数時間後、ヴィーサルはとある人物を連れて慌てて町の外のほうへと駆け寄っていった。
「貴様ァ! この俺にたてついたのが運の尽きだったな!」
「なんだ、何かあんのか?」
「クハハハハ! 俺の名はザラームド! そう、”影山のザラームド”とは俺のことだぜ!」
町の正門の前、ガルヴィスがその”影山のザラームド”と呼ばれる重戦士風の重たい鎧を着て大斧を持っている男と対峙していた。
そいつに対してライザットの町で見張りを続けている傭兵たちは驚いていた。
「影山の! やっぱりやつはザラームドだったのか!」
「というか、どうなっているんだよ! 連中のほうが圧倒的に強くないか!?
”羅刹のレイノス”も連中側についているし――」
「それもそうだが、またしても奇襲攻撃を食らうとは――ここもそろそろ危ないか……!?」
だがしかし、一方のガルヴィスは――
「それはよかったな。いい加減、口ばっかり動かしていないでさっさと始めようぜ」
当然のごとく、一切動じていなかった。
「きっ、貴様! まさか、この俺のことを知らんは訳ではあるまい!?」
「またその話――そうだ、そのまさかだ。とにかく、何山だか何様だか知らんが実力を示すんだったら俺に勝ってからにしろ」
ザラームドはニヤッとしていた。
「ふっ、そういうことならいいだろう! 何故俺がそのように呼ばれているのかその身をもって味わうがいい!」
ザラームドは斧を振りかぶり、勢い良く地面をたたき割った!
それと同時にガルヴィスは何かを感じてすぐにその場から退いた!
と、その時――
「これは――」
ガルヴィスが立っていた位置からものすごい勢いのパワーが噴き出してきた!
「なるほど、大地噴出剣的な何かか」
「カンのいいやつだな! この技をあっさりよけるとは!
しかしこれはまだほんの序の口! これでも喰らえ!」
ザラームドは次々と同じ動作を繰り出した!
「どうだどうだァ! さあ、よけて見せろ!」
さらに斧を水平に振り切り、風の刃のようなものをガルヴィスに向けて発射した!
「デカイ斧持ってるくせに案外器用なヤツだ」
そう言いながらガルヴィスは背中の大剣を引き抜き、勢いよく敵めがけて振り切った!
すると、その剣から地を這う衝撃波が発射され、途中でその衝撃波が何かにぶつかって爆散、
先ほどの大地噴出剣的な技は相殺されたようで、それと同時に爆散に巻き込まれた風の刃もかき消してしまった!
「何っ!? 貴様、今何をした!?」
ザラームドは驚いていた。
「見ての通りだが――まあいい、教えてやろう。
便宜上は”ライン・ブラスター”という名前の技になるか。
俺の使う”ブラスター・ソード”という技は飛び道具の一種でな、
一応魔法剣が基礎にあってはっきりとは覚えていないが――そこから独自改良を遂げた技らしい。
んなことはどうでもいいが、いろいろと繰り出してもらっているようだが俺の技の前ではその程度ということだ。
だからさっさと大人しく故郷に帰れ、命が惜しければな」
しかし――
「抜かせ! その程度のことで俺に勝ったと思ったら大間違いだ!」
するとザラームドは再び先ほどの技を繰り出しつつ、今度はガルヴィスめがけて突進していった!
「さあ、今度こそ受け止められるのであれば受け止めて見ろ!
1つでも受け損ねた場合は貴様の死が待っている!」
すると――
「ほう、いい度胸だ。そう言うことなら俺にも考えがある――」
ガルヴィスは剣を構え、そして勢いよく振りかざした!
「次の”ブラスター・ソード”はさっきのとは一味違う、こっちは貫通するからな」
その時、ガルヴィスの目の前から太めのレーザー光線のようなものがザラームドめがけて発射された!
「ぐはっ!」
そしてガルヴィスはレーザー光線沿いに突進し、
ザラームドの動きが止まったところめがけて大剣による渾身の一撃を浴びせた!
「言っただろう、大人しく故郷に帰れとな。
命が惜しくなかったようだから仕方がないか」
剣はザラームドの強靭な鎧ごしに見事な一撃が決まっていた!
「そっ、そんな、バカな――」
ザラームドはその場で崩れ去った。
それと同時にガルヴィスが放ったレーザー光線にザラームドの技が次々とぶつかり、技の威力がかき消されていった。
「ちなみにこの技は”ムーン・ソーサル・リアー”……もとい”ムーン・ソーサリアー”という、そういう変な名前の技だ。
考えたのは変なやつでお前にとっては残念な話だが威力だけは保証付きだ」
ガルヴィスはその場から引き返して町の中へと戻ると、そこにはヴィーサルと、恐らくワイドナスであろうその人物が待ち構えていた。
それに対してガルヴィスは少し悪びれた様子で言った。
「悪いな、目立った行動をしちまったようで」
だがヴィーサルは首を振っていた。
「いやいや、今回は奇襲攻撃だったようだな、他にも3人ほど敵がいたそうだがすべて倒してくれたみたいだし、むしろ助かったというところか。
それに、あの”影山のザラームド”をあんなにいとも簡単に倒しちまうとは! やっぱりすげーよ、お前!」
しかし、ガルヴィスは全く要領を得ていなかった。
相手はまさしく雑魚、そんなのを相手にそんなことを言われるほどでもなかったようである。
「それよりも、そっちが依頼主か?」
ガルヴィスはそう訊くとヴィーサルは我に返って話をし始めた。
「あっ、そうそう――こちらがワイドナス、俺たちの依頼主だ」
ワイドナスは挨拶をした。いかにも腰の低そうな賢者様そのものである。
「お初にお目にかかります、私がワイドナスです。
お話は聞いておりますが、あなたは”フェニックシアの孤児”なのですね?」
それに対してガルヴィスは「まあな」とだけ答えた。
「それにしても奇遇ですね、かくいう私もフェニックシア出身なのですよ。
その後はルシルメアへと渡り、ケンダルスに於いて賢者となることを志すと、
この地に根付いてヴァルジア王国の臣下となったのです。
そしてその功績がたたえられ、ライザットを興し、
恐れ多くもこの地の領主となるとまた王国に仕える身として続けることとないました。
ですが、このようなことになろうとは――」
ワイアンドは落胆していた。それに合わせるかのようにガルヴィスは話をした。
「本来は殺生を好まない賢者様には悪いが、敵は本格的に襲ってくるもんでな」
それに対してワイアンドも前向きに言った。
「ええ、それはもう。そうでなければ私もあえて傭兵を雇うほどのことは致しません。
無論、民のことを思えば戦などするべきではなかったのですがそれも後の祭り。
私はこの地の民の後押しによって決心したのです、最後まで戦い抜くと――」
それに対してガルヴィスは臆せず聞いた。
「やはりタカ派の連中が気に入らなかったということか?」
ワイアンドは気さくに答えた。
「というよりも、前陛下におきましては自分に何かあったら私に国を託すと命じられておりました故――
無論、それについては返上するつもりでしたが、やはり周りの後押しというものには勝てませんね」
またしても周りの後押しか、自らは謙遜するが周りに立てられればやらざるを得ない――
賢者様には多いタイプのようなのでガルヴィスは割と納得していた。
「領地まで与えられているのだから、あんたはそれこそ前の国王からも信頼されている人物だってわけだな。
で、反対派はそれを許さずってところか」
それに対してヴィーサルは「理解したか?」と訊くがガルヴィスは首を振った。
「理解したというよりかは別に理にかなっていれば正直それ以上はなんだっていい。
だからそれ以上は――ただ敵とあらば片っ端からぶっ飛ばせばいいと、それだけの話でしかないな」
こいつ――シンプル過ぎる。
しかし、言い換えればそれだけはっきりしているということで、こいつの行動自体は信頼できるものだろう。
それに実力も伴っている、まさに有言実行――こいつに任せておけば大丈夫、ヴィーサルはそう思った。