翌朝――
「ガルヴィスさん、おはようございます!」
部屋から出てきたウィーニアはガルヴィスと鉢合わせに、そのため、彼女は慌て気味にあいさつした。
「よう。リファリウスのやつはまだ寝てんのか?」
「リファリウスさんならすでに起きて、水浴びに行ったようですよ?」
ガルヴィスは眉をひそめて言った。
「はぁ? 今度は水浴びだぁ? ったく、あのヤローはこんなところまできて何を呑気なことを考えてやがるんだ。
男と一緒じゃ寝れないだの、水浴びするだの、昨夜も水浴びしたばかりだってぇのに、
しかもその後にスキンケアだのヘアケアだの、テメェは女子かっ!」
ガルヴィスはイラついていた。確かに、リファリウスは女性部屋での寝泊りだった、どういうことか……
「どうした?」
部屋の外の様子に気が付いたクラフォードがやってきた。
「リファリウスって女には勘弁してほしいって話だ!」
ガルヴィスはクラフォードにリファリウスの話をした、すると――
「言われてみれば確かにリファリウスってそういう人だったな、
ティルアに来た時や作戦中でもそんなことがあったっけ。
ってか、リファリウスってもともとああなんか?」
クラフォードは逆にガルヴィスに訊いた。
「そう言われてみれば確かに、ヤツはフェニックシアにいた時もそんな感じだったな」
そこへカイトがやってきたのでガルヴィスは話題を振った。
「なあ、どーでもいいことなんだがフェニックシアにいた頃、あいつってどんなだったっけ?」
カイトは答えた。
「さあ? 私よりも姉さまのほうが詳しいと思うよ?
今の話の通り、男性陣よりも女性陣との交流が深い人だからさ」
やっぱり女性陣……そこへ都合よくシエーナが部屋から出ていたので彼女は答えた。
「そうですねえ――今の話の通り、身だしなみにはよく気を使ってましたよ?」
謎が多いやつ……。
そのうちリファリウスが戻ってきた。その手には両手にそれぞれ大量の水が入ったバケツを持っていた。
「やあやあみなさん、おそろいで。」
するとガルヴィス――
「なんだその水は? まさか、飯作るのに使う気か?」
「大正解。バルナルトには有名な水源があってね、すでに話には聞いていると思うけど、せっかくだからもののついでに水浴びしてきた。
水質は良好、だからこの水を使って飯炊きでもするかなと思って。」
だが――
「あのな、飯なんてもう食い終わってるぞ。ったく、こんな時に何を呑気なことやってんだ?」
「呑気でいいんだよ。実は今さっき、さらっと敵の様子も見てきたんだけどあんまり動きがないらしいなんだ。
あまりに動きがないもんだから何かあったと思って見守るしかない、その役目はほかの人に任せてある。
だから我々はゆっくりと戦術を練ることにしようではないか。んで、この水は昼飯用に使おうと思っている。」
ガルヴィスは呆れたような態度をとっていった。
「ん? 水質は良好だったって?」
ヒュウガがリファリウスに訊いた。
「ああ、戦争の手が広がっているというのに水質が汚染されている様子は見受けられなかった。
そこまで非道なことをするような軍ではないということだね。」
ヒュウガは考えた。
「もしくは”ネームレス”の力で押せるって考えているからそんな手を使うまでもないと、そういうことかもしれんな」
するとガルヴィスが再び話に参加した。
「そう言われると確かに一理あるな、連中はただただ支配するだけが目的じゃないらしい」
どういうことだ、クラフォードは訊いた。
「どちらかというと連中は戦いそのものを楽しんでいるだけのようだ。
なんていうか、”ネームレス”たるその能力をあまり自覚してはいないが、妙に力に対して固執していることだけは見て取れた。
なんとなく、そういうことは分かったんだが――」
「そこまで把握できたのにガルヴィスともあろうものが負けるだなんてどういうことなんだい?」
カイトはすかさずそう指摘、するとガルヴィスは言い返した。
「どういうことなんだい、じゃねえ。
お前なら大体見えてるだろうがよ。わざわざ俺にそれを言わせんな、面倒くさい」
リファリウスは考えながら話を続けた。
「なるほど、ということはガルヴィス君は単純な力量差の問題で負けたということではないということか。
まあいい、話は寒い陰陽師のカイトを尋問して白状させようか。」
「あはははは、私の扱いについては相変わらずだね、まあ、仕方がない、これも運命か」
またか。でも、確かに運命――いや、宿命と言ってもいいだろう。