エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第5章 反勢力軍の反撃

第56節 クレイジアの情勢

 手がかりが一切ないというわけでもなくある程度の目星はつけていたララーナ、 とある町へと直行することにした。
「以前に”白薔薇のララーナ”としてあちこちにお世話になっていた折に、 クレイジアのクランドルという町に私と雰囲気が似た女性を何度か見かけたことがあるということを聞きまして、 それで気になったものですから行ってみようかと考えておりました。 ただ、具体的な場所までは――」
 ヒュウガはそう言われて考えながら端末を操作していた。
「ITってのはこんなところでも力を発揮するのか――」
 クラフォードはそう言うとヒュウガは端末を操作しながら答えた。
「もちろんこれをするにもそれなりの準備は必要だ。 電波は知っての通りマダム・ダルジャンが発信源になっている、 あれ自身もあくまで中継基地としての役割でしかないんだけどな」
 中継基地云々についてはともかく、ネットの発信源であることぐらいは前の戦いの件でもわかっていた。
 そしてヒュウガの調べでクランドルの場所が特定できた、 上陸地点から割と近いところにあることがわかったので早速向かうことにした。
「この街道沿いに歩いていけばロサプールという町がある、ロサピアーナに近い町という意味らしい。 そこでバスでも乗ればクランドルはあっという間のようだ」
 そんなことまでわかるのか!? 何人かはそう思った――エンブリアの情勢はそんなもんである。

 ロサプールの町に近づくにつれてあたりは薄暗くなってきた。
「これは雨の予兆か、この辺はこれから雨降るって言ってたがこんな早くに来るとは――」
 ヒュウガはそう言うとティレックスが聞いた。
「言ってたって誰から聞いたんだよ、まさかその端末でそんなことまでわかる……わけないか」
 ヒュウガは何食わぬ顔で言った。
「それがわかるんだよな。 クラウディアスのお天気レーダー・システムがこのあたりの天気予報までサーチしてくれる。 このあたりは雨マークになっていること確認したが予報よりも若干早かったようだな、 ロサプールまでには間に合うって思ってた俺の読みは見事にハズレたようだ」
 ハズレてもそんなことまでわかるのはすごい――そんな感想とのギャップに対して「またか」とヒュウガは頭を抱えていた。
「それよりもこの状況ではすぐに降ってもおかしくはない状況ですので早いところ町に行って雨宿りでもしましょう」
 そうララーナが促すと一行は先を急いだ。するとその道中に魔物が――
「魔物です! みなさんお気を付けを!」
 シオラが真っ先に反応すると、
「あれはドレイク、こんな時に面倒なのと出くわしますね――」
 ディスティアがそう言って注意を促した。それに対してヒュウガは頭を掻きながら言った。
「ったくうざいよな。でも、もう終わっているみたいだぞ――」
 なんとララーナがドレイクに向かって剣を振りかざして魔物を氷漬けにしていた。 そして彼女はゆっくりと戻ってくると、
「面倒なのでさっさと町に向かいましょう」
 そう言ってみんなを促した。
「さすがは”白薔薇のララーナ”っていうか”ネームレス”っていうか――」
 スレアは愕然としているとフラウディアが言った。
「それもそうだけど私はリリアお姉様を想像しちゃった」
「私もー! しれっとした感じでスマートに敵を仕留めるんだよね!」
 ユーシェリアもそういって興奮しているとフラウディアと一緒になんだか嬉しそうにしていた。 それに対し、
「確かにリリアさんいるとなんでもしれっと楽に終わらせてくれるからな。 でも今回は不在――と思いきや、それでも”ネームレス”がいるから世の中広い。 戦いもしかり情報の力もしかり。 ヒュウガやララーナさんたちがいなかったら俺たち今頃どうなっているんだろ――」
 ティレックスがそう言うとシオラが言った。
「私も”ネームレス”ですが名前が挙がっていないってことになると、私の力なんてまだまだってことですね、すみません――」
 するとティレックスが――
「いやいや、そういうつもりで言ったわけではないですよ!」
 焦って言い返した、だが――
「いえいえ本当ですよ。 第一、私ってあまり活躍していないと思います、 いつもいつもルーティスで勉強しているだけで皆さんの前でこれといって戦っていたことはほぼないハズです。 ですから今回はみなさんのためにもきちんと”ネームレス”らしいところをお見せしないといけませんね!」
 シオラは今回かなりやる気だった。するとそれについて――
「そうそう! シオラおねーさまったら素敵な精霊魔法の使い手なんだから! 私、楽しみにしているね!」
 ユーシェリアが興奮気味に言った。
「精霊魔法――なーんか嫌な予感しかしない……」
 そう言ったのはスレアだった、彼の中で精霊魔法といえばリリアリスとアリエーラというツートップがいたからである。 特にリリアリスに至っては当人の性格通りかなり滅茶苦茶な使い手であるため、そちらのイメージが強く、その点ではかなり不安だった。

 一行は適当な建物へと急ぐと空から急に雨粒が――
「間に合いましたね――」
 ララーナは空を見上げながら言うとティレックスが言った。
「なんでもいいんだけどさ、雨除けになるような技術とか魔法とかあると便利なんだが。 もちろん傘とか勘弁してくれよ、町の外で魔物に襲われでもしたらそんなの使っている場合じゃなくなるしな」
 それに対してヒュウガが言った。
「どちらも用意はあるっちゃある、技術も魔法も。 と言っても魔法は俺の用意ではないんだが技術については手持ちが人数分ないもんでな、 だからそれは勘弁してほしい」
 おい、まじかよ。どこまでだよ。 ともかく、魔法のほうはシオラかララーナの魔法で何とかなりそうということらしいが、それよりもヒュウガとしては――
「どうせここでバスに乗れば雨の心配はほぼせずに済むからな、 だからそこまで気にしなくたっていいぞ」
 そう、駆け込んだ建物は屋内式のバスのステーションだった。 町は街道沿いに発展していった小規模な街というだけあってか入口すぐにそれがあったのである。
「とりあえずあのバスに乗ればいいらしい。さて、さっさと乗るぞ」

 一行はバスに揺られながらクランドルへと赴くこととなった。 しかしそこには驚くべき光景が広がっていた。
「なんだあれ? 輸送車か!?」
 ティレックスは驚いた。 それはあからさまに軍事用に使われる乗り物で兵隊を乗せて現地に赴くための装甲輸送車だった。しかも――
「まさかロサピアーナの軍車両じゃあ――」
 と、ユーシェリアが言った、そう、まさかのロサピアーナ軍だったのだ、どうしてこんなところに――
「見てください、結構それなりに数がありますよ――」
 と、ララーナが言うと、確かに輸送車だけでなく戦車などもおいてあった。
「おいおいおい、確かにクレイジアってロサピアーナの同盟国だが町の前にこんなに堂々と縦列してあっていいものなのか!?」
 スレアが驚きながら言うとヒュウガも悩んでいた。
「それもそうなんだが問題はロサピアーナが何故ここにいるのかっていうところも気になる。 同盟国ってことは許可も得てはいるんだろうが――」
 ティレックスは言った。
「流石にクラルンベル軍事侵攻に関係したこと、ではないよな?」
 どうだろうか……ヒュウガが言った。
「確かにクラルンベルに攻めるために駐留というのは考えにくいな。 地図上ではクレイジアはクラルンベルとはほぼ国境に面している国だが、 国境越えをするにはあの山を越えないといけないからそれは考えにくいよな――」
 不安が募る中、彼らを乗せたバスはそのまま町の中へと入っていく――

 だが、町の中でも異様な光景は続いた。
「見ろよ、町の中にも兵隊がいるぞ。 普通に町の人間っぽいのもいるけれどもなんだか物々しい雰囲気だな」
 と、スレアは言った。兵隊は少数だがそれでもそれなりの数がいた。それに対し――
「なんだか落ち着かない雰囲気ですね、気になるので一旦様子を見ることといたしましょう――」
 ララーナはそう言いながら市女笠を被っていた。 確かに彼女の言うようにこの町では目立つような行動は慎んだほうがよさそうである。 そもそも自分らはクラウディアスからやってきたわけだし、よその国で問題を起こしてその目的が知れたら大変である。 特に一部メンバーは直近にクラルンベル解放をやってのけていることもあり、なおのこと慎重にいかないといけないだろう。
 でも、普通に町の人間が兵隊がいる中でも出歩いている光景があるので、もしかしたら戒厳令といったものは発令されていないのかもしれない。 とはいえ兵隊が普通に歩いている状態なので出歩く人の数も少ないが――
 そして出歩いている人の数が少ないことで言えばこちらのほうも問題になってくる。
「こんな状況でプリズム族の”お使い”というのがいるんだろうか、 プリズム族のことだからいてもおかしくはなさそうっちゃなさそうなもんだが――」
 ヒュウガはそう心配しながら言うとララーナもそれは気になっていた。