その”どっかの誰かさん”は両手に華だった、ガルヴィスが最も嫌うであろうその状況……だが、両側にシエーナとウィーニアがいるだけである。
「なるほど、ということは敵”ネームレス”の数は少なくとも7人もいることになるわけか……」
リファリウスはそう言いながら考えていた。そんなにいるのか!? シャディアスは驚いていた。
「それじゃあまるでフ……」
と、途中まで言いかけたシャディアスは慌てて言うのをやめた。
それではまるでフェニックシアの孤児……リファリウス、ガルヴィス、カイト、シエーナ、ヒュウガ、シャディアスと、リセリネアの7人。
そう、リセリネア……リファリウスにげっそりされると後始末に困るので言うのを慌ててやめたのである。
「7人もいるのは確かなのか!?」
シャディアスはすかさずそう訊くとカイトは頷いた。
「あくまで”予測”でよければの話だけど間違いないね。
さらに言うと1人のリーダーがいて、その下に6人がついているっていう感じ、つまりは徒党を組んでいるみたいだ。
ただ、その6人だけど――考え方がちょっと違うような感じだ、具体的なところはもう少し時間が必要だけど」
ヒュウガが言った。
「まあ、リファリウスが介入している以上はそこまで見えれば十分か、大した能力だ、リファリウスがいなければ」
リファリウスは苦言を呈した。
「なんだそれ、まるで私がいるのがいけないみたいじゃないか。」
ヒュウガはニヤっとしていた。
「流石は鋭いな。とにかく察してもらえたようで何よりだ」
「自分だって根暗のヲタクのクセに。」
「んだよ、諸悪の権化め」
だが、敵”ネームレス”らと衝突するまではまだ早く、向こうも動いていないようなので最後の休憩拠点にたどり着くとその場で野営することにした。
「それでキミの求めるものは見つかったのかな? あれから大体17年経っただろう?
その間に何か自分についての手がかりになるものは見つかったのかな?」
野営地にて夕食を早々に済ませ、ガルヴィスはベンチの上に座っていると、そこへリファリウスがやってきてそう訊いた。
その様子をクラフォードはじっと眺めていると、リファリウスに対してガルヴィスが逆に訊いてきた。
「この世界は何かがおかしい――俺らの居場所なんか、この世界にはまるで元々なかったような感じにみえてくる。
さんざん捜し歩いてみたんだが――この世界には、俺らが生まれた痕跡もなければ、懐かしく思えるような風景も――あるにはあるんだが、それでも何かが違うし――
ましてや、あのリセネリアさんの生きた痕跡さえ見つけることができはしなかった――」
そして改めてガルヴィスはリファリウスに訊いた。
「リファリウス、悪いが今一度聞かせてくれ。
あの時何があった!? リセネリアさんを殺ったやつは誰なんだ!?
あの女戦士はいったい何者なんだ!? あいつがやったのか!?」
するとリファリウスは重い口を開け、話し始めた。
「――ようやく聞く気になったようだね。
そう、キミも薄々は感づいているかもしれないけど、恐らく私ら”ネームレス”はこの世界の住人ではない。」
それは――まさに驚愕の事実だった。しかし、
「はっ、言うに事欠いて異世界の人間だと? リファリウス、貴様もとうとう落ちるところまで落ちたもんだな!」
ガルヴィスはリファリウスの言ったことを拒絶していた。とはいえ――
「キミが否定するところ残念なんだが、むしろ異世界の存在前提で説明したほうがしっくりくる現象のほうが多いんだ。」
そう、まさにそれである。言われて見ればそうかもしれないと思える要素のほうが多かった。
今までここにいたのだろうか? この世界――エンブリアとはこういう世界だったっけ?
自分が思っている世界の環境・情勢とは何かが違う……そしてなんていえばいいのかわからないけれども、
肌に感じているこの世界の風、何かが違う、明らかに違う、この違和感は何なのだろうか――
そうか、異世界の人間だからか……残念ながらリファリウスのその案もあながち間違いとは言い切れない気がしていた。
それはまさしく例のヴァルジアでの出来事である。ヴィーサルとウェザールというシェトランド人と話をしていた時のことだ。
「俺はここの傭兵団の取りまとめ役をしている者でヴィーサルという」
つまりはリーダーか、ガルヴィスはそう言うとウェザールは訊いた。
「っておいおい、反応はそれだけか? こいつはヴィーサルだぞ?」
だが、ガルヴィスは何食わぬ顔で、
「ん? その名前がどうかしたか?」
としか答えなかった、それには周囲は驚いた。そんな中、ヴィーサルはお手上げの状態で言った。
「やっぱりあんたは只者じゃないな。
グラスケスでさえもいとも簡単にぶっ倒してしまったんだからな、
俺の名前を聞いたところで驚くわけないか」
グラスケス? 誰だそれ? ガルヴィスは再び何食わぬ顔で訊くとウェザールは言った。
「あんたがさっきまで蹴りを入れていた、そこで伸びている大男だよ、またの名を”暴飲のグラスケス”。
で、こっちは”月刀のヴィーサル”――どうだ? ピンと来たか?」
しかし、ガルヴィスは「何が?」としか答えなかった、イマイチどういうことなのか理解していない。
いや、待てよ、もしかして――ガルヴィスは考え直した、
さっきの”修羅のレイノス”の話といい、”暴飲のグラスケス”に”月刀のヴィーサル”と――
「ああ――なるほど、そういうことか。
要するにお宅らはこの世で名を馳せた連中だってことか。
そいつは気が付いてやれなくて悪かったな。
もっとも、俺はそういうのにはまったく興味がないしそもそも知らないんでな、だから気を落とさないでくれ」
まさかそんな――ウェザールは頭を抱えながら言った。
「おいおいウソだろ? 知らないってどこのモグリだよ――」
そんな彼に対してヴィーサルが言った。
「いやいや、どうやら俺の活躍ぶりは全然足りていないことの表れのようだ。
言っても、名前が知れ渡るってことはその分面倒も増えるってこと、
だから別にわざわざ自慢したいほどのことではないんだが――」
ヴィーサルはそのまま話を続けた。
「でも、ガルヴィスなんて名前も初めて聞く名だな。どこの出身なんだ?」
ガルヴィスは悩んだが一応答えた、すると――
「なんだって!? まさかあのフェニックシアだって!?」
消滅してしまった大陸、フェニックシア――そこの出身ということについては誰しもが驚いていた。
「これについては無理に信じろとは言わないがな」
過去の話についてはどうでもよかったガルヴィスだった。
「でも、フェニックシア出身ってなかなかレアだよな?
他には百戦錬磨のフォディアス――って、あれはスクエアだったっけ。
つってもよお、ガルヴィスなんて戦士いたか?
あんなに強いんだぞ、何か名前を持っていてもおかしくないハズだろ?」
ガルヴィスの右側のほうからそんな話が聞こえてきた。それに対してヴィーサルは言った。
「いやいや、異名だけで名乗っている可能性もあるぞ。
なあ、もしよければでいいんだが、どう呼ばれてきたか教えてもらえないか?」
余程自分の素性が知りたいんだろう、それもそうか――ガルヴィスはそう思った。
だがしかし――どう呼ばれてきたって言われても、自分にはそんな通り名なんていうものは存在しない。
だからどう答えたものか――素直に異名なんてものはないって言えばいいだろうか?
そう思ったが、ガルヴィスはいいことを思いついた。
「どう呼ばれていたって言われてもな――俺にはあんたみたいな通り名なんてないからな。
でも、しいて言うなれば――”フェニックシアの孤児”と呼ばれていたな」
なんと! それには流石に誰しもが驚いた。
”フェニックシアの孤児”とは突如としてフェニックシアに現れた子供たち、
子供なんだがいずれの子も妙に子供っぽくない、大人びていた。
発見当時こそ子供のような感じだったがいつのまにか青年ぐらいの年齢まで育っており、
大人顔負けの知識を披露する者もいれば大人顔負けどころか、
一部の通り名持ちでさえ歯が立たないほどの戦闘能力をも持ち合わせている者も――
「それに”フェニックシアの孤児”と言えば身元が一切分かっていないという話だったな。
どの子供に聞いても今までどうしていたのかわからないと答えていたそうだ。ということはつまり……?」
ウェザールはそう言うとガルヴィスは頷いた。
「察しがいいな、そのとおりだ。
悪いが以前の記憶がないのは今も変わらないもんでな、それで昔の記憶を探して旅をしているってワケだ。
それで俺の目的を察してもらえればありがたいんだが――とはいっても無理に信じろとは言わないけどな」
あの腕っぷしにそういう事情を持っているということなら誰しもが納得せざるを得なかった、思いのほかことは深刻なのかもしれない。