リファリウスはデータ・フロアの2階まで降りてきた。地鳴りの音の源だろうか、さっきよりも音が強く感じた。
その場所にはアリエーラとフロレンティーナと、どういうことだろうかと気になった面々がリファリウスについてきた。
そして、その部屋へと入って行った、どうやらラトラがいた部屋らしいが――
「なんだここ? ただの通路?」
ティレックスは訊いた。だが、その通路にはどういうわけか雪除け用の道具や防寒具が供えられており、しかもどういうわけか妙に寒い。
すると、通路の反対側にはやはり防寒具を着込んだラシルがいて、リファリウスに話しかけた。
「寒いっすよ」
「知ってるよ。すごい音がしているでしょ?」
「ええ、まあ。着ないんですか?」
「知ってるだろ、私には必要ない。」
ラシルは頷くと扉を開け、リファリウス、アリエーラ、フロレンティーナの3人がすぐに入ると部屋をすぐ閉めた!
「ちょっ! オイ! 俺たちは入れてくれないのか!?」
アーシェリスがそうもんくを言うとラシルは答えた。
「いや、そういうわけじゃないけど、そんな軽装じゃあ風邪ひきますよ?」
どういうことだ? 取り残された者たちは互いの顔を見合わせ、首をかしげていた。
そして、促されるままに防寒具を着てその部屋に入ると――
「なんだここ! なんで城の中にこんな猛吹雪の部屋があるんだ!」
部屋に入ったメンバーは至極驚いていた。
辺りは一面雪だらけ、白銀の世界が広がっていた。
「天の恵みよ! 大地を潤して!」
あれはアリエーラさん……遠くから彼女が水魔法を発動している姿が見えた。
雨を降らしているようだが、そこに――
「氷よ! すべてを凍てつかせなさい!」
フロレンティーナが氷魔法で水分を凍らせているようだ。
だが、一番寒い原因を作っているやつは――
「風よ! すべてを巻き込め!」
リファリウスである。こいつが暴風を巻き起こしている。
つまり、猛吹雪を作っているようだ。
リファリウスとアリエーラは自らに炎魔法を使って防寒対策をしているが、フロレンティーナは着込んでいた。
ともかく、心の準備をしていないメンバーはあまりの寒さに一旦退避。
「なっ、なんなんだここは!」
ティレックスは訴えるようにラシルに言うと、彼は答えた。
「マシンの冷却室です。
この部屋の数か所にメイン・ルームなどのマシンが設置されていまして、
マシンの熱を冷やすためにこの吹雪部屋があるんですよ」
なんと、聞けば元々魔法による備え付けの吹雪発生装置的なものがあるらしく、
普通ならそれだけで事足りるようだが、今回は”ヴィザドマ”のせいで例外、
人為的に冷却効果を上げるために3人が一生懸命冷やしているようだ。
また、マシンは水気に弱いので、吹雪空間とは防壁1枚で隔てられているという。
「まったく、とんでもない構造を思いつくもんだな、リファリウスだかリリアリスだか知らないが――」
ガルヴィスは頭を抱えていた。
暗号の解読が無事に終了したようだ。その話をかぎつけて内容を見てみようとギャラリーも増えていた。
だが、あまりの多さゆえにメイン・ルームだけでは収まらない。
そのため、データ・フロアの3階などにもメイン・ルームでの情報を展開することになった。
今回の情報展開については権限は緩めなのでクラウディアスの基幹システムにとりあえずアクセスできる端末であれば見られる情報らしく、
ルーティスなどにも特権を与えて情報共有を図ることにした。
つまり、個人の個室からでも見れるということでもある。女王陛下エミーリアはレミーネアと一緒に執務室でモニタしていた。
そして、今回展開する情報はまず、ガリアスが書き連ねていたテキストファイルで、
いわゆる、彼の日誌というものである。
「なんというか、こういう試みは初めてなんだよね。
クラウディアスはかなり先進的な設備にしてあるから、実はうまくいくのか不安なんだよね。
特にemilyだけど、大きな不具合抱えているんじゃないかってなかなか不安で――」
それに対してガルヴィスのクレームが飛んできた。
「御託はいいからさっさと始めろ!」
ガルヴィスは3階の部屋からマイク越しに叫んでいた。
声のほうも館内放送で共有しているが、声のボリュームは実際の音量から減衰された状態で伝わっていた、
リファリウスがマスタ音量を操作しているようで、音量調整を受けていたようだ。
「はいはいわかったよ、仕方がないな。んじゃあさっそく始めるとしますかね。」
ということで、リファリウスは日誌のファイルを開き始めた。
最初のうちはあまり重要なことは書かれていなかった。
どこに攻めたとか、軍備を拡張しただとか、その手の内容ばかりだった。
そのあたりの話については既に終わっていてどうでもいい話、リファリウスは軽く読み飛ばした。
だが、その内容についてはあまりにも詳細に書かれており、リファリウスは読み飛ばすと同時にいろいろと考えていた。
「狂人節は司令官就任初期のころから健在ということか、とにかく細かいね。
我々の知らない領域の内容もあるから、このあたりの内容は軍に渡して、
エダルニウス戦績の後始末ということでやったほうがいいかもね。」
すると、とある方が発言した。
「ルーティスのナミスです。
そういうことであればクラウディアス連合国内で改めて協議する場を設けたほうがよろしいかと思います。
みなさん、いかがでしょう?」
それに対して各国の方々が次々と「異議なし」と返答していた。
心なしか、いずれもさっきの調整されていたガルヴィスの怒鳴り声よりも大きく聞こえた。
それも音量調整による効果である。
しかし、そんな様子にリファリウスが言った。
「随分と、この国にも――クラウディアス連合国にも余裕が出てきたようだね。
それこそ、この国を面倒見るなんて――実を言うと私の趣味……っていうと少し語弊があるけれども、
実際そのぐらいのことでしかなかったんだ。
だけどいつの間にやらクラウディアス連合国なんていう大規模なものになってしまっている。
きっかけは本当に趣味ぐらいのレベルの些細な事だったんだけど、こんなに本格的なことになって私も本当に鼻が高いよ。
それもひとえにみんなのおかげだ、アリエーラさん、クラウディアスの元々の重鎮の方々に今の人たち、
エミーリア姫にラシル君、そして各国から協力いただいた多くの方々――
私は本当に恵まれていた、感謝するよ――」
すると、ガルヴィスが再び怒鳴り声を上げようとしていたが、とうとうスピーカーOFFにされてしまった。
なんだかもどかしい思いをしているさなか、様々なところからリファリウスに向けてメッセージが。
「エミーリアです!
私たちのほうこそ、お兄様やお姉様方には感謝してもし尽くせません!
このクラウディアスをこんなに素晴らしい国にしてもらって、本当に感謝しています!
本当にありがとうございました! これからもお世話になると思いますが、改めてよろしくお願いいたします!」
「ナミスです。
私たちのほうこそ、あなた方には本当に大変お世話になっております。
ルーティスは南方からの度重なる敵からの侵略、それを見事に解決してくださったのはやはりあなた方、
そしてルーティスの復興と学士支援のための取り組みの実現と、
相互発展のための連携協定など、いろいろなことでお世話になっております。
ですので今後もクラウディアス様とは変わらぬ関係を続けていきたいと思っております」
「ティルアのバフィンスだ。
水臭ぇなあ! 世の中ってのは持ちつ持たれつなんだから気にすんじゃねえよ。
困ったときはお互い様、困ったときはいつでも言ってくれよ!
もちろん、うちが困ったときは飛んできてくれよな!」
「キラルディアのヴェラルドです!
我々としてはむしろリファリウス様――クラウディアス様の意志の強さに感服しています!
あなた様のその意思の強さについていこうと決心した結果がまさに今の状況なのだと思います!
そう、あなた方はまさに信頼に足る方々であるということです!
ですからこちらこそよろしくお願いいたします!
共にクラウディアス連合国を、エンブリアを盛り上げていきましょう!」
といったようなことを次々と話していた。
ガルヴィスはそんな話を聞かされて唖然としていた。
そして、そんな状況に対してリファリウスは――
「確かにその通りだね、みんな。
とりあえず、暇をしてしびれを切らしている人もいそうだから話を戻すことにするよ。
続きは次回のサミットですることにしよう。」
と、その言葉がガルヴィスの心に深く刺さっていた――。