あの後、ガルヴィスはあの詰め所ですっかりと世話になっていた。
「なんか、かえって悪いな」
時間は夕食時、ガルヴィスは出されたスパゲティを食べながらヴィーサルと話していた。
「いやいや、いいんだ。こいつはお詫びみたいなもんだ、気にするな。
それにしても”フェニックシアの孤児”か――また大層なやつと出くわしたもんだ」
するとウェザールが何か聞きながらヴィーサルに話をし始めた。
「ちっ、ダメか――暗殺部隊からの連絡だが、どうやらしくじったらしい」
それに対してヴィーサルが何やら悔しそうにしていた。
「くそっ、マハディオスの連中め――」
それに対してガルヴィスが訊いた。
「事情はよくわからんが、戦争か?」
ヴィーサルは頷き、話を始めた。
「そういえば事情をきちんと把握していなかったんだったな。まあ、そういうところだ。
ある程度察しはついていると思うが、俺たちライザット軍と敵のマハディオス軍とで戦いが続いている――」
この戦いをはじめて3年は経っているそうだ。
当時のこと、このヴァルジア大陸はヴァルジア王国を中心にした1つの国家で元々は平和なところだった。
しかし、その際にとある勢力が現れると、この大陸を侵略するべく戦争を仕掛けてきた。
仕掛けてきたのはウォンター帝国という国、
ガルヴィスがいたフェニックシアのあるセラフィック・ランドよりもさらに南のほうにある巨大帝国だそうだ。
「ウォンター帝国はとにかく強大な国で各地に植民地があってな、ここもそのうちの一つになってしまった。
で、そのままウォンターの支配は続いたんだがそれも長くはもたず、各地で独立運動が起こっていったっていう背景がある。
解体当時のウォンターは何かと内部でもめているって噂だったが、そのせいなのかウォンターの情勢が不安定になり、
植民地の独立化も進んでいったわけだ」
そしてこのヴァルジア大陸についてもやはりウォンターからの独立を目指した国であり、
領土は返還されることになったのである。
「だが、問題はそこから始まった。
つまりは今回の戦争の要因となるわけだが、中心地だったヴァルジア王国は帝国軍によって滅亡しちまった。
それによってこの国の主権を巡っての争いが起きたってのがこの戦いの始まりだ。
勢力は三つ巴で1つはこの町に拠点を置く俺たちライザット軍、
旧王国は最も信頼の厚い穏健派、元臣下の一人であるワイドナス率いる勢力軍だ。
ワイドナスはこの町の領主の館にいて、俺たちの雇い主でもあるわけだ」
そして2つ目の勢力はマハディオス軍、北部のマハディオスの町を拠点とし、
旧王国はタカ派としても知られる元臣下ドミルザ派の勢力軍だという。
「平和な王国にタカ派ってのが気になるだろうが、どんな国にも面倒なやつはいるってことだな」
ヴィーサルはそう付け加えるとガルヴィスが話を続けた。
「で、3つ目の勢力はデステラ軍……だったりしないだろうな?」
それに対してヴィーサルは頷いた。
「実はそうなんだ。そうか、ここにはデステラの港からやってきたんだったな。
デステラ軍は――まあ、見てきたと思うが――」
ガルヴィスがトライト大陸に上陸した港はそのデステラだった。
しかし港町にしては活気が薄く、それどころか荒廃した風景の広がる錆びれた町と言う感じだった。
「デステラ軍は――壊滅したってところか」
ガルヴィスが言うとヴィーサルは再び頷いた。
「残念だがな。
最初にマハディオス軍が外部の傭兵を使って勢力をグングンと伸ばし、中心地であるヴァルジアの都を奪っちまった。
で、やつらは汚いことにデステラ軍が戦力を整える前に奇襲をかけ、町ごと焼き尽くしちまった。
もはや連中に太刀打ちできるほどの余力は残っていないだろう――」
一方でマハディオス軍の動きにいち早く気が付いたライザット軍は同じく傭兵をかき集めると町の守りを固めることに成功、
マハディオス軍の奇襲攻撃から難を逃れたのだという。
ガルヴィスは訊いた。
「”修羅のレイノス”ってのは? 何者だ?」
ヴィーサルは話を続けた。
「やつも傭兵だ、マハディオス軍に雇われている、俺たちの敵ってわけだ。
だが、やつはシェトランド人の実力者をも倒しているほどの使い手でな、
お前が来る前に暗殺部隊を送り込んだんだが今ほどその作戦に失敗したって報告があってな、
生き残りを引き上げさせたところだ。
で、その状況を偵察に行っていたハズの俺の弟――ウェザールがお前と出くわして今に至ると、
そういうところだな」
つまりこいつらにとっては何が何でもそのレイノスというやつを斃すことが課題なんだな、ガルヴィスはそう思った。
だが、ガルヴィスにとっては気になるワードが。
「シェトランド人?」
ヴィーサルは答えた。
「知らないことばかりだな。シェトランド人と言うのは――」
しかしガルヴィスは首を振った。
「通称”石の民”、”シェラト”の都を拠点に活動していて酒が大好きな連中だろ、それぐらいは知っている。
ちょっと気になっただけだ、だから気にしなくていい――」
だが、ヴィーサルのほうが疑問を持っていた。
「”シェラト”の都? そんな町聞いたことがないな。
もちろん酒が好きというのは間違いないが、たいていの戦士ならだいたいそうだろう?
ちなみになんだが、かくいう俺もシェトランド人なんだ。俺は”オウルの里”からやってきた。
まあ、隠れ住んでいる種族である都合多くは語れないが――とりあえず、そんなところだ」
あんまり興味のないガルヴィスだが自分の知っていることとは違うんだなと思った。
しかしそれと同時に、何故”シェラト”なんていうワードが飛び出たのだろうか、自分でもびっくりしていたガルヴィスだった。
そして――ガルヴィスは急に立ち上がった。
「どうした?」
ヴィーサルが訊くとガルヴィスは言った。
「疲れた、眠い。寝てもいいか?」
そう言われたヴィーサルは呆気に取られていた。
「そっ、そうか、そういうことならゆっくりと休むといい。
対したところではないがこいつに寝床に案内させよう――」
そう言われ、ウェザールの案内でガルヴィスは促された。
案内されたのはけが人が運ばれてくるような大部屋の複数あるベッドのうちの一角だが、
ガルヴィスはさっさと眠ってしまった。それを見ながらウェザールは呟いた――
「図太い神経しているやつだな、こいつは間違いなく大物だ――」