エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第5章 反勢力軍の反撃

第65節 恋する乙女は強い

 帰り道、ヒュウガとララーナはカフェでモーニングを楽しんでいるユーシェリアとフラウディアにばったりと出くわした。
「あっ、ヒュウガさんにお母様♪ こんなところで奇遇ですね♪」
 ユーシェリアは嬉しそうにそう言うと、ララーナはにっこりとしていた。
「よう、ご機嫌じゃないか。それよりもどうする? 話をしたほうがいいか?」
 ヒュウガはそう言うとララーナは頷いた。
「そうですね、お2人にも話をしましょう。 一度に全員話すと大変ですから個別にお話しするほうがよさそうですね」
 ヒュウガは頷いた。
「まあ確かに、この手のことは男女でリアクションも変わってくるしな」
 何のことだろう、フラウディアとユーシェリアは首をかしげていた。

 クラフォードの話――
「えっ、そうだったのですか!?」
 フラウディアは驚いた。
「プリズム族を生物兵器に仕立て上げたって、なんかやな感じ!」
 ユーシェリアはそう言った。それに対してララーナが言った。
「2人とも、自分の彼氏さんの心をがっちりと離さないようにしてくださいね。 フラウディアはともかく、ユーシェリア、この際ですからあなたも誘惑魔法の強度を強めておいてください。 クラフォードさんがあんなふうになっている以上、あなたも覚悟をしておいたほうがよろしいかと――」
 ん? なんだ? ユーシェリアが誘惑魔法って、ヒュウガは耳を疑っていた。 するとユーシェリアは前向きかつ、マジメな顔をして言った。
「わかりました! こうなったら私も女ですから毒香からティレックスを守ります!」
 マジか……ヒュウガは悩んでいた。てか、この女、なんでそんなものが使えるんだ――
「リリアお姉様とシェルシェルに教えてもらったんですよ♪  どうせならティレックスにも楽しそうにしてもらいたいなと思って♪」
 恋する乙女は強かった。楽しそう、確かに――
「ティレックスか、確かに俺もあいつの楽しみって何なんだろうって思うことはよくあるからな。 だからなのか、結構苦戦しているみたいじゃないか?」
 ヒュウガはそう言うとユーシェリアは言った。
「うん、というか彼、お母さんがラミア族だから女の子には強いのかなと思って。 でも、かと思えばちょっとしたことで鼻血出してるとかいうし、私も知らないことあるんだ。 だからお姉様に思いっ切ったことやってみたらって言われて誘惑魔法を習ってみたんだよ」
 なるほどな、ヒュウガはいいこと聞いたと思ってひそかに笑っていた。
「それよりもヒュウガさんは大丈夫ですか? お相手がいないと罠にかかってしまうのでは?」
 それに対してララーナが言った。
「ええ、それは私も考えたのですが、おそらく、ヒュウガさんには効き目があまりありません。 ゼロというわけではありませんがティレックスさん以上の耐性をお持ちですから問題はないと考えています」
 えっ、そうなの!? 2人はそれに驚いているとヒュウガは頭をかいていた。
「俺もそれが何でなのかはわからんが、意外と平気な体質らしい。 まあ、”ネームレス”だからな、その中に平気な秘密でも隠されているんだろ」
 すると2人はひそひそ話を始めていた、なんなんだよ、ヒュウガはそう思っているとユーシェリアが話をした。
「そっか、やっぱりリリアお姉様の弟分っていう話は本当なのかもしれないね――」
 そういえばそんな話をしていた気が――。そう思ったヒュウガは言った。
「いや、あれはあくまでネタだ。でもなんでだろう、最近は意外とそんな気もしてきたな――」
 彼の”ネームレス”としての秘密が明かされる日も遠くはなさそうである。

 ホテルに着くとフラウディアは考えていた。
「ほかの人はどうやったら守れるんだろう――」
 ユーシェリアはどうしたのかフラウディアに訊くと、それを訊いたユーシェリアも考えていた。
「確かにアーシェニス君にフェリオース君、最悪イールさんもってことになると――」
 そこへヒュウガがやってきた。
「まだその話をしていたのか。 てか、そいつらはむしろ手遅れって考えたほうがいいだろうな」
 手遅れ? 2人はそう言うとヒュウガが言った。
「クラルンベルに残ったクラフォードがああなっているってことを考えるとほかの連中も同じって考えるのが妥当だからな。 そして御覧の通り、この中には女が一切混じっていない――ま、女は毒香にやられた男どもと敵を前にしてなすすべなく捕まったと考えるべきだろう。 となるとシオラさんには申し訳ないが、怪しいのは大体見えてくるって寸法だが――」
 そう、怪しいのはシャルロンちゃんということになる。 あのアジトには男の中に女一人で、しかも昔との服装のギャップと性格の変わりよう…… そういうシャルロンちゃんだからこそ疑いの目が彼女に向くのは必然なのである。 ただ――
「でも、彼女からはプリズム族の気配はしないんですよね?」
 ユーシェリアはそう言うとフラウディアは頷いた。
「確かに彼女、近づいた時もそんな感じはなかった気がします。 もし、プリズム族の魔力でそんなことをしたのなら彼女はプリズム族のハズです。 それに――」
 それに――フラウディアは続けた。
「仮に彼女がそのロサピアーナ軍のプリズム族系の生物兵器だったとして、 それで彼女は、プリズム族に何をするつもりなんでしょう? まさか魔女狩りなんてこと――」
 考えたくもなかった、同族に対して虐殺を行う行為、 そもそも論としてそんな殺戮を行う行為なんて、いくら彼女でもそんなことを行おうと考えているとは思いたくなかった。 だって彼女はシオラと親しい人物、彼女の良さはシオラがよく知っている、 そんな彼女がそんなことを考えているなんてことになると、シオラの気持ちは――
「まあ、いろいろと思うところはあるわけだが現状はとりあえず、 こっちからは手も足も出せないって言うのがララーナお母様の見解ってわけだ。 だからまあ、彼女が言うんだから俺たちはそれに従って行動するしかないな。 もどかしいのはわかるがこればっかりは仕方がない――」
 ヒュウガはため息をつきながらそう言うとユーシェリアとフラウディアはお互いに顔を見合わせ、 息をのみながら頷いた。
「そうだね、お母様の言う通りにするしかないね。私はスレアを守るから、ユーシィは――」
「うん、そうだね、私はティレックスを守るよ」
 恋する乙女は強かった。