クラウディアスの”メイン・システム・ルーム”またの名を”メイン・ルーム”、
クラウディアスの”データ・フロア”にある部屋の中でもかなり広い部屋である。
以前は”クラウディアス・フィールド・システム・ルーム”という部屋だったが、
フィールド・システムに限らないため、そのように改名されたのだそうだ。
また、”データ・フロア”とはいうが、以前は”デジタル研究棟”という仮の名前が当てられていた。
クラウディアス城に新設されたその建物、”デジタル研究”とか古臭いというリリアリスの一存でその名前にあてがわれたのである。
そして完成形は当然、クラウディアスのメルヘンチックなイメージを損ねないような工夫がなされている。
建物自体がなかなかメルヘンチックだが、内観は実に現代的・近未来的である。
なお、クラウディアス城の西側にある棟でもあるため、”西棟”でも通じる。
データ・フロアの1階と2階は厳重に管理されており、外からは施錠されていて不用意に入れないようになっている。
というのも、データ・フロアの1階と2階はサーバ・ルームとコンピュータ関連の倉庫だけ、
純粋に重たいものは下に置くという考え方故にそのような配置となっている。
無論、サーバ・ルームというか、クラウディアス・データ・センタの心臓部でもあるため、セキュリティが非常に厳しくなっている。
データ・フロアの3階が主に実習室などの部屋がある場所で、使いたい人は身分を証明するものがあれば気軽に使えるのである。
なお、3階と似たような施設は町のほうにもいくつかあり、さながらネットカフェのようである。つまり、クラウディアスには一般的なネットカフェがない。
使用にあたり、ルーティス学園やガレアとの連携技術も考えられており、相互のデータ・サーバの利用が可能と、いろいろとそろっている。
無論、それ以外の国が声を上げればその国とも連携が可能。
現段階で画期的と言えるのは無制限シンクラ機能、通称emilyである、名前の由来がわかる気がする。
これは世界のどこにいても端末とネット回線さえあれば常に自分用のデスクトップが使用可能というもので、
emilyの保存情報についてはクラウディアスとルーティス、ガレアの3拠点にまたがって保存されているのである。
元々デジタル化の遅れていたクラウディアスということもあり、ほとんどのクラウディアス一般民はemilyのデスクトップを利用しているものが多い。
だが、emilyはあまりに便利すぎるというので導入したいという企業が殺到し、現在3拠点共にサーバの増設工事が急がれている状況である。
まさにエンブリアにおける新たな働き方改革の幕開けといったところだろうか、休日にいきなり呼び出される可能性もあり得るが……。
ちなみに、クラウディアスではemilyの保存情報は、実はデータ・フロアの地下においてあることは内緒の話である。
無論、守衛さんが常駐しており、24時間体制で守られている。
話を戻そう。データ・フロアの4階はさらにセキュリティ・レベルの高い階層となっており、
”メイン・システム・ルーム”があるのもここである。
彼らは頻繁に出入りしているほどなのだが、実は高機密情報だらけという取り扱いが厳しい部屋だったりする。
また、機密性の高いフロアでもあるため、emilyの保存情報が眠る地下のフロアに行く方法も4階にしかない。
”メイン・システム・ルーム”のみならず”ハイエンド・デバイス・ルーム”というのがあり、
いろんな意味でヤバイ部屋……使用していない場合は主にクラウディアスのSEチームや一部の企業には人気のある部屋らしく、誰かは必ず使用している。
何故か? 名前の通り、ハイエンドなデバイスがあるからである……高スペックまたは高級なデバイスが並んでいるからである。
特にスペックとなると開発メーカーとしてはサービスを展開するうえではやはり試したくなるもので、待ち行列が絶えない。
なお、西棟5階はテラスが広がっている、つまりはいつものプレイスであるが、
データ・フロア棟分を拡張しているため、以前に比べてスペースが広がっているのである。
だが、下層がデータ・フロア部であるため、ネットの回線にはこと困らず、常にリリアリスらの端末が置いてあるほどである。
無論、このテラスから直接データ・フロア部へ行くための導線もある。
そして、話は”メイン・システム・ルーム”のところまで戻ることに。
そこにはガリアスと対峙したメンバーが全員と、クラフォードとガルヴィスもいた。
「なるほどね、データ量がヤバイのか、それでわざわざここで展開を――」
と、送付されてきたデータのサイズを見ながらリファリウスは言ったが、その続きはヒュウガが言った。
「……することも考えていた。
だが、残念ながらそういうわけにもいかなくてだな――」
ヒュウガは説明した。
「今、ラトラがハイエンド・デバイス・ルームにある高スペックサーバの用意をしてくれているからちょっとだけ待っててくれ」
「確かに、データサイズが不用意に大きいみたいだけど……何か問題があるのか?」
と、ティレックスは訊くと、リファリウスが答えた。
「実はそのデータサイズが不用意に大きいというのが問題らしい。
ファイル自体は暗号化されているけれども既に解析は済んでいて、
後は複合化して実際のファイルにしてデータを読み込めばいいだけなんだけど――」
それに対し、ガルヴィスが――
「じゃあ、もったいぶっていないで、さっさと早くみせろよ。
そもそもそういうのってガレアでやってたんだろ?
なんでさっさと複合化とやらをしないで送ってこないんだ?」
ヒュウガは頭を抱えていた。
「そういえばいたんだっけコイツ……」
リファリウスは苦笑いしていた。
「ああ、そうしたいところなんだけどね。
でも、暗号化して送ってきてくれたほうがサイズが小さいっていう利点があるからこのまま送ってきてもらったんだ。」
しかし――
「なら、早くやれって言ってるだろ、何をためらっている?」
リファリウスはお手上げだった。そこへクラフォードがさりげなくフォロー。
「要は複合化するとファイルサイズがでかくなるんだろ? どのぐらいでかいんだ?」
リファリウスは頷いた。
「見ての通り、こいつは10GBと、これだけでも結構大きなサイズだけど、
複合化した時のサイズ計算でサイズが64倍とか意味不明な値をたたき出している。
だから展開できないでいるんだよな――」
なんだそりゃ――クラフォードは頭を抱え……
「聞いたことな……えっ、640GB!? 何ファイル!?」
リファリウスは呆れたような態度で言った。
「普通のテキストファイルがたくさん。彼の狂人節がわかる一幕だね。
無論、普通の暗号化……圧縮ファイルだったら1ファイルずつ取り出せばいい話だけど、
面倒なことに、エダルニアでは独自の暗号化方式である”ヴィザドマ”というのがあるらしく、このファイルもそれで暗号化されていたんだ。」
ヒュウガが付け加えた。
「これのライブラリってやつを何とか見つけたおかげで複合化が実現できたってわけだな。
だが、ライブラリの改良とかはほとんど手が付けられていないから古い方式ってところか。
10MB程度のファイルでちょっと試してみたんだが、端末のファンがいつも超高速回転するあたり、
ほぼ低スペックマシン用の数KB程度のファイルを圧縮するための形式……まあ、大昔のデータ単価が高い時代のために考えられた形式とみて間違いなさそうだな」
えっ、それはまさか――すると、部屋の扉のほうからラトラが現れた、何故か防寒具を着ていた。
「準備できました! 接続したのでお願いします!」
ヒュウガは頷いた。
「よし、じゃあ複合化するぞ――」
ヒュウガは意を決して実行した! と、その時――
「ん? 何の音だ!?」
遠くからなんだか地鳴りがするような感じのものすごい音が聞こえてきた。
「おい、まさか――またセラフィック・ランドが消えるとか、そういうことじゃないだろうな!?」
ガルヴィスは慌てながら言うと、リファリウスは立ち上がった。
「いや、これは”ヴィザドマ”のせいだね。仕方がない、私も手助けしてやるか。」
ど、どういうことだ!?