エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

果てしなき探求 第1部 ガルヴィスとリファリウス 第2章 利用する者される者

第15節 命名

 それからさらに数か月が過ぎた。 しかし、その時にはガルヴィスは居合わせていなかった。
「あいつ、いないの?」
 リリアリスはそう訊くがカイトはお手上げだった。
「しょうもない話で何度も会ってられるかってとうとうそんな態度で突き返されてしまったよ」
 それに対してリリアリスが訊いた。
「てか、どういうコンタクトの仕方よソレ、通信とかそういった類の手段一切使っていないじゃん。」
「まあ、簡単に言えば”悪戯”に近いものだよ、 リリアさんも使っているような”風精の悪戯”にも通ずるものがある、といえばわかるだろ?」
「そうね、そう言われてみればわかるわけないでしょ、バーカ。 けど、どーでもいいや、お寒い陰陽師さんの御業なんだからなんだってできるんでしょ。」
「お寒い……まあ、運命には抗えないワケか」
 リリアリスとカイトがそんな話をしているとシャディアスが訊いてきた。
「運命? 何の話してるんだ?」
「聞いての通りよ。こいつは寒いヤツ、これまでの歴史がすべてを物語っているレベルでの宿命ってワケよ。」
「はぁ? それが宿命ってなんか酷くないか?」
「ああ酷い、実に酷い。そうなんだけれども、残念ながらそれが事実なんだから仕方がない。 ご先祖さまもなかなかの無理難題な試練を与えたもうたもんだ、こればかりは致し方がない」
 って、受け入れてるんかい! ますます意味が分からなかったシャディアスだった。

 それから半年後、ガルヴィスはルシルメアへとやってきた。 その目的はF・F団に所属しているシャディアスの元へと行くためである。
「ヤツになんだか面倒臭いことを押し付けられているらしいな」
 ガルヴィスはシャディアスにそう言った。 ヤツとはリファリウスのこと、面倒臭いというのはF・F団のサブリーダーにさせられていることである。 ちなみにリーダーはリヴァストこと、リファリウスである。
 だが、シャディアスは悩みながら答えた。
「まあ、面倒っちゃ面倒だが……こういうことでもなければ何もすることないんでな。 それなら別にこういうのも悪くはないってわけだ、やりたくなければどっかに行っちまえばいいだけの話だしな。 だからむしろ、俺としては好きでやっていることなんだ、面倒っちゃ面倒だが不自由はしてないぞ」
 そこにヒュウガが頭を掻きながらやってきた。
「ちなみに俺もその仲間。言ってもディスタード帝国の話でたまたまあいつと意気投合しただけなんだがな。 それにしても”ネームレス”ってのは実に厄介な存在だということを改めて思い知らされるな」
 ”ネームレス”とは? ガルヴィスはそう訊いた。
「あれ、そういえば前回お前いなかったっけ」
 シャディアスは答えた。
「確かカイトが蹴られたっつったっけな。でも、今日はどうしたんだ?」
「ああ、気が向いたから来ただけだ。それで俺になんか用か?」
 それに対して奥のほうからカイトが現れて言った。
「おや、バレバレのようだね。 だけど今度こそ話ができてよかった、前回話をした”ネームレス”のことを含めて話をしておこうと思ってね」

 シャディアスは3人をF・F団のアジトの談話室へと促した。
「お前もディスタードに潜入しているのか」
 ガルヴィスはヒュウガに訊いた。
「やりたいことをやるのなら一通り設備のそろったところにいるほうが面倒もないんでな」
「でも、帝国の科学研究所っていうぐらいだから、兵器の類ばかり作るハメになるんだろ?」
「そうでもないな、そんなのほんの一部だ。 そもそも戦車だの化学兵器だの、その手の兵器づくりとなるとガレア管轄の最高責任者こと、 リファリウスのやつが絶対に許さないからな」
「そうまでして、お前はどうしてそこにいるんだ?」
「別に、ただああいう場所でいろいろといじっているのが好きなだけだ。 何故かはよくわからないんだが、何かを分析したり作ったりするのが好きなんだろうなきっと」
「お前のそういうところ、あいつと似ているよな、お前らなんなんだろうってな、不思議なもんだ。 ”フェニックシアの孤児”ってやつはそう言うのが多いのか、 それとも元々フェニックシア自体がそういう土地柄だからそういうのに触発されたか……」
 ガルヴィスは改まって訊いた。
「ところで、さっき言ってた”ネームレス”ってのはなんなんだ?」
 カイトが答えた。
「我々”フェニックシアの孤児”のことだと思えば認識が早いだろう。 ただ、”フェニックシアの孤児”のような存在が我々”フェニックシアの孤児”に限らず存在するらしくてね、 それでリファリウス氏がもう少し便宜的な名称をと思い、 ”唯我独尊のガルヴィス”のようなネーム持ちとは対照的な名称として名前を持たぬもの……つまり”ネームレス”という言葉を作り出したんだよね」
 それじゃあ俺らはネーム持ちの”ネームレス”とかややこしいことになるじゃないかとガルヴィスは言った。 とはいえ、自らの出自が一切わかっておらず、ほぼ無名も同然の存在だった自分たち、 まさに名前を持たぬ”ネームレス”とはうまい言葉を考えたなとガルヴィスは思った、 実にリファリウスらしい発想である。
 その話を聞いてガルヴィスは訊きなおした。
「まあ、それはいいとして……てことはつまり、”フェニックシアの孤児”以外の”ネームレス”がいるってことだよな、 たった今お前がまさに”フェニックシアの孤児”に限らず存在するって言ったぐらいだしな」
 カイトが答えた。
「そう、それこそがまさに今回の問題だ。 はっきり言ってしまうと、こんな出の不明な存在が世界に存在することなどどう考えても明らかに不自然だろう?  だからこの世界はなにやら大きな問題を抱えているとみても間違いないとさえ思えてくるわけだ」
 大きな問題といえば――先日、セラフィック・ランドの第3都市であるスクエアが消滅し、 出現した魔物がクラウディアスを襲撃したことは記憶に新しかった。 あのことで、セラフィック・ランドは第1都市のフェニックシアから順次消えていくという一連の出来事として考えられるようになり、 ”フェニックシア消滅事件”も”エンブリア消滅事件”も”スクエア消滅事件”も”セラフィック・ランド消滅事件”の一部として扱われるようになっていった、 もはやこの世の終わりともいえるような状況である。
 そして、その”セラフィック・ランド消滅事件”というのがやはりエンブリアを騒がしている大きな問題とも思えるのだが、 ”ネームレス”とそれとの関連は? ガルヴィスはそう聞いた。
「さあね、わかっているんだったら我々のことが分かっていてもいいもんだがそう言うことでもなさそうなあたり、正直何とも言えないところだ。 ただ、気にしたいのはそれじゃなくて、当時の我々みたく各地で現れている”ネームレス”の存在も取り上げられてもいいのに、 世の中はむしろ現状起こっている戦争と、”セラフィック・ランド消滅事件”のことばかりが注目されていて、 ”ネームレス”についての情報は現状手探りで探すしかないのが実情なんだよ。 もっとも、”ネームレス”かどうかなんて見分けがつくわけでもなし目印があるわけでもないんだから人々の関心が向かないのは当然の事であって、 探す方も探す方で大変なだけなんだけどね」
 だけど、そもそも探したところで自分たちの状況が何とかなるのだろうか、 ”ネームレス”は自分の昔の記憶がないのだろう、ガルヴィスはそう言った。
 それに対してシャディアスが答えた。
「どうにもならないのは確かだけど、でも、右も左もわからない状況で心細くしているぐらいなら同じ境遇同士で徒党を組んでいた方がまだマシだろ?  少なくとも俺はそうだった、フェニックシアでお前らと一緒でなかったら、俺は今頃本当に何をしているのかわかんねえぞ。 本当に目的もなく途方に暮れているだけかもしれないな」
 それこそ本当に”ネームレス”、名前もなく一定の能力を持ち合わせた存在がこの世を徘徊している危険な存在であることを示しているかのようだった。
「ああ、記憶もなくいきなり放り出されたら俺もそう思うな。 そもそも当時はガキだったし、ストリートチルドレン的な感じで最悪路上で野垂れ死んでいても仕方がないよな。 そういったこともあって、”ネームレス”は見つけ次第助けて行こうと考えたのが前回の俺たちの集まりで決めたことだってわけだ」
 ヒュウガはそう言ってまずは話を一旦締めた、以前参加していなかったガルヴィスはそういう話があったのかと納得していた。