エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

果てしなき探求 第1部 ガルヴィスとリファリウス 第1章 ヴァルジア紛争

第13節 終焉にして始まりの刻

 そんなこんなで翌年、ガルヴィスはセラフィック・ランドの中心都市でもあるスクエアへとやってきていた。 あまりにも人の流れの多い経済都市、ここに来たのは失敗だっただろうか、そうとさえ思っていた。
 だが彼があえてそこにいるのは他でもない誰かと待ち合わせをしているからである、 そうでなければこんな町にはいない。
 約束のスクエアの噴水広場へと歩を進めたガルヴィス、約束の場所のヒントを手掛かりに彼はそこまでやってきた。 しかしそこへ――二度と顔を合わせたくないやつがその場にいたのである。
「貴様! 何故ここにいる!?」
 そいつはガルヴィスのほうに顔をやると少々驚き気味に言った。
「やあ、また会ったね。悪いけど今忙しいんだ。申し訳ないんだけどまた今度にしてくれると――いいんだけど……ダメ?」
 そいつはリファリウスだった。 その時のリファリウスは両手に華状態であり、 右手には背の小さな女性、リファリウスの右脇にべったりとくっついていた。 もう一方も背の小さな女の子だが、こちらはほぼ幼女のような風貌の女の子で、リファリウスの左脇にべったりとくっついていた。 この状況のため、ガルヴィスの怒りをさらに助長させることとなったようである。
「黙れ! 今貴様をここで始末する!」
 怒りをあらわにして剣を取り出し、周囲が何事かと思うほどの様相のガルヴィス、 それに対してリファリウス、その様を見ながら半ば呆れ気味な態度、少し強めの口調で言った。
「……勝手にしな。だけどここはスクエアの町のど真ん中、フェニックシアという片田舎の町とは規模が違う。 こんな大都会のど真ん中でそんな物騒なものを振り回すだなんて危ないだろう?」
 とはいってもその場所は大通りとかではなく、少し外れた横道ではあった、無論、人通りがあることについては否めないが。 しかし、リファリウスの言ったことに対してガルヴィスの怒りがさらに増幅することになった。
「ならば街から今すぐ出ろ、この俺が今すぐ貴様を始末してやる!」
 それに対してリファリウスは再び強めの口調で言った。
「何度も言わせるな、私は今とてつもなく、非常に忙しい。 だから今回は諦めろと言っている、次に会ったら相手をしてやるよ。 そしたらその時は私を殺すなり、煮るなり焼くなりなんなりすればいいだろう。」
「ふざけるなっ!」
 ガルヴィスは本気でリファリウスを殺しにかかってきたが、リファリウスは両手の華を抱えたままなんとかかわした。
「ちょっとちょっと! 私はともかく、2人を巻き沿いにするとは酷いじゃないか。」
「黙れ! 死ね!」
「だから、それは無理な相談だと言っている、忙しいから死んでいる暇なんかどこにもないんだよ、 いい加減にしてもらえないだろうか。」
 と、リファリウスはガルヴィスの猛攻を避けながらそう言い返していた。 リファリウスとしてはいつも言っていることであるが、 こういう面倒なやつほど敵に回すとろくなことがないとよく言っている、そしてこれがまさにその典型であった。 こういう面倒なやつ――というと、リファリウスこそがそれという意見も多々あるが、 それを差し置いてもこういう敵はあんまりである。
「仕方がない、やるしかないか――」
 リファリウスは右手で剣を抜こうとした、ところが――
「得物を抜いたな! だがもう遅い!」
 ガルヴィスはリファリウスが剣を抜こうとするその前に即座にリファリウスの間合いに急接近!  そのまま振りかぶってリファリウスに一太刀……浴びせる予定だったのだが――
「キミは本当に私を殺す気なのだろうか、それだけが未だによくわからないよ。 だから本当はこんなことをしても意味がないことを本当はわかっているんじゃないかな?」
 リファリウスの抜刀行為はフェイントで、左手の指から魔法剣を繰り出すと、 間合いに急接近してきたガルヴィスの顔面にクリーンヒットした。 ガルヴィスは思いっきり弾き飛ばされた。
「ぐあっ! くそっ、リファリウス!」
 ガルヴィスは受け身を取って何とか態勢を立て直しながら前に向きなおったが、 その場にはリファリウスら3人の姿はどこにも見当たらなかった。
「……くっ、逃げやがったかあの野郎、次こそは、必ず――」
 実はこのようなシチュエーションは初めてではなかった。これでかれこれ4度目である。

 フェニックシア大陸でのお話、地面が大きく割れてその光景は絶望的だった、隣にあった足場は完全に分断され、眼下には雲海が。
「見ろ、2人が移動している! 向こうは揺れが収まったのか!?」
 リファリウスとリセリネアはそちら側にある例の建物のほうへと向かっていた。
「向こうはあそこしか頼れる場所がなさそうだな、たとえ中に入れなくても――」
 ヒュウガは何とかうずくまりつつも冷静にそう言った。 彼らも揺れが収まり次第、何とか向こう側に渡れる足場を探しながら例の建物へと向かった。

「リセネリアさん! リファリウス! どこにいる!」
 ガルヴィスらはリファリウスとリセリネアが行ったであろう建物の近くまで何とかたどり着くと、2人を探した。 返事はなかったが、ヒュウガが気が付いた。
「なあ、あの建物ってあんなに大きかったっけ?」
 例の不気味な建物が地震で地下の部分が隆起したようで、その外観はまさに神殿のようだった。
「あっ、あそこから中に入れそうだぞ!」
 シャディアスは入り口があることにすぐさま気が付いた、入り口は地下部分に隠れていたのか。

 とにかく彼らは2人を探すことにした。
「上だな」
「上ですね」
 神殿の中に入るや否や、カイトとシエーナは声をそろえてそれぞれそう言った。 確かに、ガルヴィスは神殿に入って確認すると、神殿の階層的に上か下か選ぶ必要がある作りのようだった。 内観もかなり不気味な感じを醸し出しており、黒々としていた。
 そして2人の言った通り、神殿の上の階へと進み、大扉の前へとやってきた。
「こっ、これは――」
 シエーナはいきなり頭を押さえ、その場でうずくまってしまった。
「シエーナさん、どうしたんだ?」
 ガルヴィスがどうしたか尋ねると、カイトのほうも――
「うっ、こんなことが――」
 うずくまってしまった。 しかし、ガルヴィス的にはそんなことを考えている場合ではなかった、そう、リセリネアが心配なんだ。 彼は大扉を開けようとした、すると――
「ダメだ! ガルヴィス! それ以上先へは進むな!」
「ガルヴィスさん!」
 2人はガルヴィスを止めようとしたが、ガルヴィスは引き下がるつもりなどなく、2人を振り切って中へと侵入した。すると、そこには――
「まさか、そんな――」
「これまでか――」
 そこには、リファリウスと見たことがない戦士がおり、それぞれそう言っていた――えっ、リセリネアはどうしたのだろうか。
 すると、リファリウスは背後の気配に気が付き、
「あ、ガルヴィスく――」
 そう言うと、その傍らにはリセリネアがぐったりと倒れて――
「リセネリアさん!?」
 ガルヴィスはリセリネアの傍らへと即座に歩み寄り、 そして、ものすごく泣いた、泣いて、泣いて、泣きじゃくった。 こんな、こんなことが、こんなことが許されてたまるものかと!
 すると再び、異様に大きな揺れが――
「……どうやら早いところ避難するとよさそうだな――」
 見慣れぬ戦士はそう言うと、いずこかへと消え去った。
「……ガルヴィス君、私らも早く行こう。」
 リファリウスは辛そうにそう言ってガルヴィスを促した。彼らは全員神殿を脱出したのである。

 神殿を脱出し、2つに分断された浮遊大陸自体が大きく傾くと、彼らは大陸を放棄して脱出せざるを得なかった。
 2つに別れた島は高度をゆっくりと落としながら、エンブリス近海に不時着した。 なんとか無事だった彼らはエンブリス島へと上陸、そして、フェニックシア大陸はその後、跡形もなく消え去った。
 そう、これがエンブリアでも非常に大きなインパクトを残した”フェニックシア大陸消失事件”であり、 それからさらに数年後にはエンブリア、スクエア、フェアリシアにアリヴァールと、セラフィック・ランドの各地域が相次いでなくなると、 一連の事件については”セラフィック・ランド消滅事件”と言われるようになり、エンブリアに暗い影を落としていくこととなった。

 フェニックシアが消滅した直後、ガルヴィスはリファリウスに向かって怒りをあらわにしていた、 それはリセリネアが倒れていたこと、死んでしまったことについての追及だった。
「貴様、どういうことだか説明してもらおうか!」
「……ガルヴィス君、何といえばいいだろうか、リセリネアさんは――」
「能書きは要らん! 貴様がついておきながら!  何故だ、何故こんなことになった! さっきのやつは何者なんだ!」
「彼女が亡くなったのは本当に残念だ! あの戦士のことは私も知らない――」
「あくまで自分のせいではないと言い張るつもりか!」
「いや、あれは私のせいだ! リセリネアさんが亡くなったのは私のせいだ……そう、 たとえ何があっても、私が守り切れなかったのが悪いんだ!」
「なら、その命でリセネリアさんに詫びろ!」
 ガルヴィスは剣を取り出し、リファリウスに切りかかろうとした。すると、リファリウスの前にはシエーナが――
「ガルヴィス! やめなさい! リセリネアが亡くなって、大陸までもが消えてしまって取り乱しているのはあなただけじゃないの!」
「ガルヴィス、剣を収めるんだ。 確かに、リセリネアさんが亡くなったのは悲しい、だけど、そんなことをして彼女が喜ぶと思うか?」
 ……ヒュウガの言う通りだがガルヴィスは聞く耳持たずだった。 そしてガルヴィスは無言でその場を去った、誰も止めようなどとは思わなかっただろう、 今までの住処を失い、仲間も一人犠牲となり、誰しもがどうしていいのかわからない状態、 そしてガルヴィスはあのありさま、誰も止めようなどとは思わなかった。
 そして、リファリウスも――
「リファリウスさん、何もすべて自分で背負い込まなくたって――」
 シエーナは言うが、
「……私は、弱いな――」
 リファリウスは涙をボロボロと流しながらそう言った。