エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

果てしなき探求 第1部 ガルヴィスとリファリウス 第2章 利用する者される者

第16節 不思議な理解

 しかし、今回集まったのは前回の決定をただガルヴィスに伝えるために集まったわけではなかった。 それについてはガルヴィスは話の流れからうすうす感じ取っていた。
「つまり、問題はその”ネームレス”が敵になった場合ってわけか」
 カイトが答えた。
「そう。それこそ敵に”ネームレス”がいない限りは我々は一方的に無双可能なわけだが、 一番の問題は敵に”ネームレス”がいるたらどうかということだ。 例えばリファリウス氏のような存在が敵だった場合はどうするかということだ」
 かつての4か国連合軍のやり方で進めているリファリウス、 それに対抗せんとばかりに敵対する者が相手だとしても、”ネームレス”ならそれを無双していくことは容易だろう。 ただ、その敵が”ネームレス”だった場合、もっと言うとそのリファリウスのようなやつが敵だった場合、 エンブリアにとっては脅威となるかもしれない、それが問題だった。
「世の中何が起こるかわからないからな、確かに俺も今までそういうやつとは対峙したことがない。 だけど、今後もその”ネームレス”ってのが沸いてくるってことなら――そいつは確かに面倒になってきそうだな」

 それから数日後――
「話は伝えられたのかな?」
 そいつはアール将軍ことリファリウスである。 いや、場所はルシルメアにあるF・F団のアジト、だからむしろ彼はリヴァストというべきか、 いずれにせよリファリウスであることに変わりはないのだが。
「とりあえずな。”ネームレス”が敵に回るって面倒を避けたいのは俺も同じなんでな」
 ヒュウガはそう言った。
「面倒なもんだ、リファリウスのヒネクレも大概だがガルヴィスの頑固ぶりには勘弁してもらいたいもんだな」
 シャディアスはそう言うとリファリウスが言った。
「私がヒネクレとはどういう了見の発言だか言ってみな。」
「もう言うのも飽きているから流石に察してくれると助かるわ」
「ふっ、あえて訊かないとわからないからヒネクレなんだって考えたことないのかな?」
「……自覚しているんだろ、それで十分じゃないか?」
 そこへシエーナが割り込んできた。
「お話しているところ申し訳ないのですが、カイトから連絡がありました。 やはりアルディアスで見つけた者は”ネームレス”なのかもしれないとのことですね」
 それにリファリウスは反応し、悩みながら言った。
「うーん、思った以上に大勢いるようだね、”ネームレス”――」
「大勢っ、そんなに多くいるのか?」
 シャディアスは訊くとヒュウガが答えた。
「先日話したがシャトってシェトランドの女、”ネームレス”の古株で間違いないんだな?」
 リファリウスは頷いた。
「シャト姉さんは私らと違って前々から他の軍にも恐れられている存在だ、 つまりは私らよりも前に名が知られている存在、古参で間違いないと思うよ。 で、ついでを言ってしまうと、先日のフェアリシア消滅の時に助けたシオラさんとローナさんもどうやらそれに該当するらしい。 だから、もしかしたらこれからもどんどん現れるかもしれないね――」
 シャディアスは驚いた。
「2人もか!?」
「2人程度で驚くことないだろ、俺らのときは7人、むしろそっちの方が異常ととらえるべきだ」
 ヒュウガはそう言った、確かに身元不明の存在が突然そんなに大勢現れることのほうが重大と言えそうだ。
「ついでを言うと、少し前にヒー君と一緒にここの東に足を延ばした際にもう1人”ネームレス”を見つけた。 彼女は魔女、東の未開拓地域は魔女の庭だから気を付けてね、強制はしないけど。」
 強制しないってどういことだよ、シャディアスは訊き返した。
「つか、魔女とか物騒なやつだな。それでいて”ネームレス”とか、まさにヤバイやつなんじゃないのか?」
 それに対してヒュウガは首を振ってこたえた。
「ヤバイけど心配はしなくてよさそうだ、どうやらお友達のようだからな」
 お友達? するとリファリウスが答えた。
「プリシラさん、私とは知り合いみたいだからね。面白いところでつながりがあるもんだ。」
 それに対してシャディアスが答えた。
「ちっ、また女かよ。だからガルヴィスが嫌がるんだ」
 それに対してヒュウガは指摘した。
「お前だって嫌がってるじゃんか」
 シャディアスは言い返した。
「お前は違うのかよ?」
「なんで? てか、そもそもなんかダメなところあるか?」
 ヒュウガは首をかしげてそう言い返した、シャディアスはそう言われると大ありなんだが……なんでそう言い返されるのかよくわからなかった。

 話を戻すことに。
「で、アルディアスにいたどんな人が”ネームレス”ですって?」
 リファリウスはそう訊くとシエーナは答えた。
「カイトが言うには、名前はロッカクという方で、本人に聞いたところ、 気が付いたらいつの間にかルダトーラ・トルーパーズという軍に参加していたということみたいですね。 そういえばルダトーラと言えば――」
 リファリウスは話をした。
「マウナが進行中の勢力、アルディアスの軍隊の一部だね。 トルーパーズはエリートばかりがそろっているっていう、 元々はハンターズ・ギルドのアルディアス支部も担っていたところだね。」
「でも、元リーダーのライナスが亡くなってから形勢が逆転し、 一気に不利な情勢になってしまいましたが――」
 シエーナがそう話を続けるとリファリウスが訊いた。
「お2人の”ネームレス”のお力でなんとかならないものかな?」
 シエーナはていねいに答えた。
「私たちはそこまでするつもりはありませんので。 それに、私らが事を起こすよりもリファリウスさんが何とかしてくれると思いますので」
 それに対してシャディアスは言った。
「ったく、おたくらもなかなか意地の悪い姉弟だよな。しかも他人任せかよ?」
 リファリウスは遮って答えた。
「まあ、この姉弟にしてみればいつものことだからどうでもいいけれどもね。 むしろ、この姉弟がこういうのだから、何か裏がありそうと思うのが正しいことだろう。」
「裏ってどんな裏だよ?」
「それは私にもわからない。 シエーナさんがそう言うのだから、そういうものだと思って受け止めるべきというのが今の私らにできることだ。 確かにガル君みたく、直接手を下すことで得られるものもあるかもしれないけれども、 ここでいきなり”ネームレス”とかいうわけのわからない連中が現れて事を起こすよりかは現状を見定めて物事の本質を見定めていくのも手だと思うんだけど、どうかな?」
 物事の本質……またその話――シャディアスは半ば呆れていた。
「無理やり話についていこうとしなくていい。 俺たちにできることはせいぜいこいつらの中で決まった話に対して言われた通りのことをするだけだ。 不思議なことにそれで今まで全部うまくっているもんでな、だから俺としてはそれで十分だ」
 ヒュウガがそう言うと、シャディアスは頭を抱えながら言った。
「それなんだよな、なんで全部うまくいくんだ? それがずっと不思議でならないわけなんだが――」