ある日のこと、クラウディアスの5階のテラスにて。
「暑い日ね、冷房でもつけよっかしらね。」
屋外なのにどうやって空調つけるんだ、そう思う者も多いかもしれないが、
この女の所業の前なら誰しもがそんな野暮な思い込みはしない。
するとその通り、5階のテラスには涼しい風が舞い込んできた。
「科学技術に魔法の力を融合する当たり、やっぱり只者じゃないよなあんた。
言ってもそういうところは俺にも身に覚えがあるんだが」
と、そこへヒュウガがやってきて言った。
「身に覚えがあるんだったらあんただって私と同じバケモノじゃないのよ。」
それに対してヒュウガは「へいへい」と軽く返答した。
「で、何しに来たのよ、それを言いに来ただけ?」
リリアリスはそう訊くとヒュウガは頷いた。
「そう、言いに来ただけ。
というか、冷房つけたんならこっちのほうが涼しいのは確実だからこっちにいようと思ってな」
「あら、そうだったのね。そういうことなら使用料として1時間10,000ローダいただくわね。」
「高ぇよ。どこの世界の風俗だよ、いくら何でも暴利すぎるだろ。んな冗談言ってないで場所よこせよ」
「そしたらヒー様のこと可愛がってあげるのにさ♪」
「結構です。間に合ってます。余計な事はしなくていい」
「つまんないノ♪」
ヒュウガは端末をテーブルの上において座ったが、その隣でアリエーラが怖い顔をして自分の端末をじっとにらめつけていた。
どうしたのだろう、ヒュウガは気になったのでそっと覗いてみると、リリアリスが言った。
「アリが嫌だって言ってるのにずっと続いているのよね、ソレ。
前はそうでもなかったんだけど最近はずいぶんと過激になっててさ、本当に困ってるのよね――」
それはアリエーラのファンクラブを謳う内容のサイトだった。無論、非公式だが――
「深刻化する前に公式サイト作って前もって抑えておいたほうがいいんじゃないのか?
本人公認のものだったらファンの心理としてはむしろ、大人しくそっちに従いたくなるだろうし。
そうでなければただただ輩が増えていくだけだ、しまいには手に負えなくなる。
だからそうすればよかったんじゃないかと俺は思うぞ」
えぇー、アリエーラはそう言われてひどく悩んでいた。
さらにヒュウガは自分の端末でアリエーラについて検索をかけたところ――
「うわっ!? これは酷い――個人情報なんてあったもんじゃないな。こいつは訴えることも可能だぞ」
それはアリエーラの行動を事細かに観察しているものだった、
まさにストーカーまがいの犯行である。それに対してリリアリスが言った。
「ええ、そう。だからヴァドスに頼んでいろいろとやってもらってるとこ。
今まで非公認なりにもみんなでアリのことを褒め讃えているだけっていうのがせいぜいだったけれども、
流石にアリのプライベートにまで土足で踏み込んでくるのは違うわよね。
それに――アリはクラウディアス国家の大事な仕事までしているんだから、
そうなると今度はクラウディアスのセキュリティに関わる問題にまで発展しかねないことになるし、
となればクラウディアスの制度をもう少しがちっとしたものにしようと進める感じよ。」
すると、ヒュウガはリリアリスを呼んで、4階で話をした。
「なによ、こんなところで――」
「いいから、アリエーラさんの耳に入れるべき内容じゃないからな。
と言ってもあんたらはシンクロしているから何とも言えないところだが、
そのあたりはうまい具合に自重してくれ、なるべくな――」
そして、ヒュウガは改まってひそひそと話し始めた。
「確かに制度を見直して個人情報に関して厳罰化するというのはいいかもしんないが、
それとは別に純粋な締め付けはよくないと思うぞ。
それこそ、対象はあのアリエーラさんだからな、普通のファン層からするとがっかりする要素でしかない。
つまりはそういった層に対してのフォローが必要だと思う、そうは思わないか?」
そう言われるとリリアリスは改めて周囲を見回しながら言った。
「確かにそうね――あのアリだからね、私個人としてもファンがいてもおかしくはないと思うし、
むしろ、本来ならファンがいるぐらいのほうがアリらしいと思う、アリのポテンシャル的にね。
だからそうね――確かにヒー様の言うことにも一理あるわね。」
「だろ? だからそういう目的でもアリエーラさん公認のファンサイトがあったほうがいいんじゃないかと俺は思うんだ、何とかならないもんか?」
そう言われると――リリアリスは秘策というほどのものではないが、考えがあった。