敵の情報をさらに探るため、さらに敵のいる前線まで赴き、様子を見に行くことにした一同。
クラフォードとウィーニアに連れられて”ネームレス”6人は移動すると、遠目には、一人の”ネームレス”らしき存在がいた。
「見ろ、やつがザイグだ。やつを前にしたときにいきなり身動きが取れなくなったことだけは覚えている」
ガルヴィスがそう言った、身動きが取れないというのは――
「やっぱり何らかの魔法を受けたんだね。
さっき説明した通りだけど、やつは恐らく、いわゆる”デバフ”タイプの戦法が得意だということだろう」
”デバフ”とは、いわゆる相手の能力を下げたり制限したりして戦いを有利にする効果のある手段である。
それの対義語として”バフ”という言葉もあり、意味はもちろん”デバフ”の反対で、
自分たちの能力を強化したり制限を解除したりして戦いを有利にする効果のある手段である。
ザイグについてはここに来る少し前にガルヴィスとカイトから説明があり、
簡単に言えば変な術を使って相手を困らせるのが得意な人ということらしい。
さらにリファリウスは敵の周囲を警戒してみてみると、何やら思いついたようだ。
「なーるほど、これは仕掛ける絶好のチャンスだな。」
マジか!? 仕掛ける気か!? クラフォードはそう訊くとリファリウスは頷いた。
「おそらく連中は自分たちの能力の高さに酔いしれている、そんな感じだろう。
見てよ、あそこにも敵がいるけれども意外にもスキだらけだ。
これは急に敵にやられても余裕っていう感じの展開の仕方だ、現に私がそうだった。」
どうやら自分の経験則に基づくことらしい。
「まあ、そう言われると説得力あるな、なんせ10対1,000……いや、ほぼ3対1,000で敵を倒していてもなお余裕を語るやつが言うんだからな。
”ネームレス”ってのはそれぐらいのやつだってことを改めて思い知らされるよ」
クラフォードは呆れ気味にそういい捨てた。さらに続けた。
「で、今回は敵は”ネームレス”7人だが一方でこちらは”ネームレス”6人しかいない。
この1人分の差をどうやって埋めるんだ? 流石に”ネームレス”外の俺らで何とかしろとか言わないだろうな?」
それについてはリファリウスが考えながら言った。
「問題はそこなんだけれども、ガルヴィス君を寄って集って攻撃していたということを考えると、
おそらく敵はさほど自分の強さを認識していないんじゃあ?」
そう言われると確かに”フェニックシアの孤児”らはそれぞれ思い当たる節があった。
「言われてみれば自分の力をそこまで過信したことはなかったな。
それにそもそもそこまでの力を持っているなんて考えたこともないしさ」
シャディアスが言った。そしてカイトも考えながら言った。
「その線が濃いかもね。
さっきも言ったとおりだけど、彼らの存在はつい最近まで見当たらないと私の何かが言っているんだ。
まあ、これはつまり”予測”なんだけど――」
シエーナが続けた。
「言うなれば、彼らは”ネームレス”の後発勢、ということはまだ”ネームレス”となってから日も浅く、
ここがどんな場所なのか右も左もわからないままという状態とまでは言いませんが、それに近い状況なのかもしれません」
なるほど、それが本当ならまさに今が絶好のチャンス、早ければ早いほど優位に立てるということか、クラフォードはそう思った。
でも、その予測ってあてになるのだろうか、クラフォードは疑問を投げかけた。
「まあ、当然だろう、お寒い獄潰しの陰陽師の方が言うのだからそこは信用していいんだよ。
それさえ覚えておけば何もかもがすべていくんだ、わかったかな?」
リファリウスはそう説明した、
酷いいいように聞こえるのだが、それでもカイトもシエーナも反論しようとしない、どうなっているんだ?
まさか、この言われようが宿命だとでもいうのか?
すると、ガルヴィスがせかすように言った。
「なんでもいいが、やるんだったらさっさとやろうぜ。
あのザイグとかいうヤローはリファリウス、お前の担当だからな」
ん? 何故リファリウス? クラフォードは訊いた。
「言ったようにヤツはデバフ使いだ、つまり、耐性を考えればこいつが一番ヤツを締めあげるのに適しているってワケだ」
なんだと……!? つまり強耐性……クラフォードは頭を抱えていた。
「ふふっ、ガルヴィス君が私の能力をそこまで高く買ってくれているとは意外だね。
まあいい、素直に誉め言葉として受け取っておくよ。」
だが、クラフォードはどうしたのだろうか、シャディアスが訊くとヒュウガが底意地悪そうに答えた。
「こいつ、リファに最初に3対1で負けて以来、何度か挑んでいるからな。
相手が強いからってデバフの技を何度か試しているんだが……つまりはそういうわけだ、ご苦労なこって……」
それに対してクラフォードがリファリウスにクレームを。
「あんたさぁ、つくづくひどいやつだよな――」
リファリウスは得意げに答えた。
「あくまで強い耐性を持っているというだけで、何もまったく全然効かないとは言っていないだろう、効くときは効くもんさ。
第一、そんなこと言われたって相手に自分の技がどれだけ通じているのか推し量れていないのはキミの能力の甘さが原因なんじゃないかな?」
ガルヴィスは頷き、意地悪そうに言った。
「なるほど、リファリウスに”大したことがないやつ”と言われるだけのことはあるわけだ、”万人狩り”の名が泣くな」
それに対してクラフォードは言い返した。
「んだよ、なんだかんだ言ってあんたら仲違いしていたみたいだが案外仲良しじゃないか?
”唯我独尊”さんと”希少価値”さんだったか? ええ?」
それについて”唯我独尊”さんの返し――
「嫌いというより苦手というほうが適当だな。
ただその”希少価値”さんの言うこと自体は基本的に間違っていないからその分には信用しているのだが」
そして”希少価値”さんの返しは――
「そもそも”唯我独尊”さんが”希少価値”さんのことを一方的に嫌っているだけであって、
”希少価値”さんのほうは別にどうとも思っていないよ。」
こいつら――そう言われるとますます言い返す要素がないクラフォードだった。