そのあとの段取りで彼女らは全員受け入れてもらったようだ。
「そうですか! みなさん、プリズム族なんですね!」
トトリンはそう言うとララーナが訊いた。
「はい、具体的に言えばプリズム族だけというわけでもなく、プリズム族の血を引いているだけという者もいます。
本当はラミア族が相手ということで拒否されるんじゃないかと少々心配しておりました」
トトリンは答えた。
「確かにラミア族は魔族の血がベースとなっている種族、
精霊族の血がベースであるプリズム族とは相容れられないのかも知れません。
ですが、ロミアンは”そのような壁を作ったのは1人1人の気持ち次第でしかない”と言ったことに影響を受けまして、
私たちはたとえ種族がなんであろうと分け隔てなく接することを考えるようになったのです。
もちろん、この集落を築き上げた際も彼女に影響されたからです」
ラミア族は魔族の血がベースとなっている種族、プリズム族のように種族が集まってどうこうするというような種族ではない。
だが、エンブリアではラミア族が各々孤立してしまうことで返って危ない目に遭うということが起きていた。
特にこの手の女性は魔女だということで、どこぞのロサピアーナよろしく即火炙りの刑にされてしまうことも珍しくなく、
孤立しているラミア族にとっては苦しい世界情勢である。
そのため、ロミアンというラミア族では強いリーダーとなる女性がおり、
このユーラルの地にてみんなで仲良く暮らそうと持ち掛けたのである。
無論、その際には衝突もあったが今ではすっかりと定着したらしく、
ラミア族としても大きな革命であるとして、各地で孤立しているラミア族が続々と集まってきているらしい。
それにしても強い女性のリーダーとはまるでどこかの誰かさんを思わせるのだが、そのどこかの誰かさんが話をし始めた。
「なるほどね、強きものに従った結果、それが居心地が良いことを悟ったことでそれが定着したのね。
まさに魔族の考え方の源流に基づいた考え方だけど――
そう考えるとロミアンというのはとても偉大なリーダーだったという感じよね。」
フロレンティーナはなんとも言えなさそうな面持ちで答えた。
「ええ、それはもう。
それこそ、彼女が命果てることになった理由というのも実はそこにあるのよ――」
ロミアンはフロレンティーナによって瀕死の状態で発見されている。
そうなったことの理由は、やはりディスタード本土軍の侵攻によるもので、
そいつらから他の者の命を守るべく、身体を張った結果なのだという。
そして、最期に自らの身体をフロレンティーナに託し、彼女の願いをかなえた――なんとも気高くて素敵なエピソードではないか……。
「それは確かに頭が上がらないですね――。本当に、すごく素敵な人物――」
アリエーラも感心していた。
「ふふっ、彼女のことをそこまで褒めたたえていただけるなんて私たちも嬉しいですし、彼女のことを誇りに思います!」
と、トトリンは言うが、なんだかあまりラミア族の女性っぽくない気がする。
フラウディアは首をかしげていると彼女は答えた。
「ですよね、みなさんの思っているラミア族のイメージって、もっと自分をアピールしたがりな感じがありますよね、
現に、私もそうでした――」
でも、この変わりようはやっぱりロミアンの影響なのかと訊くと彼女は答えた。
「まさにおっしゃる通りですね。この里のみんなはロミアンが大好きです!
彼女は強くたくましく、それでいて美しいのに自分を着飾ることなく、
どんなに力の弱いものであっても分け隔てなく接してくださいます!
そんな素敵な女性ですから、みんな彼女のもとに集まってくるのです!」
魔族にしてはその集まって来るという行為が半ば信じられないのだが、
ロミアンの前提としてはとにかく強い存在であること、
力を示すことで存在をなす魔族であるということを考えると、
余程の人物なんだなと思った。
や、ちょっと待てよ――リリアリスは思った。するとアリエーラが――
「あっ、リリアさん、実は私もそれを考えていました!」
えっ、アリも!? って、この同時シンクロが発生するとは本当に恐るべき2人である。
「えっ? 考えてたって何を?」
フロレンティーナは2人にそう訊くと、リリアリスがトトリンに訊いた。
「ねえ、ロミアンってもしかしてだけどさ、
自分がどこから来たのかわからない的なことを言ってなかった?」
えっ、それってまさか! 何人かがそう思うとトトリンは答えた。
「ええ、言ってましたね。
常に彼女は言ってました、自分のいるべき場所はここではない、ほかにあったはずだって。
でもそれがどこなのか――そしてどうやって今の場所に来たのか――まったくわからないと言ってました。
でも、彼女はそんなことより、この里に仲間たちを集めて仲間同士で暮らすことを選んだことでとても楽しいと言ってましたね――」
トトリンはニコニコとしていた。間違いない、ロミアンはどうやら”ネームレス”である説が濃厚のようである。
トトリンは自分の家に彼女らを招くと、それぞれ思い思いの場所でくつろいだ。
「なんだか素敵な場所ですね――」
ララーナは家の内装を見まわしていた。そう言われたトトリンはにっこりとしていた。
「ありがとうございます、この家はロミアンの家でした。
今では一族の長としてこの私が責任を持って維持しています、家だけでなく一族をですね!」
まさにラブリズの里のようである。そして、リリアリスが説明をすると――
「なるほど、”ネームレス”ですか、つまりはあなた方と同じ――」
リリアリスは頷いた。
「これまで彼女……フローラはまさに”ネームレス”としての力を発揮していたの。
でも、彼女自身は心当たりがなく、私たちと違って昔の記憶などがはっきりしているから、
私たちと違うタイプなのかなと思ってたんだけど――」
トトリンは頷いた。
「つまり、フローラがロミアンの一部を宿したために彼女の力を発揮するようになったということですか?」
可能性としては濃厚であるが、真相はわからずじまい――そのため、何とも言い難かった。ただ――
「でも、おっしゃるように、少なくともロミアンはその”ネームレス”というものには当てはまるんだと思います。
昔の記憶がはっきりしない、自分がどうしてここにいるのか、それになんだか元々の居場所が違うような気がするなどと言ってましたし、
それに――彼女は確かに強い人でした、ここへ幾度となく多種族が攻めてきたのですが、いずれも彼女の力一つでねじ伏せられています」
だが、そんな彼女が亡くなったのは――
「あの当時、彼女はほぼ毎日のように森を出るというのですが、
ある日彼女に理由を聞くと、子供たちを守るためだと言っていました。
しかし、この森にいる子供たちというとそれほど多いわけでもなく、みんなで不思議に思っていたところでした。
ですが、それで確認したところ、なんと、彼女はどうやら外の世界の人間の子供の様子を遠目から確認していたようでした――」
このあたりは子供たちが通学に使う道だったようで、
彼女はそんな子供たちを心配して見守っていたのだった。
ところがディスタード軍がユーラルへの侵攻を開始すると、この道にも戦争の魔の手が伸びることに。
そして、彼女は命と引き換えに子供たちを守り、命を落とすことになったのだという。
なんとも気高いエピソードである、これはかなわん。
「でも、フローラさんが……ロミアンを森に帰してくれたこと、今でも忘れられません。
彼女の最期をみんなで見届けることができたのです、そのことに感謝しなくては――」
そして、ロミアンは悩んでいるフロレンティーナの悩みを解消すべく、死にゆく自らの身体の一部を彼女に託した――
「まさに感動ものね、かなわないわ。
それに、託されたフローラときたら見ての通り、すごくいい女なのよ。
やることなすことすべてがまさにいい女っていう感じ。
照れ屋だからわざと悪い女を演じたがるけれども、根はすごく素敵な人間性で、面倒見もいいから私はだいぶ助かっているわね。
やっぱり気高い女の意思はいい女が継がなきゃいけないルールがあるってワケなのね!」
「ちょっ! リリア! やめてよもう! 私そんなんじゃないし!」
フロレンティーナはとても照れていた。そのやり取りを見ていたトトリンは楽しそうに笑っていた。
「あはは! 確かにフローラったら、ここに来た時もそういういきらいがありましたからね!
それに――ロミアンも結構な照れ屋でした。だからもしかしたら――彼女はフローラと自分の影を重ねたのかもしれませんね――」
フロレンティーナは顔を真っ赤にしたままだった。