!? ディアスは耳を疑っていた。
「確かに、これは問題だと思います! アール将軍を呼び出します!」
が、しかし、ディアスはそれを遮った。
「んなこたぁどうだっていい! 本当に3億なのか!?」
そう言われて報告者が頷くと、ディアスは悩んでいた。
「嘘だろ……試算では20億近い赤字を予想していたのにどう考えても少なすぎる、どうなっているんだ……?
まさか、良からぬことを考えているんじゃないだろうな……?」
まさかの上回ってくる展開だった。
「それは……やはり呼び出しましょうか……?」
「いや、このままでいい。その代わり、やつの行動を監視しろ、いいな!」
ということで、さらに3か月後の収支報告。
「ルーティスの防衛についてはそろそろヤバイ状態なんじゃないかと報告を受けています。
いかがいたしましょうか?」
ディアスは悩んでいた。
「俺もそろそろ歳だな、既にそこまで連中は迫ってきているのか、そろそろ引退を考えねえとダメだな」
「そんなこと! ディアス様はまだまだやれますよ!」
「そんなことはない。
グレストのやつ、いよいよ口をきけなくなっちまった、するってえと、俺もそろそろだってわけだな。
老後はヤツみたいに”生かされている”状態になりたくねえんだよ、お前らもそうだよなあ?」
そう言われた周りの者はどう答えようもんだか悩んでいた。
確かにその通りではあるのだが、ほぼ植物状態のグレスト将軍のことを引き合いにされると何とも言えないのが彼らの心理である。
「まあいい、話はそれたな。続きを聞かせてもらおう」
「は、はい! 続いてルヴァイス副将軍ですが、今期も2,000万ローダ程度の黒字を見込んでいるそうです! やはり安定していますね!」
が、ディアスは――
「あいつ、副将軍になってからずっと2,000万で安定しているよな、前任者の頃からそうだったな。
つまり、それで安定しているってことは、やつがつく座は今の座がちょうどいいともいえる、そこまでのやつだってことだな」
そんな――周りはがっかりしていた。
「父親的にはもう少し成長してくれんのかって期待しているんだけどな、やっぱり世襲っていうのはそれだけでうまくいかないもんだな。
そうなると、俺が今推している人物がどうだってことだが――」
「は、はい! アール将軍ですが、今期はなんと、収支1,200万ローダの黒字へと転換しているようです!」
ディアスは頷いた。
「だな! やつはやるんだよ!
今期は前期からの赤字運用もあってちょいと少なめだが、来期からはさらに成長するって言う展望らしいぞ!
やっぱりやつにガレアを任せたのは正解だったな!」
それに対してある者が言った。
「ああ、それでアール副将軍の行動を監視していた者からの報告ですが――」
ディアスは首を振った。
「そいつは不要だ、
”草(スパイのこと)”を放つぐらいなら直接聞けって言われてどういうカラクリで黒字を生んでいるのか聞いてきたからな。
あいつ、よその国の不動産から株にまで手を出しているんだってな、やっていることがまるで投資家そのものだな。
しかも軍の予算を丸々突っ込んでやがる……それでしくじったらぶん殴っているところだが、
先見の明が鋭いようでな、やること成すこと次々とあたりを引いてやがる――
あいつのやっていることはもはや誰にもマネできねえだろうよ。
だからあいつについていったらもはや遊んで暮らすのも夢じゃねえかもしんねえぞ」
確かに、スパイからの報告もそんな感じだった、もはや理解しがたいレベルの行為ゆえについていくこと自体が不可能だった。
「そして得られた元手で各国の不発弾を処理しようというビジネスを展開しようという試みらしい。
手始めにガレアの不発弾処理を行っているそうだが、見事に処理が完了したって報告が上がってきている、
あの調子じゃあさらに手広く事業を展開するに違いないな」
すると、また別の者が言った。
「ですが、我々は軍事国家、アール将軍は純粋に経済を回しているだけのように見えますが、いいのでしょうか?」
ディアスは頷いた。
「本当はダメなんだろうが、あいつは特別だ。
だからこう考えればいい、戦を行うにも金が必要だ。
だから、そのための財源を確保するのはあいつの仕事……どうだ?
無論、金があるのなら戦後処理で必要なことをさせるにもちょうどいいだろう、
そう考えれば帝国のためというよりもディスタードのためにやっていることと考えればいい、
だから俺はあいつに期待しているんだ」
なるほど――周囲の者は納得していた。
「まさに平和維持活動のための行動ですか――」
「そうだ。
本土軍はタカ派による後ろ盾が財源なら、我々はまさに正規の手順で得られたリソースが後ろ盾そのものだ。
あいつはそこを理解していて真っ向から本土軍に楯突こうという意思表示をしているとも見て取れる――
俺達はディスタード帝国として動いていくのは納得していない、
だからあれが我々の”同志”であるのなら願ってもない強力な仲間だ。
だからやつが望むのなら俺は直ちに引退して将軍位を引き渡すつもりだ。
そしたらルヴァイスはあいつの下につかせる、いいな?」