エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

果てしなき探求 第1部 ガルヴィスとリファリウス 第1章 ヴァルジア紛争

第3節 在りし日の出来事

 ライザットの傭兵団はガルヴィスを拘束しようと襲い掛かってきたが、しかし――
「どうした? もう終わりか? 俺は袋のネズミなんだろ? 早く捕まえてみろよ」
 ガルヴィスは抜刀することなく傭兵たちを次々と蹴散らしていった。 周囲の傭兵たちが伸びている中、ガルヴィスは目の前でうずくまっている先ほどの大柄の男を軽く蹴りながらそう言っていた。
「ほら、どうした? さっきの威勢のよさはどこに行った? 早く俺を大人しくさせてみろよ?」
 さらに蹴りを繰り返しながらそう言った。すると男は――
「いっ、痛ぇっ! こいつ、こいつバケモノだぁ!」
 ガルヴィスはまた呆れていた。
「そもそもお前たちから仕掛けておいて何を言っているんだ?  言っただろう、俺に弱い者いじめをする趣味はない、と。 それなのにわざわざ俺から仕掛ける意味がどこにある?  それに俺が強いんじゃない、ただお前らが弱すぎただけ――」
 その時、ガルヴィスの脳裏にはとある光景が――

 それはある日のこと――
「痛てーな、チクショウ!」
 それは誰かが魔物と戦っている時の光景である。 そいつは子供、魔物に襲われており、まさに危険な状況である。
 するとそこへ――
「シャディアス!」
 また1人の子供が現れると、そいつに――シャディアスに向かってそう言った。
「くっそー! なんでこんな魔物が出るんだよ! 聞いてないぞ!  ガルヴィス、危険だからこっちに来るんじゃない!」
 シャディアスにガルヴィス、そして――
「なんだなんだ、デカイ魔物がいるじゃないか、これってマズイんじゃないのか――」
 と、ヒュウガが言った――そう、ここは在りし日のフェニックシア大陸の様子、 彼らは”フェニックシアの孤児”である。

 彼らはまだ年端もいかぬ子供であるためか、この時出くわした大型の魔獣を相手にするのは困難だった。 それに――子供であるというためか刀剣などは与えられておらず、持ち合わせているのはせいぜい訓練用の木刀である。
 だがしかし――
「リファリウスさんどうしよう、シャディアスさんが――」
 リセリネアはその状況を見ながらそう言うと、リファリウスは慌ててシャディアスの元へと駆け寄った。
「シャディアス君!」
 それに対してシャディアスは――
「りっ、リファリウスっ! 近寄ったらダメだ! こいつは俺が引き受けるからお前らみんなで逃げるんだ!」
 そう訴えたがリファリウスはシャディアスを突き飛ばした。
「痛たっ! リファリウス! 何を――」
「こいつは私が引き受ける、危ないから下がっててよ。」
 それに対してガルヴィスは――
「リファリウス! 何かっこつけてんだ! いいか、俺が今大人たちを呼んでくるから刺激せずにそのまま待っているんだ!」
 そう言うとリファリウスは言い返した。
「こいつは今気が立っている、刺激しなくても私らを襲ってくることは明白だね。 だから仕方がない、私が始末しよう――」
 するとカイトが――
「リファリウス! 丸腰なのに無茶だ! せめて木刀を――」
 リファリウスは何も持たずに敵の目の前へとやってきていたのである。 そこへカイトが自分の木刀を投げ渡すとリファリウスのほうへと飛んでいった、だが――
「そんなのは要らないよ。」
 リファリウスは木刀を受け取らなかった。
「リファリウスさん! どうして!」
 シエーナはそう叫んだ。するとリファリウスは――
「大丈夫、ちゃんと持っているからね――」
 と、至って冷静だった。
「何を言っているんだ! リファリウスっ!」
 ガルヴィスはそう叫んだ。と、その時! 魔獣はリファリウスのほうに突進を繰り出した!
「リファリウスさーん!」
 リセリネアは悲痛な叫びでそう訴えた! が、しかし――
「おっとっと、危ない危ない。 まったく、子供相手に本気出すなんて――見上げた根性の魔物だね。」
 リファリウスは跳び上がると魔獣の背を飛び越えて背後へと回り込んだ!
「何っ!? リファリウスのやつ、どうなっているんだ!?」
 シャディアスは驚いているとリファリウスは答えた。
「思い出したんだよ、今までの自分をね。 と言っても完全とまではいかないけれども、魔物相手には――」
 リファリウスはおもむろにどこからともなく例の”兵器”を取り出すとその刃から風の刃を発射し、魔獣めがけて貫いた!
「なっ、リファリウス、そんなマジモンの武器は大人たちに没収されたはずじゃあ――」
 ヒュウガはそう言うがリファリウスは否定した。
「いや、私のは没収されていないよ。 そもそも私の得物は常に風の中に隠れているからたとえ大人たちでも取り上げることはできないんだよ。 第一、そのせいで最初から持っていなかったと認識されていたみたいだしね。」
 それに対してリセリネアが心配そうに言う。
「でも、ケガをしたら危ないですよ!」
 リファリウスは優しく言った。
「大丈夫、これで大ケガしたことも何度かあるから流石にもう二度とそんなことがないように学習しているよ、私の腕はね――」
 どういうことだ、何人かはそのセリフに困惑していた。

 しかし――刃を放ったにも関わらず、魔獣には全然びくともしていなかったようだ。
「ちぇっ、なんか変なの、思い出した割には――威力がおかしいなあ……」
 リファリウスは悩んでいた。
「リファリウス! 気をつけろ!」
 カイトはそう注意した、魔獣は再びリファリウスめがけて突進してきた。
「まったく、悩んでいるスキすら与えてくれないんだね、頭に来る魔物だなあ。」
 するとリファリウスは後方に飛んで距離を開けると、その”兵器”を構えた――
「これは腕力が足りない感じがするな。 魔力のほうは十分にありそうだから、こっちを使おうか――」
 するとリファリウスはその場で魔法のようなものを繰り出すと、 彼のそばに風の精霊のような幻影が現れた――
「あれはなんです!? リファリウスさん、あんな技をいつの間に!?」
 シエーナは驚いていた。
「集中すればちゃんとできる、複合魔法剣――」
 するとリファリウスは風の精霊と共に再び刃を放った!
「これでどう!」
 今度はただの風の刃ではなく、風の刃に炎の力と氷の力を含ませた一撃である。 それは先ほど放った風の刃に比べると刃の大きさも大きく、さらにスピードも増していた。
 そしてそれが魔獣に刺さると、そいつは見事に真っ二つに裂けてしまっていた――

「リファリウス、大丈夫か?」
 ヒュウガはいち早く駆け寄ると心配そうにリファリウスにそう言った。
「リファリウスさん、大丈夫?」
 リセリネアも心配そうに言う。
「大丈夫だよ、2人とも――今まで使えていたはずの力が使えなくなっていて……これはちょっとした反動だよ――」
 リファリウスの両手はガクガクと震えていたが、 ヒュウガとリセリネアの2人と共にそのままシャディアスのいるところへと向かうと、 リファリウスは何と回復魔法を用いてシャディアスの傷が見る見るうちに回復した。
「なっ!? 回復魔法ですって!? しかも風系の上位魔法!? なかなか高度な力を――」
 シエーナは驚いていたが、自分もなんでそんなことを知っているのか気にしていた。
「そうらしいね。でも――なんていうかな、さっきの技もそうだけどさ、 以前はこれぐらいのこと普通にやっていたような気さえするんだよ、不思議とね。 それがどういうことなんだろうって――」
 そして今度は魔獣のほうへと向き直った。
「どうやらうまい具合に両断できたようだね――」
 それに対してガルヴィスが言った。
「確かに――言われてみれば俺も今まで強力な技なんかを使っていた気がする――」
「俺もそんな気がするな。でも、どうしてそう思うんだろうか?」
 ヒュウガも疑問に思っていた。しかしそれは”フェニックシアの孤児”全員が思っていた違和感である。
「まあいいさ、とにかく事なきを得られたんだからさっさと帰ろう。」
 リファリウスはそう言ってみんなを促した。
「でもさ、それはそれとしてさ、お前よくもこんな強え魔獣を斃すことできんなぁ――」
 シャディアスはそう言うとリファリウスは得意げに答えた。
「ははっ、そんなこと――こいつはそんな大した魔物じゃあないよ、大きいだけで言うほど手ごたえがあったわけでもない。 つまりは私が特別強いんじゃない、ただこいつが弱すぎただけだったっていう話だよ。」