ある朝――マハディオス軍は見る見るうちに衰退、その影響は北部のマハディオスの町まで到達し、
その結果、マハディオス軍は降伏を宣言。
ライザット軍が勝利を収めると、トライト大陸の情勢は落ち着いていくことになっていくのだ。
そしてそんな中、ガルヴィスと言えば――
「ほら、ご所望の謝礼金だが――本当にその程度でよかったのか?」
ヴィーサルはそう訊ねた、謝礼金は傭兵がもらうハズ程度の額でしかなかった。
それについてガルヴィスは答えた。
「あの程度の雑魚相手に壮大な歓迎計画立てられても困るからな。
だから当面の旅の軍資金に困らない程度のものがもらえればそれで十分、
持ちすぎていても重荷になるだけだ。
それに、自分が強いと勘違いしているあの野郎の得物も頂いたからな、
いざとなったらそれを売っぱらうだけだ」
ガルヴィスはレイノスやほかのネーム持ちの得物をしっかりと携えていた、まさにハンターである。
「もう行ってしまうのか?」
ヴィーサルは訊いた。
「ここにはたまたま立ち寄っただけだからな、そろそろ行くことにする」
そこへワイドナスが慌ててやってきた。
「おっと、まだおられましたね、よかったです。ヴィーサル殿、謝礼金のほうは?」
「もう渡しました。それにしても欲のない――」
それに対してガルヴィスが言った。
「欲がないと言えばその通りかもしれんが今の俺にしてみればどれだけ金欲があっても仕方がないんでな。
それに、あの程度の戦いに見合う対価としては多すぎるほどだ」
それを聞いてワイドナスは悩んでいた。
「ふむむ、それにしても”フェニックシアの孤児”ですか。
目的は自分探しということですが、元々フェニックシアは浮遊大陸ですのでそれ以前の記憶がないにしても、
ここまで離れたところにあなたのルーツがあるようには思えないのですがね――
いえ、もちろんそれはあくまで私見の域をでないわけですが――」
それを聞いてガルヴィスは考えていた。
「なるほど、こんなところまでくる意味はないと、そういうことか――」
「あっ、いえ――あくまで私見ですので、お気になさらず――」
そこでガルヴィスは訊ねてみた。
「セラフィック・ランドから北東にある大陸にどうしても行けなかったんだが、あそこには何があるんだ?」
それに対してヴィーサルは答えた。
「セラフィック・ランドから北東にあるといえばクラウディアス王国がある大陸のことか?
あの国は第3次世界大戦の末期ぐらいに鎖国をして以来、どういう状況なのか全くつかめない国だな。
もっとも、鎖国以前からも秘密のベールに包まれた国だったけどな」
そんな国があるのか、ガルヴィスはそう思った。
第3次世界大戦、つまりエンブリアは3度にわたる世界をまたにかけるほどの大きな戦を経験していたということである。
第1次世界大戦では各国の紛争や独立の機運が強まり、やがては国をまたいでの戦に発展したことから起こった戦争である。
第2次世界大戦では第1次世界大戦の反省を踏まえて各国で強い国作りを模索していった。
それによってできた国の中には、エンブリアでも有数の強国として名を馳せるに至ったウォンター帝国がある。
同帝国による各国への進撃により、いくつかの国がなすすべもなく降伏し、植民地となっていったのがその戦いである。
そして第3次世界大戦はまさにそのウォンター帝国の支配からの独立のため、
その発端となるクラウディアス国を中心とした連合軍がルシルメアの町を解放するために戦いを仕掛けたことに端を発する。
その機に乗じてトライトをはじめ、他のウォンター帝国の支配下にあった多くの植民地が声を上げ、ウォンター帝国は見る見るうちに衰弱していった。
だが、今回のトライトでの戦いのようにウォンター帝国の支配下から解放された後は覇権をめぐっての争いが絶えず続くことになり、世界大戦は収まる気配がない。
しかし、そこへとある大きな事件が起きた、セラフィック・ランドにある”フェニックシア消滅事件”である。
それによってエンブリアの中心地にも近いエンブリス、
そして近くの経済都市スクエアではすべての取引がストップ、エンブリア中はパニックになった。
それによって物資不足や、ひとつの大陸が消滅したパニックも相まって戦争の意識は急速に低下、
多くの国々が戦争終結を宣言し、第3次世界大戦は収束したかに思えた。
ところがその翌年、その機を待っていたと言わんばかりに沈黙を破った勢力があった、グレアード軍である。
グレアードはルーティスの地を襲撃し、ルシルメアなどの地域を支配しようと企んでいた。
しかしそれは失敗し、結局第3次世界大戦の終結が宣言された。
だが、今回のトライトなどのようにまだまだ領土の覇権をめぐっての争いは続いているようで、
本当に戦は終わったのかと疑いたくなる状況が続いているという。
しかしフェニックシアの消滅以来、少なくとも多くの国をまたいでの目立った大きな戦がないというのは確かなようである。
エンブリアの今の情勢をあまりよくわかっていないガルヴィスだが、このライザットでそう言う話を聞いていた。
歴史には興味はないとはいえ、それでも事情を知らないと下手に命を狙われかねないということもあり、
ある程度は事情を知っておくべきだろうと思って話を聞いておいたのである。
そして、その日はそのクラウディアスについての大きなニュースが飛び込んできたのである。
「クラウディアス開国?」
そんなニュースが飛び込んできたことでその場にいた者たちは慌ててどこかへと立ち去って行った。
どうなっているんだ、ガルヴィスはそう思うとワイドナスはガルヴィスを促した。
「先日、ルーティスが解放されたというニュースがありましたが、
まさか、クラウディアスまでもが国を開くとは――。とにかく見に行きましょう」
傭兵の詰め所へと赴いた2人は傭兵の人だかりの奥にあるテレビに目をやった。
「なんかよくわからないな、本当に国を開いたのか?」
ガルヴィスはそう言うとワイドナスは言った。
「うーん、開いたばかりですからね、制限や制約などもあるのでしょう。
いずれにせよ、あの国に直ちに行くということは難しい気がしますので、
しばらくは様子見された方がよろしいかもしれませんね――」
するとガルヴィスは荷物を改めて背負い始めた。それにヴィーサルとワイドナスは反応した。
「なら、そろそろ行くか」
「そうか、もう行くのか」
「当てはあるのですか?」
ガルヴィスは考えた。
「あんたの言う通り、フェニックシアは浮遊大陸だった。
俺のルーツがあるとしたら、もしかしたらその近くなのかもしれないと思ってな、
この際だから一旦セラフィック・ランドへと戻ってみようと思う」