事の発端はもちろん無国籍小隊プリシェリアの件から。
プリシラはあの時レムレスに、ガリアスとの交渉は決裂し、そしてガリアスは相当に強いことを伝えていた。
他愛のない会話のようだが、レムレスの正体はリファリウス、つまりそれはリファリウスに対するサインである。
そして後日、場所は再びプリシェリアでの打合せである。
「あの人、とても非情な能力の持ち主です――。
リファ様の腕なら造作もないことかもしれませんが、どうでしょうか……」
そのことについてはフィリスらからも聞いていたリファリウス、彼は悩んでいた。
「あの人生オワタを体現しているほどの独特の狂人ぶり――フィリスも死に場所を求めているみたいだって言ってたね。
つまりはみんな同意見ってことか――やっぱり、私も一緒に行ってたらその場は大惨事になっていたに違いない。
むしろ、プリシラさんがいたのに大事にならなくて良かったと思うよ。」
プリシラは頷いた。
「私は避けられていました、やっぱりプリシェリアっていうぐらいだから、
プリシラはクラウディアスとは関係ないとみていたのでしょうか、様子を見ようとしていたようです。
そのあたり、リファリウスさんの先見の明は正しかったと思います、流石ですね!」
だが、そう言われたリファリウスは悩んでいた。
「それはまあ……。
とにかく、気がかりなのは死に場所を求めている割にはその散り方が潔くないのがちょっとね、
他人を明らかに巻き込んでやろうっていう迷惑極まりないもの――
うーん、そういうことならやっぱり倒すしかないのか――」
「カイトさんたちが言っていたとおりですね――」
2人は悩みながら話をしていた。
「カイト――あの話をしていたからな、エンブリアにおいては冗談を言われるようなあの話。
冗談だから効果も冗談で終わってしまう代物らしい。
でも、それを冗談ではないと言うのは”ネームレス”だけ――つまり、
ガリアスは冗談ではなくて本当に使用しようとしているからあいつは間違いなく”ネームレス”だろう。
それに使用しようとしているあたり、冗談で終わろうがそうでなかろうがまさにこの世の終焉を望んでいるという感じだろうか。」
リファリウスはそう言うと2人は悩んでいた、冗談を言われるようなあの話とは何か? 後でわかる。
「でも、だからと言って実力行使は正直厳しいな。
やってやれなくもないとは誰もが言うけど、
それこそ”超級ネームレス”同士の戦いってなると、
前にもどこかで言ったように島一つ吹き飛ばすのも辞さない威力は出そうだしね――」
とはいえ、何度も言うようだが本当に島一つ吹き飛ばすかどうかは別問題である。
そして、そこでリファリウスの案が。
「となると、あいつを倒す方法はただ一つ、とにかく無防備な状態にして一撃で倒す方法しかない。」
確かにそれなら抵抗されることもなく、一番確実に絶命できるだろう。
しかし世の中それができれば苦労しない、そんな状況をどうやって作るかが問題である。
「それは信頼を得ることだね、言ってしまえばあいつの仲間になること。
外部の人間が”私、協力するから”程度のものじゃダメで、
もっと確実に……同じ志を持った人間として接することが可能なレベルでないとダメだろうね。」
流石はリファリウス、逆算も絶好調のようだ。
だが、自分以外を信用していない相手にどう取り入ろうというのか。
部下という立場に置くだけならあのガリアスを見てもわかる通り信頼度は適当で十分のようだが、
部下を心底信頼しているわけではないため、
やはり自分以外はどうでもいいというガリアスが相手ならそれは厳しそうだ。
逆算はここまでか? リファリウスはさらに考えていると――
「そうだ! 誘惑魔法だ!」
えっ? プリシラは訊いた。
「でも、あの人の中には別の何かが心を満たしているので、誘惑魔法が通用するかは怪しいです――」
リファリウスは言った。
「違う違う、そういう使い方はしないよ。
それこそ先に言った通り、ガリアスとは同じ志を持った人間として接することで信頼が得られるってワケだよ。
ガリアスの志は何か? 世界を支配することだ。そう、世界を支配する同志として共に行動するんだ。」
リファリウスは続けた。
「そこでポイントとなる武器が一つある、誘惑魔法だ。
誘惑魔法はまさに妖魔の女性の専門分野といったところだろう。
しかもエンブリアは残念ながら男尊女卑な流れが続いているところが多く、
それがエダルニウスとて例外ではなく、兵隊のほとんど……いや、ほぼすべてが男性兵士だ。
そう、それがガリアスにとっては裏目に出てしまうというわけだ。
言い換えると、妖魔の女性が誘惑魔法を振りかざした途端に男ばかりで構成されているエダルニウス軍なぞいとも簡単に掌握できるというわけだ。
ヤツにはないその特権を振りかざすことで、ヤツ以上に男をうまく扱える――
いや、それどころか敵の男ですら自分の手駒にできるというその能力にむしろ関心を寄せていくだろう――
世界征服の日も近いと考えるわけだ――」
こいつ怖い。本当にこいつが読んでいる通りになってしまった。
もはや”超級ネームレス”のガリアスだから何って感じである。
妖魔の女性も大概だが、真に恐るべき存在はリファリウスだと思われる。
しかし、それを実行するうえで一つ問題があった。
「ただ――こんな役、どこの女性がしてくれるんだろうね、
お母様に相談して適任者を探すか、一番有力なのは私がすることだね。」
しかし、それに対してプリシラが――
「いえ! 私にやらせてください!」
そう、これが悪女・この世で一番美しくて麗しくて最高にセクシーで美味しい美味しい魅惑のパーフェクト・ボディな女のカラダの女神プリシラ様が出来上がるきっかけだったのだ。
だが、それは当然――
「いや、そんな、プリシラさんにそんなことさせるだなんて、流石に――」
と、リファリウスは言うがプリシラは――
「いえ、私にしかできないことだと思います。
あのガリアスのことですから無国籍小隊と偽って向かったみなさんについては既に素性は割れていると思います。
ですが、私は違います、あくまで無国籍小隊プリシェリアの者ですから、いろいろと好きなように理由は作れます」
なにこの娘怖いこと言ってる……。
「国を裏切ることは相手にとって信用されがたい行為ですが、
元々国を持たぬ私ならそのあたりはフリーですよね?
それに私は”ネームレス”です、”ネームレス”の誘惑魔法なら確実ですよね?」
リファリウスは根負けした。だがしかし、この話はここで終わることはなかった。
「途中からしか聞いていないけど、なんだか面白そうなことを考えているのねぇ♪」
「わぁ♪ プリシラさん、悪女を演じるんですね! プリシラさんの悪女っぷりを見てみたいです♪」
と、フロレンティーナとフラウディアが加わった。
「プリシラさんの悪女! どんななるんですか!?」
「プリシラさんの色香にかかればすべてのエモノはイチコロよん♥ ですか?!」
シェルシェルとユーシェリアもなんだか楽しそうにしていて話に加わった。
そう、プリシラの全力の悪女ぶりは彼女らが考えたことだった。
そして作戦を考えると――
「あのさ、その作戦だとまーた私が従順なる下僕やんないとダメじゃないか?」
「いいじゃん♪ リファ様なんだから♪」
ユーシェリアは楽しそうに言うとフラウディアはさらに追い打ちを。
「周りは敵だらけ、いつガリアスが見ているとも限らない!
だから私の時と同じようにヘンタイさんに変身しちゃってくださーい♪」
ええ……リファリウスは呆れていた。
「いいなぁ、私もレムレス様にイヤラシイことされたいなぁ♥」
「ちょっとプリシラ! あんたまたすごい贅沢な女ね!
リファ様にイヤラシイことされるなんてなんて羨ましいのかしら! 私と変わりなさいよ!」
シェルシェルとフロレンティーナはそれぞれ楽しそうにそう言った、この人たちは――リファリウスは呆れていた。
「ヤレヤレ、もはや波乱の予感どころか、波乱でしかない――」