魔法が止むと当たりは巨大な氷塊が辺りを覆いつくしていた。
「大丈夫かユーシィ――」
氷塊の隙間にしゃがみながらティレックスは心配しながらそう言うと、
ユーシィもしゃがみながら答えた。
「大丈夫♪ すんごい魔法だよね、現れた敵、みんなペシャンコになっていったよ♪」
ティレックスは頭を掻きながら言った。
「まったく、ヤバすぎるよな。
第一、こうなるんだったら先に言ってほしいもんだ。
魔法の対象をロックしてないから、危うくこっちもつぶれかけたぞ……」
対象のロック、例の敵味方を識別するオプションのようなものである。
今回はヒュウガの剣を媒介にした魔法剣のような極意による発射のため、何気にそれが利かないという問題がある。
しかし、ヒュウガも魔力を行使して技を展開しているため、これによりある程度は識別が働いており、味方への被害は最小限で済んでいるという特徴がある。
もっとも、可動域が狭くなってしまった点については否めないのだが。
「スレア♪ 私のこと、守ってくれてありがとね♪」
「ああ、当たり前のことをしただけだ」
フラウディアがそう言うとスレアは得意げになって答えていた、
狭い氷塊の隙間でアツアツの状態のカップルがいたようだ。
「あそこは早くに溶けていきそうだが俺らはどうなるんだ?」
ヒュウガはその2人に対する皮肉を交えてそう言うと、ララーナは言った。
「ええ、どうやらすぐにでも溶けるようです」
すると、ヒュウガの背後から――
「今度は燃やしますっ!」
シオラが炎魔法を展開し、周囲を薙ぎ払った!
「うそだろ!? シオラさん、早まらないでっ!」
ティレックスは焦りながらそう言うと、ヒュウガが苦言を呈した。
「うろたえんな、精霊魔法の使い手様を信じるんだ」
そう、今度は純粋な魔法による御業、対象ロックが利いているので仲間には被害が及ばない、ティレックスはすっかり忘れていた。
「そうだった……」
「あははっ♪ ティレックスったらしっかりしてよね♪」
ユーシェリアは楽しそうに言うがティレックスは悩んでいた。
氷塊はまだ溶け残っているが一通り掃除すると、その真ん中にはキャロリーヌが突っ伏している光景が……
「うっ、なっ、なんて魔力……なのよ……」
彼女は瀕死の状況だった。するとそこへ――
「お前がエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌなのですね――」
シャルロンが剣を引き抜きながらそう言った、まさか――
「ん? シャルロンちゃん?」
シオラは彼女の様子を伺いながらそう言うと――
「こいつはロサピアーナ軍の生物兵器、このまま生かしておくわけにはまいりません」
確かにその通りだが……
「待ってください、確かにそれもそうなのですが、この方の使用する誘惑魔法のソースが少々気になります!
ですから私としてはいろいろと訊きたいことが――」
ララーナが慌ててそう言った。
確かにどうやらそのようで、それはララーナの目的の一つだった。だが――
「ぐはっ!」
なんと、シャルロンは無慈悲にもキャロリーヌの背中めがけてその剣を差し込んだ!
「こいつのせいでどれだけクラルンベル軍が多大なる犠牲を払ったことか――」
そう言い放ったシャルロンの表情はなんだか暗い表情だった、それを見ながらシオラもなんだか憂い気な様子だった。
「シャルロンちゃん……」
クラフォード、イールアーズ、そして、エクスフォスの2人と、
その他大勢の者はどうやら正気を取り戻したらしく、周囲の状況に驚いていた。
その様をなんとか説明すると、各々何となく納得しているようだった。
「お、俺がそんなことをしていただなんて――」
クラフォードは頭を抱えながら自分を恥じているような感じだった。
「まあまあ、仕方がないさ。
相手はそれ専用に作られたらしい生物兵器、そんなんが相手じゃあ仕方がない」
ヒュウガはなだめるようにそう言った。
そして、ディスティアはララーナがいるところへと歩いて行った、キャロリーヌの亡骸のあるその傍らである。
「なんです? どうかしましたか?」
ララーナは悩んでいるようだった。ディスティアに気が付くと、彼女は答えた。
「ええ、実は少し気になりまして――」
どうしたのだろう、ディスティアはさらに話を聞いた。
「はい、この者から妖かしの気配を感じるのは確かなのですが、それにしてはその血の量が少ないような気がしまして――」
それに対してシャルロンが言った。
「話は聞きました。
そういうことだったのですね、話もろくに聞かずにさっさととどめをさしてしまってすみません――」
そんなこと、謝る必要なんて――ララーナはそう諭すとシャルロンは笑顔で答えた。
「お気遣いありがとうございます!
こいつはちょっとかたきみたいなところがありましたので、ついカッとなってしまったんです――」
シャルロンはさらに話を続けた。
「それで、多分その妖かしの血というものですか? 少ないというのならそれはそうなのかもしれません。
だって、これはロサピアーナ軍の生物兵器、私自身は初めて見たのですが、生物兵器というからには量産されている可能性もありそうです。
つまり、ほかにも同じような兵器がたくさんいると思います!」
そっか、そう言われてみればそういうことかもしれない、ララーナは頷いていた。
そしてシャルロンのほうへと向き直ると彼女に謝っていた。
「本当にすみません、謝るのはむしろ私のほうです。
というのも、実は私たちはあなたのことを疑っていました、
本当はあなたがそのエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌというものではないのかと。
でも、それはどうやらとんだ思い違いだったようです――」
それに対してシャルロンもなんだか悪びれた態度で言った。
「いえいえ、私のほうこそ……どうやら心証があまり良くなかったようですね、今では反省しています。
特にユーシェリアさん、それからフラウディアさん、本当にごめんなさい!
久しぶりの女の子だったからどう接していいのか忘れてしまっていました――」
それに対してユーシェリアとフラウディアはシャルロンのもとへと駆け寄っていった。
「いいんだよシャルロンちゃん! 私は全然気にしていないから!」
「そうだよ! 今度から仲良くしようね♪」
どうやら一気に距離が近くなったようである。
「ありがとう2人とも、ありがとうみなさん――」
シャルロンはなんだか嬉しそうに涙を流していた。その様子にシオラもうるっと来ていた。