エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

果てしなき探求 第2部 ”ネームレス”の脅威 第3章 バルナルド危機

第34節 喪失の記憶

 ある日、聖殿の屋上のような場所にて……
「賢者様、一体何があったのですか?」
「大賢者様が凶星を見たというのです!」
 正殿の上では賢者と僧侶が話し合っていた。 賢者と呼ばれる人が大賢者様からお告げというのを受け取り、その内容を僧侶の人に話していた。
「凶星ですって!?」
 僧侶はそう聞き返すが賢者は首を振って答えた。
「それの意味するものは私にはわかりません。 ですが、確実に言えることはこの世界は滅びに向かっているということらしいのです」
「滅び――もはや連中が出現したことが滅びの兆しと言わんばかりのものですが、そうですか――」
 僧侶はため息をつきつつそう言うと、賢者は頷いていた。
「もちろん、あの者たちが現れたのにも関係することだそうですが、それはあくまでこの世界の滅びの第1ステップに過ぎないそうです。 大賢者様がおっしゃるには、この滅びには全部で第4のステップがあり、そろそろ第2ステップが行われようとしているのです」
 僧侶は驚いた。
「第4の!? あれほどの脅威が4回も訪れるとでも言うのですか!?  いえ、大賢者様を疑っているわけではございませんが――」
 賢者は再び頷いた。
「そもそももうすでに第2ステップまで移行しているかも知れないともおっしゃられています。 しかし、もし、その第4ステップまでこの世界が堪えることができたのであれば、 この世界は生きながらえる――ともおっしゃられています」
 僧侶は絶句していた。さらに賢者は話を続けた。
「ただ、第2ステップで万が一のことが起こってしまった場合、 第3ステップでこの世界が終焉を迎えてしまう可能性があるともおっしゃられています」
「万が一とは一体!?」
 終焉とはのっぴきならない事情である、僧侶はそう聞き返すと賢者は落ち着きながら言った。
「ええ、万が一とは万が一のことです。 これからそのための”備え”をしなければなりません、 やるべきことはわかっていますので、早速呼び出すことにしましょう」
 そう言われ、僧侶は真面目な面持ちで答えた。
「わかりました、賢者様方のおっしゃる通り、まずは”備え”のための準備をいたしましょう」

 そして、その神殿の中に4人の女性たちが集まっていた。その4人の女性は――
「皆さん仲がよろしいのですね、こうして皆さんで一緒にやってこられるだなんて」
 賢者がそう訊くと1人の女性がこう言った。
「そんなこと……私ら運命共同体みたいなもんだし、友達の一大事ってことになったらなおさらよ。ね、みんな!」
「ええ、そうですよ!」
「そうですよ! 私だって心配なんです!」
「みなさん……私、お姉さんのことをしてくれるだなんて嬉しいです!」
 女性たちは次々にそう言う。なんだろう、どこかで見たような女性たちだが―― と、よくよく見たら、話をした順番にリリアリス、アリエーラ、プリシラと、そしてあのリセリネアの4人ではないか、どういうことだろうか。 しかも友達の一大事というのは……どうやらリセリネアが言っている”お姉さん”に関係した話のようだ―― そうか、彼女にはお姉さんが――
「しかし、今回用いる秘術では彼女の存在を忘れてしまうことで”備え”をしたことが返って逆効果となってしまうような気がするのです。 もちろん、大賢者様のおっしゃることなので疑いたくはないのですが――」
 賢者はそう言った。それに対してリリアリスが訊いた。
「ん、その秘術って”鍵役”がいるのよね? それって決まっているの?」
「お詳しいですね、もちろんです、私がその役を――」
「でもさ、どうせやるのなら強い絆で結ばれている者のほうがいいと思うんだけどなー。」
 言われてみればそうかもしれない、そのほうが彼女の存在を忘れてしまったとしても心のどこかで覚えている可能性があるハズだ、 賢者はそう考えたのだが――そうなると、”鍵役”になった者は荷が重くなるのではなかろうか。 無論、自分であれば全然気にしない、そのために賢者を志したのだから。だが、他人というのはどうも――
 しかし、鍵番をこなすのは強い絆で結ばれている者…… そこまで言うのなら賢者はそう思いなおした、確かに負担とは言えど、強い絆で結ばれているのであれば負担と思うはずなどないか――
「やはりこの中ではリセリネアさんしかいないですよね!」
 アリエーラがそう言うとリリアリスとプリシラは賛同した。しかしリセリネアは――
「わ、私なんて、そんな――いえ、もちろん、姉の鍵番ですから、言いたいことはわかります、でも、私――」
 リセリネアは不安がっていた。すると、アリエーラが彼女の不安を察して言った。
「この秘術って確か”合鍵役”が決められるのですよね?  彼女一人では荷が重いというのでしたら、せめてもう一人――」
「そうね、合鍵ね。それじゃあ誰が合鍵に――」
 リリアリスはそう言うが、それに対してプリシラが「リリアさんしかいないですよ!」という発言を皮切りにみんなで賛同、全員一致でリリアリスに決定した。 そんな4人の会話の様子を賢者様はニコニコしながら眺めていた。

 それからしばらくした後、神殿の奥からリリアリスとリセリネアは出てきた。
「記憶から抹消というとおり、一体何があったのかさっぱりわかんないわね。 記憶から抹消されたことだけは覚えているけれども、何が抹消されたのかな? リセリネアのお姉さん?」
「確かにそうですね――自分に姉がいたことさえ信じらんないです。 本当はいたのに全く覚えてないだなんて、ちょっと悲しいかな――」
 言っていることがよくわからない、一体何があったのか――
「でもまあ、必要な時に、記憶の底から引っ張り出されるハズよ。 次第にこの時の記憶も完全に消えていくハズだけど、 でも、その時に再会を喜んであげれば、お姉さんも喜ぶよ、きっと!」
「そうですね! 違和感があるけれど、なんだか待ち遠しい気がします!」