なんとかシステム・Tの大群を退けた一行、ヒュウガは剣を抜きながら言った。
「ったく、数だけは立派なもんだな。さてと、そろそろ行くか――」
だが、その時――ヒュウガの背後でクラフォードが剣を抜いていた。
「なんだか嫌な予感がしていたんだが、とうとう本性を現したということか」
ヒュウガは冷静に言うと、クラフォードが言った。
「ああ、そういうことだ。
お前たちはずいぶんと俺のことを怪しんでいたからな。
その通り、俺はそのエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の従順なる下僕さ。
さあ、あの方がこちらへとおわす、無駄な抵抗はやめて控えるのだ」
そう言うと、どこからともなくアーシェリスとフェリオースもやってきて、その背後には女が!
「ウフフフフっ、よくもやってくれたわねぇあんたたち、魔女を追い出すための兵器を一網打尽にしてくれたじゃないのよ♪」
その女はどこぞの悪女よろしく、セクシーな立ち姿をしており、男たちの目の保養と言わんばかりに露出度の高い恰好をしていた。
「まっ、まさか、お前がエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ!?」
シャルロンはそう言うと、その女が言った。
「ウフフフフっ、そのとおり♪
悪いけど、あんたの部下は全員この私の下僕にしてあげたわよぉん♪
私の従順なる下僕をあんたのもとに送り込んだのが正解だったみたいね!」
従順なる下僕!? すると、イールアーズが剣を取り出して言った。
「すべてはエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の意のままに!
キャロリーヌ様、俺がエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様のためにこいつらをけしかけました!
ですからキャロリーヌ様! ぜひとも、ぜひともキャロリーヌ様のその素晴らしい御身をこの俺に!」
すると、それに対してクラフォードが――
「それは違う! エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様のために尽力したのはこの俺だ!
この俺が、こいつらクラルンベルの残党とクラウディアスの援軍をキャロリーヌ様に引き渡すために尽力したのだ!
だからキャロリーヌ様の素晴らしい御身はこの俺のもの!」
「違う! キャロリーヌ様の美しく素晴らしい御身はこの俺が!」
「キャロリーヌ様! この俺にキャロリーヌ様の御身を――」
2人で言い合っている中、キャロリーヌ様が機嫌よく言った。
「ウフフフフ――ケンカしないの♪
あんたたちはちゃんと私のために尽くしてくれたわ。
だから2人に後でご褒美をたあっぷりとあげるわよぉん♪
でもその前に――まだやるべきことがあるでしょぉん?」
すると、キャロリーヌ様は色っぽい仕草をしながら言った。
「さあアタシのカワイイ下僕共! ここにいる虫けら共を即刻処理しろ!
もちろん、男はアタシのもの♪ そして女は徹底的にいたぶり尽くせ! さあ、さっさとやるのよ!」
仰せのままに! どういうわけか、ヒュウガたちは大勢の者に取り囲まれていた。
それはクラルンベルの例の解放軍と共にロサピアーナ軍までもが混じっていた。
「くっ、こんなことになるなんて、やるしかなさそうですね――」
ララーナはそう言うと、ヒュウガは調子よく言った。
「こんなの、想定済みだろ?
それに、すでにどうすべきか決まっているみたいだし。で、何をすればいいんだ?」
それに対してララーナも調子よく言った。
「まあ、流石にお察しがいいですね、リリアリスの弟分さんというだけのことはありますね。
では、敵陣に向かって地を這う電気の衝撃波を発していただけます?
シオラはその波に水魔法を放ってください」
シオラは訊いた。
「何をするんです?」
「私はディスティアさんと共に直接キャロリーヌを討ちにいきます。
彼女が司令塔、あれさえ何とかなればこの場は収まるかもしれませんので――」
「わかりました、行きましょう!」
ディスティアがそう言うと、ヒュウガとシオラは頷いた。
「まあいい、とりあえず、やればいいんだな」
「ヒュウガさん、よろしくお願いいたします!」
「ああ、こちらこそ」
ヒュウガは勢いよく剣を振り被り、そして勢いよく剣を振り下ろした!
すると彼の周囲からは波打つ静電気のようなものが巻き起こる!
「今回は特別サービスだ、俺の魔力も使って性能をかさ増ししてあるからな」
得意げに――彼の場合はどっかの誰かさんとは違って同じ得意げでも淡々と言うタイプだが、
表情の起伏が乏しいという違いがある。要するに、表情を表に出さんと自分を押し殺しているのである。
だが、それでは少々不自然さが目立つため、それはそれでわかりやすい。
「なっ!? 何なのよ一体!」
ヒュウガが技を繰り出すと、キャロリーヌはなんだかうろたえていた。
「さあて、なんでしょうか♪ これでも食らいなさいっ!」
シオラは調子よく答えるとそのまま続けざまに水魔法を展開し、それをヒュウガの剣めがけて発射した! すると――
「強えっ! おいおいおい、もっと加減しろよ! あんたこんなに強いんかい!」
ヒュウガが慌てていた。どうやら彼女の魔力の出力が強すぎたようだった。
「あっ、ごめんなさい、ええっと……」
シオラは焦りながら魔力を操作しようとしていた。するとそこに――
「思いのほか、ということですね。
私もこれほどとまでは思いませんでしたので少し予定を変えましょう。
シオラさん、何もせずにそのまま続けてください、私にお任せくださいな♪」
ララーナが立ちはだかると、ヒュウガの周囲を冷気魔法で覆いつくした! だが、それは――
「ん? これは――誘惑魔法!?」
その能力を確認したヒュウガは驚きながらそう言った。
「ええ、正解です。とはいえ、それ自身の役目はただのコーティングですので威力のほうには全く影響はありません。
ヒュウガさんの誘惑耐性が高いことを見越しての誘惑魔法ですので、もし耐性がないお方でしたら別の手段でコーティングを行いますが、
私にしてみれば最も手軽な能力ですのであえてこれを使わせていただきました。
まあ、それでどうなるかについては実際に見ていただければすぐにお分かりになります」
すると、シオラの水魔法の塊が次々と凍り付きだし、それがヒュウガが発生させた波に乗ると巨大な氷塊が次々と周囲のほうへと広がっていった!
「うおっ、すげ! しかもシオラさんの魔力が直接広がっていくんだな――」
だがヒュウガの剣はだんだんと重たくなっていった――
「まっ、マジかよこれ――」
するとそこへディスティアが現れてヒュウガの剣を支え始めた。
「なんだか面白いことをしていますね、バトルフィールドが狭くなってきたのでこちらを加勢すべきと判断してやって来ました。
こんな感じでよろしいです?」
それに対してヒュウガが答えた。
「ああ、助かるな。なんせ、2人分のドデカイ魔力を支える羽目になったんでな、俺一人だと流石に――」
だが、支えているディスティアのほうもかなり必死になって剣を握りしめていた。
「っておい! あんたらどんだけ魔力強いんだよ!」
ヒュウガはクレームを入れながらディスティアと共に自分の剣を必死になって支え始めた――