ガルヴィスはリファリウスのもとへとやってきた。
「なんか、あっさりと倒したようだな」
リファリウスは考えながら言った。
「カイトの言う通りまるで手ごたえがない、”ネームレス”という割にはって感じ。
それに、各々が名乗っている名前も妙な感じがするし。」
ガルヴィスは頷いた。
「言っても全部カイトが言ってた名前だけどな」
今更だが、ガルヴィスはお寒い陰陽師の極意はそこまで信じていないようである。
そこでリファリウスは言う。
「恐らくカイトが言ってた名前すら本当の名前ではないんだと思う。
多分だけどエンブリアに来てから名乗った名前を拝借しただけに過ぎないんじゃないかな。
カイトの能力はあくまで”予測”、そのリソースを考えると個を取り巻く環境や事象からの計算だから、
当人の記憶がないということが枷になっていてそこまで計算できていないと考えるのが正しいんじゃあないかな。
無論、単なる記憶喪失という話だったら計算できるハズなんだけどってカイト本人も言っていたみたいだけど、
ということはつまり、これは単なる記憶喪失ではなく、
きっと何らかの要因でこのエンブリアで過ごすうえで不要な記憶がごっそりと抹消されているのが実際のところなんじゃあないかなって思う。」
それこそまさに異世界人説に基づいた話になるようだ。やはり異世界人説が有力なのだろうか。
「”ネームレス”という割にはまるで手ごたえがないのは以前の俺らと同じく、
自分の力の真の使い方を把握できていないことによる弊害か?」
ガルヴィスがそう言うとリファリウスは頷いた。
「それもあるだろうね。」
それ”も”とは?
「なんだろう、昔、私がフェニックシアで巨獣を倒した時のことを思い出してもらえればわかると思うけれども、
それでも私はそれなりに力の使い方を把握できていた。」
「確かに刀鍛冶や彫金細工、調合に機械技術、何を作るにしても操作するにしてもいつも精霊を呼び出していたな」
「でも、彼らはそれに比べたらどうだろうか? キミの”ブラスター・ソード”の例と比較してみてもどうだろうか?」
ガルヴィスは考えていた。
「言われてみれば妙だな、”ネームレス”だったらもう少し何かあってもいいような気がするが、
”ネームレス”を相手にしたという割にはなんだかあっけなかったな」
リファリウスも考えていた。
「つまり、私らよりももっと深刻な状況なんだと思う、
私ら以上に自分自身を把握していないという状態に陥っているんじゃあないかな――」
それを聞いていたヒュウガが言った。
「てことは名前が妙っていうのも俺らと違って自分の名前を把握していないから便宜的に妙な名前をその時に考えたと、そういうことか」
リファリウスは頷いた。
「うん、多分、そんなところだと思う。
私らは自分たちの名前を憶えていたことと、連中がなぜ覚えていないんだろうか、
この違いが何を意味するのかは全く分からないけどそれは別として、
実は彼らの名前が一番最初に引っかかっていたんだ、聞いた感じなんだか変な名前って思ったぐらいね。
これは少なくとも何かあったに違いないってね。」
ガルヴィスは考えていた。
「なんでもいいが、お前の戦い方もなかなかヤな感じだな、お前の”予測”能力はなんだ?」
リファリウスは呆れたような態度で答えた。
「それが何やらさっぱり。
我ながら、なんでこんなものが”見える”のかまったくわからないんだよ、
恐らく、カイトのそれとは違って、これを突っついてみれば正解が見えるとか、そういうレベルのものなんだ。
確かなことは自分の経験則に基づいたものだと思われることぐらい。
でも、そのおかげで行動に遊びをする余裕も生まれるから、言い換えれば何通りかの行動パターンがあるって言うのも特徴だね。」
「ヤな遊びだな、相手を徹底的に恐怖を植え付ける遊びとか……」
リファリウスは続けた。
「一応言っておくと、私のはカイトのに比べると非常にシンプルなものって感じだね。
多分、歴戦の勇士だったらなんとなく思いつきそうなものでしかない気がする。
言ったろう、自分の経験則に基づいたものだと思うって。
だから、簡単に言えば熟練者のカンといったところかな、そんなものが私にも備わっているなんて妙な感覚だね――」
「確かに、もの作る際にも妙に知識や理解、そして計算も早くて助かるな。できればもっと世界のためになることをやってくれ」
「心外だね、ちゃんと世界のためになることをやっているでしょ?」
「多分やっているんだろうが、そうはまったく見えないところがどうしてだろうとすごく気になっていてだな」
最後は風物詩、リファリウスとヒュウガの言い合いである。
そんなことはどうでもよく、とにかく問題は残りの3人の”ネームレス”の行方である。
それについてはすでにカイトとシエーナが見つけていた……ん? もう一人は?
「ったく! ひでえなオイ!」
「わ、悪かったよ――」
シャディアスは鼻を抑えながらわめいているが、
それに対して相手の男は悪びれた様子でそう言っていた。そこへリファリウスたちがやってきた。
「見つけたようだね、戦意のない人たち。」
「はい、御覧の通りです。皆さんバウトさんの指示で隠れたまま待機するように言われていたそうです」
シエーナがそう説明するとシャディアスの相手をしている男が言った。
「全部見透かされているのがちょっと気持ち悪いんだが――
とにかく、俺ら3人はあんたたちの話に乗っかることにしたんだ」
それに対してリファリウスが得意げに言った。
「だよね、気持ち悪いよね。ほらカイト、キミのことだよ。」
「ったく、良かれと思ってやっているのにその言われようは酷いなあ――」
カイトは心中複雑だった。シエーナには触れない辺りがリファリウスらしいところである。
「ここでの話もなんだから場所を変えようか。」
ということで、3人を連れて拠点施設へと戻っていった。
そのあと、残ったエダルニウス軍はバルナルト軍に包囲されて降参したのだった。
「そっか、バウトさんも本当は私らの話に乗っかりたかったのか――」
リファリウスがそう言うと、槍を持っていた女性は頷いた。
「だが、自分は傭兵のリーダーだからそういうわけにもいかないと。
それに、ほかの3人がああだから、なおのこと自分もやらないわけにはって言ってた」
そして、一行は宿舎の前で立ち止ると、クラフォードが言った。
「さて、まずは個別に事情聴取だな。
”ネームレス”って都合、そこまで期待はできなそうだが、一応やるところまではやろう。
それでいいよな?」
リファリウスは頷いた。
「私はガレアに連絡を入れる必要があるからとりあえずここにいるよ。何かあったら呼んで。」
ヒュウガは頷くと、「行こうぜ」と言って他を促した。