ヒュウガが話題を切り出した。
「さて、”ネームレス”を脅かす問題が発生したって訊いたが、つまりはどういうことだ?
ガルヴィスが大けがをしたって言うらしいが、具体的に何があった?」
するとカイトが説明した。
「ガルヴィス君はただ事故ったわけじゃない、対峙した相手に殺されかけて命からがら逃げだしてきたんだよ」
なんだって!? シャディアスが訊いた。
「おいおい! ”ネームレス”無双状態じゃないのかよ!?」
ガルヴィスは答えた。
「”ネームレス”無双状態なのは間違いないだろう。
そのうえで俺がこんな目にあったとするのなら考えられる理由は1つしかない。
そうだ、相手も無双できる存在だったということでもなければ説明できないということだ」
まっ、まさか……シャディアスは狼狽えていた。
ついに恐れていた事態が起こってしまったのである、
そう……無双対無双――敵も”ネームレス”だったということしかないのである。
ガルヴィスは続けた。
「それも相手は複数人、1人で挑んだのが間違いだったようだ」
しかも複数人――それは大問題だ。
「そういうことで、まさにここに”ネームレス”を呼んだというわけだよ」
カイトがそう言うとリファリウスは頷いた。
「さっきバルナルトの人から訊いたよ、エダルニウス軍がバルナルトに進軍してきたって。
一応それはある程度考えていたシナリオだけれども、本当に”ネームレス”の仕業だなんて……」
まさに一刻を争う事態である。
ということで”フェニックシアの孤児”と呼ばれた”ネームレス”たちは一堂に会し、
バルナルトに進軍してきた敵の”ネームレス”に対して打って出ることにした。
ということで早速、バルナルト軍がエダルニウス軍を撃退させるための駐屯地、森の奥深くへと入って行った。
「あれ、ガルヴィス君、大丈夫なの?」
リファリウスが言うと答えた。
「ここででっかい仮を作らせるのも癪だしな。
それにあの連中には敵に”ネームレス”がいるってことを教えてもらったからな、たっぷり礼をくれてやる――」
闘争心むき出しだった。そこへクラフォードが現れた。
「やあクラフォード君、いろいろとやってもらって悪いね。」
現地にはティルア軍が参加していた。
「ああ、守備は御覧の通り上々だ。
エダルニウス軍のいくらかはシメたが……問題の連中とやらはまだここには到達していない。
それよりも遅かったようだが――何か問題でもあったのか?」
「まあね、帝国の線だよ。
とにかく手を回すのにいろいろと手間を食った。
だけどここまで来たらそんな面倒はどうだっていい、後は敵を倒すだけだ。」
クラフォードはふぅんと言いながら納得していたようだ。
「どういうことだリファリウス、何かつかんでいるのか?」
ガルヴィスは何がどうなっているのかリファリウスに訊いた。
「言ったようにエダルニウスというのが今回の敵ってことだよ。
だけど、そのエダルニウスなんだけど、いろいろと問題があってね――」
ガルヴィスはその説明を受けて答えた。
「すると何か、そのガリアスとやらが”ネームレス”である可能性が濃厚ってことか?」
リファリウスは頷いた。
「むしろ今回キミに差し向けた刺客が”ネームレス”ってところを考えると、
ガリアス自身がなおのこと”ネームレス”である可能性が高まってくるんだ。
見たところ、ティルア軍……この人の軍がエダルニウスを簡単に抑えられているということは、
エダルニウスの格下たちの作戦はろくすっぽ立てられているわけではなく、
”ネームレス”という存在の力だけでねじ伏せていこうというのが今回のエダルニウス軍が考えているシナリオであるような感じでもあるんだ。」
それに対してクラフォードは言った。
「ほう、要は今回の敵にはまさに”ネームレス”が絡んでいることに他ならないと、そう言い切れる要素しかないということだな?
ということはつまるところ、いよいよあんたの恐れていた事態が起こってしまったということか」
さらに立て続けにクラフォードは訊いた。
「で、相手は複数人の敵”ネームレス”の可能性を踏まえていながら何故”フェニックシアの孤児”だけなんだ?」
リファリウスは答えた。
「いや、深い意味はない、手が空いているのがたまたまそれしかいなかったからだよ。
しかもガルヴィス君のこともあるからここは懐かしの”フェニックシアの孤児”たちが一堂に会するのもいいかと思ってこうなったんだ。」
まあ、いいか――クラフォードはそう思った。さらにもう一つ、クラフォードは訊いた。
「そういえばそいつ誰だ? ケガして運ばれたハズなのに何故ここにいる? そいつも”フェニックシアの孤児”なのか?」
そう言われたガルヴィスも――
「お前こそ誰だよ」
リファリウスが仲裁に入った。
「まあまあまあ。まずはこっち、ガルヴィス君ね。
鬼人の剣っぽくて如何にも物騒な面構えだけどシスコンじゃない”ネームレス”と覚えればわかりやすいだろう。」
なんだか面倒そうなやつだとクラフォードは思い、頭を抱えていた。
一方の言われたガルヴィスも理解に苦しんでいた、鬼人の剣っぽい? シスコンじゃない? どういうことだ? と。
しかし、クラフォードのほうは完全に理解していたからこその面倒さが伝わっていたのである。
「んで、こっちはクラフォード君。
ティルア軍ってとこに所属してるけど雑用……人手不足のせいでリーダーに担ぎ上げられた人だよ。
世間には”万人狩り”様なんて言われて浮かれているけど、言うほど腕は大したことがないから勘弁してあげると助かるよ。」
相変わらずのひどい言い様で突っ込みどころ満載だが、ガルヴィスとクラフォードは互いに話を始めた。
「お前、大したことないのか?」
「お宅ら”ネームレス”のようなデタラメな強さを持った素性もわからないような存在と比べられると流石に厳しいが、
一般的なエンブリア民としては常識的な強さを持っているやつだと思ってくれればそれでいい。
人手不足はその通りだが”どっかの誰かさん”みたいな意地の悪いやつに雑用を押し付けられただけだ。
もっとも、俺は”どっかの誰かさん”に言わせれば”優秀な人材”だから押し付け先がほかにいなかったに過ぎないわけだが」
だが、その”どっかの誰かさん”はその場からどこかに消え失せていた。
とはいえ、このクラフォードの言い分はなかなか的を射ているところがあり、
その”優秀な人材”の件についても、まさに”どっかの誰かさん”らしい発想だった。
「あんた、なかなかの苦労人だな」
ガルヴィスはそう言うとクラフォードは頭を悩ませていた。
「そう思ってくれれば幸いだな。
と言っても、実際にはリファリウスのほうが忙しいハズなんだ。
なんたってあいつ、クラウディアスとディスタードの2つを面倒見ているんだろ? あんなマネ、なかなかできやしない。
さしづめ、俺なんかはその愚痴のはけ口になるんだろうが、それでもあんまり愚痴って感じでもないよな。
だから自分の中で正解を見つけて自分の中でちゃんと処理しているんだろうな」
うっ……今のはガルヴィスの心に何かが思いっきり刺さったようだ、左手で下腹部を抑えていた。
「ん? どうした? そもそもあんた、大けがしているんだろ? ならば休んでたほうがいいんじゃないのか?」
「いいからほっといてくれ……これはケガとは関係ない……」