そして、いよいよとあることが実行に移された、それは、ラブリズの里のプリズム族のクラウディアスへの受け入れである。
それと時同じくして、通称ロミアンの里のラミア族のクラウディアスへの受け入れも始まった。
クラウディアスへの受け入れについては対象が限定されており、
当事者たちの間で自分の妖魔の香をコントロールできる娘のみに制限されていた。
それを判定する者は、プリズム族ならララーナ、ラミア族ならトトリンなど、一定の者に限られている。
それにより、ラブリズの里からは30名ほどやってきたが、ロミアンの里から来たものはまだ5名ほどしかいなかった。
ラミア族はまだ手探りということもあり、やや厳しめの方針らしい。
だが、プリズム族が20名もやってきたということもあってか、トトリンはラミア族の制限ももう少し緩めにしようと考えていたようだ。
そして、いずれも段階的に制限を引き下げていくことになっているため、
徐々にプリズム族やラミア族がクラウディアスに増えていくのだろう、そうなる日が楽しみでもあった。
テラスの5階からいつものように下界を眺めているリリアリス、ヒュウガと一緒にその様を眺めていた。
「やっぱり美人が多いわよね、妖魔の香なんか使わなくたって男たちが興奮しそう、
エモノはわざわざ捕まえようとしなくたってエモノのほうから勝手にくるってまさにその通りって感じよね。」
それに対してヒュウガはニヤっとしていた。
「さーて、何人のエモノ共がひっかかるんだろうなぁ?」
そんなヒュウガを見ながらリリアリスは言った。
「あんたさあ、そういうことになると案外意地悪いわよね。」
「当たり前だろ、どっかの誰かさんが俺にイジワルするもんだからはけ口が必要なんだよ」
「あら、そうなんだ、それはそれは大変ね。だったらそのどっかの誰かさんを何とかしないといけないわね。」
「鋭いな、そう思ったらなんとかしてもらえると助かる」
するとリリアリスはニヤッとしていた。
「そうね、じゃあ何とかしてあげるわ、そのうちね。」
「そのうちじゃなくて今何とかしろ。つーか、逃げんな」
どっかの誰かさん……言うまでもなくリリアリスかリファリウスのことである。多分両方。
リリアリスはテラスからそのまま飛び上がり、クラウディアス城の屋上となる6階は塔の上へと着地した。
「こんなところにいたのね。」
リリアリスはそう声をかけた。そこにいたのはフロレンティーナ、北の空を眺めていた。
「まったく、塔で佇むいい女って感じよね。」
そう言うとフロレンティーナは嬉しそうに言った。
「やめてよもう! リリアったら! あんただってここに佇んでみなさいよ! 男なんて全員イチコロでしょ!」
リリアリスは遠慮がちだった。
「いやいやいや、私ゃそんなキャラじゃないし。」
「そんなキャラじゃなくたってそういう女でしょ! まったく!」
2人はお互いに笑っていた。
「まあ……そういう女かはさておき、あえてわざわざ女を辞めるつもりもないしね。」
改めて――リリアリスとフロレンティーナの2人はその場所から北の空を眺めていた。
「そっか、ロミアンは”ネームレス”だったのね――」
フロレンティーナはなんだか穏やかな感じでそう言うと、さらに続けた。
「まさかそういうことになるなんて、なんだか不思議な巡り合わせよね――」
リリアリスは訊いた。
「何度もしつこいかもしれないけど――
やっぱりロミアンのことも含め、”ネームレス”の謎を追うつもりでいいのよね?」
フロレンティーナは頷いた。
「もちろんよ。だけど、一つだけ心配なことがあるの――」
なんだろうか、リリアリスは訊いた。
「トトリンは、ロミアンが元の居場所を探しているんじゃないかって言ってたけど、
私としてはロミアンがそんな風に感じているようには思えなくってね――」
そうなの? リリアリスはそう訊くとフロレンティーナは話を続けた。
「彼女の一部が私の中にあるからかな、それでなんだかロミアンの気持ちがわかる気がするのよ」
なるほど――リリアリスは頷いた。
「でも、だからと言って私は辞めたりしないよ。
ちゃんとあんたたちについていくって決めたんだからね。
ロミアンは元の居場所に居たくないのかもしれないけれども、
私としてはどうしてロミアンがそう感じるのか、きっちりとケジメをつけようと思っているの。
それに――今のロミアンの居場所はロミアンの里なんだし、私の居場所はこのクラウディアス、
たとえどこで何があっても私はここに帰ってくるつもりよ」
リリアリスはにっこりとしていた。
「そうね、確かに、その通りよね。
私も、もしかしたら元の居場所があるのかもしれないけれども、
それでもここに帰ってきたいと思っている。
いい国だし、必要としてくれている人もいるしね。」
それに対してフロレンティーナは言った。
「そうよね、本当にいい国よね、土地も人もね。
特にこの国にはリリアリスって女がいるんだけどさ、彼女は見るからに男にモテそうなぐらい美人なのに、
かなりのお転婆で大の男が相手だろうとなんのその、そのせいなのかそこまでモテないぐらいの変わり者なのが玉に瑕なの。
でも、とても頼りになるし、女性たちの間ではまさにカリスマ的存在と言えるほどの大人物で、私の人生にも大きな影響を与えたのよ。
今の私がここにいるのも彼女のおかげでなかなか頭が上がらなくってよ、だから――彼女とずっと仲良くしていられたらなって思うのよ」
リリアリスが答えた。
「なるほど、そうなのね。
確かに……そう言われてみると、私としても思い入れのある子がいてね、
その子、見るからに魅力的で男にモテそうな毒蛇女なんだけど、毒蛇女のクセにこれがなかなか甘えんぼの可愛い子でね、
だからそのまま毒蛇女路線を突っ走っていくような魅力たっぷりの女性になるようにって応援しているのよ。
その甲斐もあってか、根が真面目なんでしょうねきっと――超デキる美人女秘書ばりの働きをしてくれるし、
今じゃあ立派なクラウディアスの重鎮の一員になってくれて私も鼻が高いわ。」
「ちょっと! 毒蛇女って私のこと!?」
少々怒り調子でそう訊フロレンティーナ、リリアリスは悪びれた様子で可愛げに言った。
「あら? バレちゃった?」
だが、フロレンティーナは嬉しそうに艶めかしく言った。
「うふふっ、そうよ、私は毒蛇女……私の毒にハマると私から一生逃れられなくなるのよん♥」
リリアリスも嬉しそうに言った。
「ええ、まさに。その毒は甘い蜜の味。本当に可愛いわよね。」
「うふふっ♪ そんなに可愛いんだったら抱いてくれるかしらぁん?」
フロレンティーナはそう言いながらリリアリスに甘えてきた。
リリアリスは得意げに彼女をお姫様抱っこした。
「ったく、本当にわがままなお姫様よねあんた。まーたそこが可愛いんだけどさ。」
何やら楽しそうな2人、その様子をテラスから見ているヒュウガは、いつもながら何やってるんだあの人たちと、呆れた様子で見ていた。