エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

果てしなき探求 第2部 ”ネームレス”の脅威 第3章 バルナルド危機

第26節 ”フォース・ゾーン”という考え方

 リファリウス、ガルヴィス、そしてクラフォードは話を続けた。
「異世界人説、別に肯定するつもりもないが、否定する要素もないな」
 と、ガルヴィスが言うと、クラフォードが話した。
「”ネームレス”は異世界人か、なるほど――確かにこの世のものとは思えない能力をふるっているとあらば確かに有力な説と言えるだろうな」
 クラフォードは納得していた――といってもほぼ皮肉だが。 というもの彼、今の話にはものすごい衝撃を受けていたからである。
「ヴァルジア紛争が沈静化して何故ライザットが勝利したんだなんて結構話題になっていたんだが、まさかあんたが絡んでいたからだったのか――。 ”修羅のレイノス”も”影山のザラームド”も相当の使い手で、マハディオスには連中をはじめとする猛者たちばかりで構成されていたのに―― それなのに、誰もあんたにはかなわなかったってのか――」
 知ってるのか? ガルヴィスとリファリウスは訊いた。
「特に”修羅のレイノス”は例の”常闇のディブラウド”に匹敵するほどの能力者、 それなのに、そんなにあっさりと倒してしまうとは――それで異世界人とは納得だ――」
 そう言われてガルヴィスは悩んでいた。
「なんだそのディブ……ってのは?」
 リファリウスは考えた。
「クラフォード君が見るも無残に惨敗した相手だ。 レイノスとディブラウドの能力は互角ということらしいから――つまり、これで序列がはっきりしたみたいだね!」
 ガルヴィスはニヤッとしていた。
「あの程度の能力のやつに負けるとは”万人狩り”ってのは本当に大したことがないんだな。 やれやれ、先が思いやられる――」
 そう言われてクラフォードはむっとしていた、こいつ――。
「あはは! 面白い話をしているねえ!  それはともかく、リファリウス氏が異世界人説を提唱したのはほかでもない、やはり”フォース・ゾーン”の考え方があるからだよ」
 と、カイトがだしぬけに話に参加するとそう言った――って面白くなんかねえよとクラフォードは思った。 というか、”フォース・ゾーン”とはなんだ?

 ”フォース・ゾーン”は世界における自然現象の規模を示す指標となっており、 Fz.Lv(フォース・ゾーン・レベル)という値であらわされる。 レベルの違いは自然現象の違いということになるわけだが、自然現象の規模の根底としては力場の強さに影響しており、 つまりはFz.Lvの違いでその程度も変わってくるということである。
「具体的にそのレベルが違うとどうなるんだ?」
 と、クラフォードは言うとカイトが説明した。
「Fz.Lvが地方ごとに違う場合、 つまり、例えば極端な話、一地方でFz.Lvが低く一方ではFz.Lvが高いという場合―― 今の説明に則ると、Fz.Lvが低い場合は自然現象に影響を与える力場の強さが弱いため、 特段何でもない平穏無事な環境であることになるわけだ。 しかしFz.Lvが高い場合はまさにその逆で自然現象に影響を与える力場の強さが強いから、 何かしらの異常な自然現象、例えば常に台風に包まれている空間があったり、 その場では常に炎が噴き出していたりとそういうことがあるかもしれない。つまり――」
「そういうことから考えると、Fz.Lvが地方ごとに違う世界は存在しえないんだ。 というのも、世界はパワー・バランスを保つべくなるべくFz.Lvを一意に保とうとするようにしているということだね。 例えば大根を塩水でつけることがあるよね?  それと原理は一緒で、塩分を増やせばしょっぱい漬物になるし、塩分が少なければ程よい塩味の漬物が出来上がる。 ただし、塩分が多かろうが少なかろうが、1つの大根の中では同じ塩水に使っている以上はどこをかじってもしょっぱさには基本的にそんなに大きなムラはでない。 ”フォース・ゾーン”もこれと考え方は同じでレベルにムラはほとんど出ることなく、 たとえレベルに差分があったとしてもそこまで大きな差にはならないというのが原則だね。」
 と、リファリウスが続けた。なるほど、同一世界でそういうことがあればいろいろとマズイ状態が起こるんだなとクラフォードは思った。
「つまり、地方ごとに”フォース・ゾーン”の分布が異なっている世界はバランスが崩れた世界になっているから、 もはや世界の体をなさない可能性があるってわけか」
 まさにその通りらしい。
「で、その話と”ネームレス”がどう結びつくんだ?  単に異世界の話を入れているみたいだけど、そこからどうやったら”ネームレス”異世界人説の発想に至るんだ?」
 クラフォードはさらにそう訊くた。
「Fz.Lvが高い世界――つまり、力場の強い世界で育った人間は異世界で強い力を発揮できる……」
 と、ヒュウガがボソッと言うと、リファリウスが話を付け加えた。
「要はそう言うこと。 簡単な話だよ、過酷な環境で育った戦士とそうでない戦士との差―― 一番わかりやすい例でいえば、標高が高いところのような空気が薄い場所で活動した人間のほうが、 低地で活動していた人間よりも身体能力が高いってことだろう。 即ち、ヒー様に言うようにFz.Lvのパラメータが高くてその分マナが濃密な空間で生まれ育った人は、 その世界よりもFz.Lvが低い世界では文字通り無双できるような超絶能力を発揮できるってわけだ。」
 大根の件でもそうだが、こいつの例えは無茶苦茶わかりやすかった、 いろいろと受け付け難い性格なのだがこういったあたりは非常に評価できるキャラである、両立しないのが残念だ。
「つまり、より強力なパワーバランスの世界の人間がひょんなことからエンブリア、 つまりそんなに強くないパワーバランスの世界にきて”ネームレス”と呼ばれるようになった、それがあんたらだと言いたいわけだな?」
 カイトはニヤっとしながら言った。
「理解が早くて助かるよ」
 だが、クラフォードは頭を抱えていた。
「そいつはアンタが言うセリフじゃないな。 理解できたのは主にリファリウスの説明のおかげだ。 だからぜひ、リファリウスにお礼をしといてくれ、あんたのツケでな」
 どうやら言いたかったことを先回りされてしまったカイト。
「酷いな、全部リファリウス氏の入れ知恵だろー、これはあんまりでないかね?」
 それに対してガルヴィス、リファリウス、ヒュウガが言い返した。
「そうか? 人にしょっちゅう悪戯するような獄潰しにはちょうどいい罰なんじゃないか?  この際だから今までのツケをここで清算したらどうだ?」
「確かに。知らないかもしれないけど、世の中”常識”って言葉があるんだ、 だからそうなるのは必然じゃないのかな、因果応報って言葉がピッタリだね。」
「ああ、どう考えても日頃の行いのせいだな、諦めろ」