話をさらに進めると、ディアスが話をし始めた。
「エダルニアか、俺とグレストが昔からずっと追っていた国だな。
エイジャルってのがクセモノで、王国時代から何度も何度も連中による侵攻を防いできた。
その要衝が今のランスタッド島のある場所で、エダルニアと実際に衝突することになったディストーラの戦いでは連中の侵攻を防ぐことはできたものの、
残念ながら完全に黙らせるには至らなかったってところだ」
だが、そのディストーラの戦いでグラントの父であるグレストは敵が用いた毒にやられ、身体が侵されていった。
薬で何とか命をつなぎとめているのだが、年々老化による身体機能の低下によりそれも難しくなっているようだ。
「ディストーラ?」
リファリウスは訊くとディアスが答えた。
「ルシルメア東部一帯の未開の森の区画、
昔はそう呼ばれていたが今では完全に手付かずの地で完全に忘れ去られている場所だ」
あの辺りはそう呼ばれているのか、リファリウスはそう思った。
「今ではドービスをはじめとするエダルニアの重鎮群はいないんだってな、こいつはビッグニュースだ。
連中がいないとあらばエダルニアなんていう国は成立していないも同然なんだよ」
だが、今では新たな指導者がいるようだが――そう言うとディアスは話を続けた。
「そう、俺が言いたかったのはまさにそれだ。あの国は連中によって成り立っていた。
エイジャル共がいなくなったことでドービスは失脚したという見立てだということは聞いている。
だが、どうだろうか、ドービスを失脚させるほどのやつがあの国にいるだろうか、
いや、俺の知る限りではいないハズだ、あの国ではそこまで権力のあるやつはほかにいない」
リファリウスは訊いた。
「ということはつまり、ガリアスというやつは余程のやつだということでもあるわけですか?」
ディアスは頷いた。
「まあ、そういうことになるな。
ただ、ガリアスなんてやつは俺も知らん、
新生エダルニウス軍とかなんとかいってから初めて俺も知ったぐらいだからな。
恐らく、最近エダルニアだかエダルニウスだかに入ってきたやつだとみて間違いないだろう」
だがその時、今度はリファリウスのスマートフォンが鳴り出した。
「ん? 緊急かな? なんだろう……」
リファリウスは内容を確認すると――
「なんだって!?」
グラントが反応した。
「どうしました?」
「噂をすればなんとやら、そのエダルニウスに動きがあったようだ。
それによって私の知り合……とにかく、無視できない問題が発生したらしい――」
リファリウスは事情を話すと、そのままヒュウガと共にガレア軍の船に乗ってバルナルト国へと船を進めた。
バルナルトへと上陸すると、バルナルト国の者たちが港で出迎えていた。
「ディスタード国・ガレア領のアールだよ。」
「同じく、エイジだ」
リファリウスとヒュウガはそう言うと、バルナルト側の人間で一番偉そうな人が言った。
「あなたがアール将軍ですか、お若いのですね。
それに、クラウディアス様特別執行官というのもやっておられると――」
リファリウスはにっこりとしていた。
「わざわざ大仰なお出迎えありがとうね。」
「いえいえ、特にクラウディアス様とあらばここまでしないわけには――」
クラウディアス様の影響力はこの国にも根付いているようだ。
「こういうのは苦手なもんでね。
本当は知らないうちに入って知らないうちに物事をこなし、知らないうちに帰るつもりだったからこのような歓迎を受けてビビっているところだよ――」
と言うと、ヒュウガは鼻で笑っていた。
場が戸惑いを隠せないという空気を察したリファリウスは「冗談だよ。」と言うと、その場はなんだかほっとしたようだった。
「まあまあ、それはともかく――まずは現場に案内してくれないかな?」
バルナルド軍の施設だろうか、リファリウスは車で病院のようなところへと連れていってもらった。
そして案内された部屋へと急ぐと、そこには――
「ガルヴィス君!」
「ガルヴィス……」
リファリウスとヒュウガはそれぞれそう声を上げた。
そこには”フェニックシアの孤児”たちが一堂に会しており、
ガルヴィスが病室のベッドの上にいたのである。
「リファリウス、テメー、何の用だ……」
リファリウスは心配そうにガルヴィスのもとへと駆け寄った。
「そんなことより大丈夫!?」
そんな彼の態度に対してガルヴィスは少々呆気にとられていた。
「なんだ、心配してくれるってのか? 意外だな、お前みたいなやつが……」
しかしそこへ同席していたシエーナが一言。
「もうやめて! その話はここまでにして!
ガルヴィスさん、リファリウスさんはあなたのことを心配して駆けつけてくださったのですよ!
それなのにその言い草、あんまりじゃありませんか!?」
それを言われるとガルヴィスはぐうの音も出なかった。
そしてリファリウスは、
「まあ――いいよ別に。とりあえず、心配していたことだけでも伝われば。
彼としてもはけ口が必要だからね、そのための標的が必要だったら私は甘んじて受け入れるよ。」
しかしそれに対してシエーナは――
「リファリウスさんもリファリウスさんです! 優しすぎるんです!
そうなのかもしれませんが、あれは事故なんです!
それに……あれはもう20年近くの前の出来事、いつまでもこんなんではリセリネアさんが浮かばれません!
ですからガルヴィスさん! いい加減にそろそろリファリウスさんに当たるのをやめて前を向いたらどうですか!」
情に訴えていた。それに対してリファリウスはシエーナににっこりとしながら言った。
「ありがとう、まさにその通りだと思う。
でも本当は私の口から言うとトラブルの種になりそうだから言いたくないんだけど、
それは彼もわかっているんだ、ただただ素直じゃないだけ。
もしわかっていないんだったら彼は私が作った2本の剣を大事に抱えて持ち歩いていないからね。」
そう言われてみればそうだった、ガルヴィスの不思議な行動である。
「だろう、ガルヴィス君。」
リファリウスはそう言うとガルヴィスは「フン!」と言いながら顔を背けていた。それに対してリファリウスは、
「ほら、そうだって言ってるよ。
私と彼との仲はこれぐらいがちょうどいいんだよ、昔もだいたいこれぐらいだったし心配することじゃあない。」
それに対してガルヴィスは一切反論しなかった。
そんな様子にシエーナは心配していたが、
ガルヴィスがこれ以上何も言わないことからそれ以上は問題なさそうと考え、とりあえずは気にしないことにした。
だが、シエーナの言ったことが刺さっているのは間違いなさそうである。