その日は特にこれと言ったことはなく、夜になるとガルヴィスは夕食を食べ終わったのち、すぐさま寝床に着いた。
周囲は作戦会議でもしているのだろうがガルヴィスは話半分であまり聞いていない、敵とあらば倒すだけ、
よくわからないがなんだか疲れているらしく、それしか能がなかったのである。
そして次の日――
「やあ、おはようさん。
話はろくに聞いていなかったようだけど、あんたはマハディオス軍への切り込み隊長だ、
その話は聞いているか?」
やはりウェザールが挨拶にやってきた。
自分が切り込み隊長――無論、聞いていないが、
そんなことは別になんでもよかったガルヴィスはただ「問題ない」としか答えなかった。
「で、何時出るつもりだ? 今からか?」
「朝食ぐらい食べて行けよ――」
朝食後、マハディオス軍が構えているヴァルジア王国へとウェザールとガルヴィスたちは早速やってきた。
「本当はあんたがリーダーのほうが良かったのかもしれんが――」
と、ウェザールは言うが、ガルヴィスは首を振った。
「んな面倒臭い雑用みたいなことはするつもりはない。
俺はただ真正面から敵を倒していくだけだ。それ以外は何だっていい」
ウェザールは呆れ気味に言った。
「そうかい、それはそれは頼もしいことで。んじゃあ、本当に任せてもいいんだな?」
「ああ、被害者を出したくなければ全部俺に任せておけ。
とにかく今の俺は虫の居所が悪い、レイなんとかとかいう野郎をぶっ倒してやるからとりあえず後ろに引っ込んで黙って見とけ」
そう言いながらガルヴィスはさっさとヴァルジアへと突っ込んでいった。
「まーったく、どうなってんのかねえ、”フェニックシアの孤児”というのは」
ウェザールはまた呆れ気味にそう言うと他のメンバーが訊いてきた。
「ウェザール、本当にあいつ、大丈夫なのか? 確かに強いし、あのザラームドすら軽く倒していたが――」
ウェザールは呆れたまま答えた。
「ああ、多分、大丈夫だろ。
お前は知らんだろうが、初日のあいつはライザットの傭兵たちをたった1人で一網打尽にしている、
グラスケスも一緒に戦っていたハズなんだが全員を殺さずに相手をしている、まさにとんでもない”バケモノ”だよ」
先日の話――
「それにしてもお前の強さはどうなっているんだ?」
広場にて、ガルヴィスは大剣で素振りをしていた。
そこへグラスケスたちは様子を見に来ており、話をしていた。
「さあな、実のところ俺にもよくわかっていない」
それにウェザールが指摘した。
「わからないって――自分のことだぞ?」
ガルヴィスはため息をついた。
「悪いが”フェニックシアの孤児”自身が自分を把握していないっていうのは本当の話だぞ、
はっきり言ってしまうと、とある時期を境にそれ以前の記憶がすっぱりと抜けている、
記憶喪失と言われればまさしくそういうことなのかもしれないな」
ウェザールはさらに訊いた。
「とある時期っていつからの記憶がないんだ?」
ガルヴィスは話した。
「”フェニックシアの孤児”と言われて持て囃されて始めた時期から前の記憶全部だ。
戦い方とか得物の使い方とか断片的に覚えているものもあるようだがそれをどうやって覚えたのかなどの類は一切わからん」
そこへ傭兵の1人が意地悪そうに言った。
「でもよ、マジで強えよな。
昨日の詰め所前ではまるで”バケモノ”にでも襲われたような感じだったぜ」
するとガルヴィスは答えた。
「確かに”バケモノ”だな、的確な表現と言えるだろう。
さしづめ、”バケモノのガルヴィス”とは名案だが――
あまり目立ちすぎるとろくなことがなさそうだからできれば遠慮願いたいところだな」
そして、ヴァルジア王国の中央では大きな剣を構えて突っ立っている男が一人、
殺人現場の中央に堂々と構えていた。
「なんだよ、これが天下のマハディオス軍なのか? 口ほどにもないな」
だが何人かは死んでおらず、気を失っているだけという状態である。
するとそこへ、自分と似たような風貌な感じの軽装の剣士が現れた。
「おい、どういうことだよ、誰に断りを入れて仕事をさぼってやがるんだ?
倒れてないでさっさと仕事しやがれよ」
そいつは殺人現場の中央に堂々と構えている男の前に現れると、続けざまに話をした。
「なんだよ、敵がいんじゃねーか。何してんだお前ら、早く立って戦えよ」
そいつに対して男は訊いた。
「テメーが”羅刹のレイノス”ってやつか?」
レイノスはその男に向かって言った。
「オメー、誰に向かって口訊いてんだ? 見りゃわかるだろ」
だが、そのレイノスに向かってそいつの足元に倒れている男が一人、話しかけた。
「れっ、レイノスさん、気を付けてください……こいつ、かなり強いです――」
しかしレイノスはそいつを踏みつけて言った。
「あ? 強いからどうしたよ? 見るからに弱そうなやつじゃねーか。
こんなやつにやられたってのか? それだったらお前が悪いよなあ?」
「いっ、痛っ! やめてください! レイノスさん!」
それに対して男・ガルヴィスが意地悪そうに言った。
「ほう、噂のレイノスさんとやらはどうやら弱い者いじめがご趣味らしい。
なんとも見上げた根性の羅刹さんとやらだな」
するとレイノスは殺意に満ち溢れた顔をガルヴィスのほうに向けた。
「あ? 貴様、ふざけたことを言ってるとマジで殺すぞ?
今なら許してやる、地べたに這いつくばって見せろ、命だけは助けてやる」
それに対してガルヴィスは大剣を抜いて答えた。
「なんで俺が貴様みたいな弱者相手にそんなマネをしなければいけないんだ? 寝言は寝ているだけにしとけよ。
それに貴様には悪いが、俺は先日、貴様みたいな三下に間違えられたことでとてもイラついているからな、
だからお前みたいな弱者でもいいからぶっ飛ばしたい気分なんだ、そういうわけで悪いが今すぐ死んでもらおうか」
レイノスはニヤついていた。
「ほう、この俺に挑戦するとはいい度胸だ。
そういうことなら話が早い、今すぐ地獄を見せてやるぜ!」
レイノスは剣を2本引き抜き、ガルヴィスに襲い掛かってきた!