それはともかく、話を変えることにした。
「なるほど、クレイジアのプリズム族の目星はついたってワケね。
で、それで、クラルンベルの別動隊と合流したと、
それで、エダルニアに殺されたハズのシャルロンちゃんと再会したっていうことね。」
シャルロンちゃんを知っているのか、ヒュウガはそう聞くとリリアリスは答えた。
「ええ、ルーティスの学生さんね。
シオりんと仲が良かった子なんだけど、
ずいぶん前にクラルンベルの総動員令によってクラルンベルの学生たちに帰国命令が出されてね、
でも、ディグラットでクラルンベル軍を待っている間にエダルニア軍の攻撃を受けて亡くなったハズなのよ。
で、彼女の亡骸は見つからなかったんだけど、そのカラクリはつまりはそういうことだったのね――」
リリアリスは話をつづけた。
「それに、アーシースもフェリオースもエネアルドに戻ったって聞いたのに、
何気にデュロンド軍ったらずぼらなところがあるのね。
てか、そもそも彼らはセラフ・リスタート計画に参加しているんだからさ、
クラウディアスに送れよって思ってたわけなんだけど――」
言われてみればその通りである、クラウディアスに送れよというか、
計画に参加している当人の意思はどこに行ったのかという感じである。
そして、ララーナがいよいよ本題を切り出した。
「で、あえてヒュウガさんを呼んだのはほかでもありません、クラフォードさんのことです」
クラフォードが? やっぱり何かあるのか、そう言うとララーナは頷いた。
確かに端末を開いてリリアリスと連絡を取るということならユーシェリアやフラウディアなど、
ほかの女性陣のスマートフォンを使うなどいくらでもやりようはあったハズなのに、
どうしてヒュウガなのか……その問いに答えることになった。
「なんだって!? クラフォードが誘惑魔法に犯されている!?」
ヒュウガは驚きながらそう言うとララーナは頷いた。
「相当な力で心を奪われています。
今はなんとか抑え込んでいますが彼の中には常に術者が潜んでおり、
油断すると私たちの誰に彼の剣が向けられてもおかしくはない状況です」
ヒュウガは頭を抱えていた。
「だが――よりにもよってそれでリリアリスを狙うとはなかなか見込みのある男だ。
目の付け所はいいと思うが――まあ、狙うべき相手としては絶対に間違っているな、
だって、それこそ”ネームレス”では最”兇”とも言われるほどの腕と思考回路の持ち主が相手だぞ?」
当然、皮肉のつもりで言ったヒュウガ。それに対してリリアリスが言う。
「何その皮肉。思考回路最”強”はいいけど最”兇”とか言わなくたっていいでしょ。
それにそうは言ってもねえ、当時は私もまったく身動きが取れなかったし、あれは流石に終わったと思ったわよ。
でも、お母様っていう救世主が現れたおかげで――」
ヒュウガは話を遮った。
「いやいや、その救世主登場も含めてあんたを狙うことが間違いだっていうことの証だろ。
別に本人が動いていなくたって別の何かが作用してあんたを守る、
これまでだって大体似たようなことがあったろ、
あんたが何を下さなくても、あんたがミスを侵しても、
絶対にあんたのこれまでの行動が巡りに巡ってあんたに対してプラスの効果として作用するんだ、
それもまさに都合のいいタイミングでだ。そうだろ?」
そう言われてみると大いに心当たりがあるリリアリス、だが、当人は腑に落ちていない。
「うふふっ、私もリリアの一部としてリリアのために行動できたのですからこんなに嬉しいことはないわね♪」
と、ララーナは嬉しそうに言った。リリアリスは「お母様まで――」とつぶやいていた。
話題は脱線気味だが、本題へと軌道修正した。
「クラフォードを犯したやつに心当たりはあるのか?」
ヒュウガはそう訊くとララーナはため息をついた。
「いいえ、まったく。
少なくとも、彼から感じる気配は明らかに私たちプリズム族のものに間違いありません。
ですが――」
プリズム族がそんなことをしようとするのか、それが疑問だった。
「確かに他人を殺すためにそれをするっていうのはプリズム族の行動としては間違っている気がするな。
それにリリアリスとかクラウディアスの偉い人を殺したくなるっていう言動――
考えられるのはやっぱりロサピアーナ軍ってことになるわけだが――」
それについて、リリアリスは考えると話を切り替えようとしていた。
「そうね、ちょっと場所を変えましょう。」
リリアリスはクラウディアスのシステム・ルームへと場所を移していた。
その際、オリエンネストが彼女をお姫様抱っこしている光景が一瞬だけ映り込んだことでヒュウガは茶化した。
「なんだ、おたくらやっぱりデキてるじゃねーか。式はいつ挙げるんだ?」
リリアリスは答えた。
「いいじゃないのよ、女の子は男の子にそうされたい年頃があるんだからね。
今はオリ君、後でシャナンパパとディア様、ヒー様もしたいんだったらさせてあげてもよくってよ♪」
やたら上機嫌だった。この女のことだから自身の重さをコントロールする魔法を使っている、
ということはつまり――まあ、魔力はある程度戻ったということで、それなりに回復したんだなとヒュウガは思い、少しは安心していた。
「それはそうと、そういえば昨日、気になるものを見つけてね――」
リリアリスはそう言い、とあるデータを見せた。
「なんだ? えっと、エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ?」
ヒュウガはそう言うとララーナが訊いた。
「これ、なんですか?」
リリアリスはまた別のデータを見せた、すると――
「ん? この形は――人型? まさか人型生物兵器の設計図!?」
ヒュウガは驚いていた。リリアリスは話した。
「ロサピアーナ軍のデータサーバにもぐりこんでみたのよ。
今のところ探れたのはこれだけだけど、ディスタード本土軍と同じでもぐりこみやすかったわ。
しかもプロキシにいくつかの国を経由しているから発信源をたどるのは難しくしてあるわよ。」
そんなことする必要あるのか? ヒュウガはそう聞くと、
「確かにこうなっている以上は正面から堂々とハックしてもいいと思うけど、
まあ、あえてよあえて。」
と、調子よさそうに言った。さらにリリアリスは続けた。
「エンプレスは女帝、フェルミシアは古の時代に恐れられた魔女のこと、
そのあたりからすると、もしかしたらこのキャロリーヌっていうのがそのプリズム族の可能性が出てくるんじゃないかなと思ってさ。」
リリアリスはさらに続けた。
「それにロサピアーナ軍のトリビュート・フラット作戦っていうのもちょっと気になっていてね。
トリビュートは貢物、何を貢ぐんだろうかって考えたときにさ、犯されたクラフォードのことを思い出してさ。
だからひょっとすると、実はそういうことなんじゃないかと思ってさ――」
捧げものとして男を捧げてっていうこと? そしたら男はそのプリズム族に心を奪われ、
彼女の忠実なる下僕として働くことに――
「だとしたら、なおのことロサピアーナ軍をこのままにしておくわけにはまいりませんね。
私たちの力を利用して世界を脅かす魔女を誕生させるなんていうこと、許しておくわけにはまいりません」
ララーナは力強くそう言うとリリアリスも言った。
「確かにそのとおりね。
まあ、それが真実かどうかはさておき、とにかくそういう可能性もあると思って注意して動く必要も出てくるっていうわけね。」
リリアリスはお茶を飲んで一息ついていた。
「ところで――プリズム族の可能性っていうところで気になったんだけどさ、シャルロンちゃんってどうなの?
話を聞いた感じだと以前とだいぶイメージが違うようね。
それでも男にモテるような感じではあったけどさ――」
ヒュウガは言った。
「まあな、男にすごい媚びをうってくる感じだ。現に俺にも食いついてきた。
面倒だったから軽くあしらったんだが――なんか不服そうだったな」
さらにララーナも言った。
「確かにプリズム族としての感じはあるようですが、
でも、彼女はちょっと違うようですね、その手の者ではないような気がします」
リリアリスは考えていた。
「うーん、そっか、私としてはあの当時はちょっと気になりはしていたけど、
実際問題、シャルロンちゃんはアレだったからね、それを踏まえると――彼女はそうかなって考えたんだけど――」
それを聞いた2人は少々驚いていた。
「えっ、そうだったのですか!? なるほど――」
「マジかよ、てかシオラさんも知ってんのか?」
リリアリスは答えた。
「知ってるわよ。むしろそれを知っての彼女のあの性格だから、それでなおのこと仲良くなったってワケよ。」
ヒュウガはフクザツだった。
「今回の件、思った以上に深いな――」