エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

果てしなき探求 第2部 ”ネームレス”の脅威 第3章 バルナルド危機

第32節 事情

 ということで、各々個室へと促され、事情聴取が始まった。 まずは1人目、シャディアスの顔に見事にキメた男、シャアードという男である。 特段、特徴というようなものはない男だったが、”ネームレス”という以上に腕はなかなか達者な感じを醸し出していた。 彼を担当するのはシャディアスとガルヴィス、そしてクラフォードだ。
「さっきは悪かったよ、ただの事故だ……」
 シャディアスは未だに根に持っていて、殺意満面の顔色を窺わせていた。そんなことは無視し、ガルヴィスが訊いた。
「なあ、あんたそういえばどこかで見たような気がするが――この俺に見覚えはないか?」
 なんと、ガルヴィスからそんなことを――。それに対してシャアードは言った。
「そう言われてみれば確かにどこかで見たような気がするなあんた。 でも、残念ながらどこの誰だったかは思い出せない、悪いな」
 ガルヴィスは答えた。
「気にするな、思い出せないのは俺も同じだ、とりあえずそれだけでもわかれば十分だ」
 クラフォードが口をはさんだ。
「知り合いか?」
「どうやらそうらしい。よくわからんが、多分――記憶をなくす前のことなんだろう」
 それ以上はわからなければ仕方がない。

 続いて2人目、これまで一言も発しなかった男、イツキである。 背が低くて童顔という、あまりにユニークすぎる特徴を引っ提げている可愛い男の子というところである。 それでいて性格は――
「さて、始めようか」
「……よろしく」
 と、ヒュウガの問いに対してイツキはややテンション低めに答えた、おとなしい男の子だった。 これ、一部の女性陣に対してはやばい要素なんじゃあ……
「案外年下なのかなって思ったけどどうなんだろうね」
 カイトはそう訊いた、イメージの割に大人のようだった。
「僕もその”ネームレス”というものなんだろ、だったらキミたちも一緒じゃないか?」
 無論、記憶がない点についてである。カイトは引き出そうとしたが、残念ながら思い当たる節はなさそうである。
「うーん、それは残念。じゃあ次、ガリアスについて。彼とはいったいどんな関係? ただの雇用主?」
 イツキは頷いた。
「正直、あいつのことは知らない。 ただ、自分と同じような境遇のやつを集めてどれだけ実戦に耐えうるのか試したいとは言っていた。 僕も自分を知る上では悪い話とは言えなかったから言われた通り、まずはバルナルトを攻めることにしたんだ」
 結果は割とあっさりと侵略に成功、そのまま進軍を許したのだった。 そう、ここでリファリウスらが待ったをかけなければ、バルナルトはすぐさまエダルニウスの手に落ちていたということである。 でも、自分と同じような境遇のやつを集める――ということはやはりガリアスも”ネームレス”か。

 そして3人目、紅一点の名前はハイドラという。 しゃべり方からもわかる通り、気性が激しく、男勝りな印象を受けるところがある。 極めつけはなんだか美しい天使というか女神というか、全体的に銀色というか白い色というか、そんな神秘的な服装をしているところである。 だが、彼女は褐色の肌をしており、目も顔も少々赤みを帯びていた。
 彼女からの事情聴取は女性陣が担当していた。
「ガリアスのことはあんまり知らないけど、でも、あいつからは異様な能力を感じたな、それだけは覚えている」
 ハイドラはそう言った。それよりもシエーナはやはり、彼女の見た目のほうを気にしていた。
「珍しいでしょうね、私のような存在は」
 シエーナの視線を察した彼女はそう言うと、シエーナは訊いた。
「あなたは精霊族、精霊族でその褐色の肌とくればダークエルフですね。 それにその服装、どこかの聖殿騎士団を彷彿させるような印象ですね」
 するとハイドラは笑いながら言った。
「私が聖騎士か何かですって? 冗談よしてよ。 確かになんで自分がこんな服装なのかは気になっていたけど、これじゃあただ目立つだけ。 ほかに着るものがないから、仕方なくこんな――何かのコスプレみたいな服装でいるだけよ」
 確かに目立ちすぎる。 そうだ、服といえば私の服とかどうかな、ウィーニアはそう聞いてみようとしたが、しかし――
「ねえ、さっきの人――リファリウスって言ったっけ? あいつを呼んできてもらえる?」
 えっ、リファリウス?

「ご指名いただき、恐悦至極感謝の極みでございます。」
 ウィーニアはそいつを連れてくると、そいつは部屋に入るや否やそう言いながらお辞儀をしていた。
「何わけの分かんないこと言ってんのよ。冗談言ってないでこっちに来なさいよ」
 ハイドラにそう言われてリファリウスはそのまま彼女のもとへ近づいてきた、すると――
「あー、やっぱり! あんたも同族ね。こっちのシエーナもそうでしょ?」
 同族――そうだった、リファリウスはこれでも精霊族である。あまりそう見えないのが玉に瑕である。
「やっぱりそうね、あんたまさかと思ったけどあれでしょ……」
 と、今度はハイドラはリファリウスにそう言った。 なんだろう……リファリウスは少し考えると、なんだか急に慌てたような態度を取り、 人差し指を口に当て、シーッ、シーッと言い、頻りに周囲を何度も見まわしていた。
「まったく、精霊族の女性には効果が薄いもんだから困る、すっかり忘れていたね。」
 それはどういうことだろうか。それについてはまたの機会に。
「さてと、それが分かったところで。この私に何の用かな?」
「そうね、この服じゃあ目立つから私の服を選んでもらえると嬉しいんだけど」
 リファリウスは腕を組み、得意げな顔をしていた。

 事情聴取を終え、シャアードとイツキは外で話し合っていた。
「知ってることを全部話したよ。言ってもほとんど知っちゃいないんだが」
「そう……僕も全部言った。でもあのカイトってやつ、話せば話すほど寒気がしてくる……」
 シャアードは頭を抱えていた。
「なんか、そうらしいな。 あのガルヴィスってのに言われたよ、カイトってやつとリファリウスってやつには気をつけろってな」
「そう? 僕はリファリウスよりもガルヴィスに気を付けるように言われたよ、ヒュウガって人から……」
 イツキはそう言い返すとシャアードは再び頭を抱えていた。
「あの物騒なやつな、ブレウトやラヒトみたいであんまり愛想ないよな。 話しているうちになんだこいつって思ったけど……でも、言われると確かに、どっかで見たような顔なんだよな――」
 知り合い? イツキはそう訊くとシャアードは言った。
「わからん。まあ、それがつまり”ネームレス”たる所以の謎ってわけだろ?  ガルヴィスはバカにしてたけど俺はその”異世界人説”ってやつを信じるぞ。 そのほうが説明がつくってんなら可能性が大きいほうに賭けたいからな」
 イツキは頷いた。
「でも、そうなるとその異世界への入り口ってどこにあるんだろうね。 それに……だったらどうやってこの世界に来たのかって気になるところだし――」
 すると、2人に遅れてハイドラが外に出てきた。 だが、彼女の服装は今までの姿とは打って変わってオシャレにまとまっていた。
「えっ、まさか、あんたがあのハイドラ!?」
「すごい! 見違えたよ!」
 ハイドラに対するシャアードとイツキの第一声がこれだった。 色は白からクリムゾンレッドに上は身体にぴったりフィットした服装、 下はひざ丈ぐらいのフィッシュテールなスカートで仕上がっていた。
 それに対してコーディネーターのリファリウスが同道、答えた。
「”戦乙女ヴァルキリー”たるシルエットはあまり崩さないでおきたかったからね。 そのうえでユニフォームのいろんな飾りも取っ払い、色も変えてみたら御覧の通りという感じだね。」
 ”戦乙女ヴァルキリー”?
「彼女は嫌がるだろうけれども、あの服装的に聖騎士団の一員みたいなところにいた可能性は高い。 恐らくヴァルキリーかなんかだろう、うちの姉さまがヴァルキリーの使い手で、 使っている能力的に同じような印象を受けたから、多分それだろう。」
 ハイドラは首を傾げた。
「私が、ヴァルキリー?」
「私らとは気が合うんじゃないかな、高いところへと平然と乗り降りできるんだ。」
 しなくてよろしい。階段のこと、時々でいいから……思い出してください。