エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第5章 反勢力軍の反撃

第55節 手段

 一方でヒュウガたちはクレイジアへと向かっていた。
「何が正解だと思う?」
 ヒュウガはだしぬけに聞いた。 どういう意味かはさておき、作戦に関する内容で間違いないのは確かだがその相手はクラフォード、何も答えなかった。
「お前何かあったのか? なんか妙だぞ、残ったほうがよかったんじゃあ――」
 それには答えた。
「その心配には及ばない。 それに――俺は作戦の内容を知らないからな、何と言われても答えようがないな」
 確かにその通りだった。でも聞いていなくて大丈夫だったのだろうか、 そう思ったヒュウガは作戦の話をしようとすると――
「ヒュウガさん、少しお早めにお願いします、私らプリズム族がどういう状況なのか心配ですので――」
 ララーナが話を途中で遮り、ヒュウガを急かすように言った。 それに対してクラフォードは単に「悪かった」と言い残し、その場を去って行った。 どうしたんだろうか、ヒュウガはそう訊くがララーナは首を振ってこたえた。
「私に任せていただけますか?」
 まあ、そう言うことなら――よくわからないが、ヒュウガは彼女に任せることにした。

 去っていくクラフォードはララーナがついてきていることを確認すると、クラフォードは悪びれた様子で言った。
「悪い、ついつい話を聞こうとしてしまった、そうだもんな、俺は敵の手の内にあるんだもんな」
 それに対してララーナが心配そうに言った。
「敵の手の内にあるから私らの行動を読もうとしているのかもしれません。 はっきり申し上げますと私の手には負えないような状況ですので、なんとも難しい感じです――」
 クラフォードは悩みながら言った。
「そうだった。早い話、俺はあんたたちの敵なんだ。 だから俺は敵の情報を探ろうとしているってわけなのか。 俺があんたたちについてきているのも俺が敵だからだもんな――」
 クラウディアスに残しておくとクラフォードが暴れる可能性があった。 無論、そうなるとティルアに帰らせるのも難しい、そちらでも暴れる可能性があるからだ。 そのためララーナは仕方がなくクラフォードと同行するという措置をとったのである。
 ララーナは心配そうに言った。
「お体は大丈夫ですか? お休みになれないでしょう?」
 それに対してクラフォードが言った。
「ああ――気を抜くと心を持っていかれる感じだ。 誰かが俺にささやくんだ、俺は無性にその声の主の言う通りのことをしたくなる。 あの時だってそうだ、とにかくクラウディアスの偉いやつを殺すように言われた。 当然そうなると女王エミーリアがターゲットになるわけだが――」
 ララーナは頷いた。
「確かに、そういうことになるといつも目を光らせているリリアたちが気になりますか。 それに――エミーリアが国家元首とはいえ、 やはり、重大な決めごとを考えているのはまさに特別執行官方である彼女らのほう、 だからターゲットに向けたというわけですか――」
 クラフォードはさらに悩みながら言った。
「それもそうだが、一番の決め手は彼女らが弱っていたからだな。 殺るんだったら今しかない、こいつらを殺ればあとは至れり尽くせりだ、そう思って剣を振り下ろしたんだ――」
 しかしそこをララーナに妨げられた――
「俺は――元に戻れないのか?」
 クラフォードは辛そうに言った。
「その声の主次第ですね。 私の力をもってあなたを解放することはもちろん可能です。 ですが朝にもお話した通り、それをしてしまった場合あなたの心はバラバラになり、 二度と平常な精神を保つことができなくなる可能性があります。 それだけ相手の力は強力な力であなたを締め付けていますのでもとを断つことでしか解決策はありません――」
 クラフォードは改めて聞いてさらにがっかりしていた。 するとその近くにはスレアとフラウディアが一緒にいて楽しそうにしている光景が。
「スレア、見て見て! あの島はなーに?」
 フラウディアは楽しそうに遠くの島を指さして言うとスレアも楽しそうに言った。
「あれはトライト大陸だな。 確かヴァルジアっていう国の領土で、ヴァルジアにはお城があるハズだな」
「そうなんだ! 今度、行ってみたいなー♪」
「いいぞ、今度俺が連れてってやる」
「わー! スレアー! 嬉しい♪」
 その様子を見ながらクラフォードがララーナに言った。
「スレアの状態は違うのか?」
「彼もあなたと同じです。 見ての通り、あの2人は相思相愛の間柄ですから彼にとってはプラスの方向に作用していくことになりますね――」
 かなわんな――クラフォードはそう思いながら2人の様子をじっと見ていた。
「クラフォードさんにもお好きな方がいらっしゃればここまで心を食いつぶされることはなかったと思いますけどね――」
 俺に好きな人!? クラフォードは耳を疑った。
「なっ、何を言っているんだ!?  確かに、都合よくプリズム女でもいればよかったのかもしれないがそんなに都合よく――」
「いえいえ、誰もプリズム女に限定していませんよ、女性であれば種族は関係ありませんわ。 女の香に対抗できるのは女の香のみ、プリズム族はそれに特化した種族というだけですのでクラフォードさんにもお気に入りの女性がいらっしゃるのであれば、 その人のことを思い続けている限りそう簡単に心を飲み込まれることはありませんわ」
 そういうものなのか、なるほど――いくら誘惑魔法を行使しても相手に想い人がいれば自分みたいに重症にはならなかったのか、クラフォードはそう思った。 確かにスレアとフラウディアの2人を見ていると――あの2人はむしろ楽しそうである。
 だけど、そうなるとなおのことプリズム族というのは――
「裏を返すと本来のプリズム族はそういう能力を身に着けないといけないほど男児を獲得するのが難しいってことか。 恐ろしいというよりたくましい種族だな――」
 皮肉なことに自分自身が誘惑魔法を受けたことで彼女らの大変さを思い知ることとなったクラフォードだった。
「朝にも言ったとおりだが、もし万が一にでも俺がマジでやばいことになった場合、 その時は俺はどうなろうとかまわん。 あんたたちをむごい目にあわせるぐらいなら俺がダメになったほうがマシだ。 だから頼む――」
 それに対してララーナはため息をつきながら言った。
「本当はやりたくはないのですが、やむをえませんね――」
 クラフォードは捨て身の覚悟だった。

 ミスト・スクリーン機能を展開したままクレイジアに接近し、人の気配が一切ない岩場に向かってブリッジ・システムを展開した。
「思いっきり領海侵犯だからな、面倒を減らすためにも隠れたまま接岸せずに上陸するぞ」
 ヒュウガはそう言った。毎度おなじみの接岸せず上陸、大体100メートルはくだらないだろうその距離に向かってシステムを展開した。
 そして一行は上陸すると、ティレックスはブリッジ・システムを解除している最中の船のあるほうを見ながら愕然としていた。
「あんな遠くから、すごいな。でも、あんなところに船を置いていくのか――」
 ティレックスはそう言った。さっきシステムを展開していた位置よりも遠ざかっている気が……。それについてヒュウガは話した。
「船は置いていかない。俺たちと並走することにする」
 そういえば遠隔操作できるんだっけ、いろいろと便利な船である。
「休むところがない場合の休憩場所は船しかないからな」
 つくづく便利な船である。 するとヒュウガは周囲を見渡しながら言った。
「どこに行けばいいんだ?」
 周りは岩だらけでごつごつとした地形が広がっている。 そして南を見ると大きな山が、西を見ると平野が広がっていた。 さらに東を見ると、そっちには細い街道がありロサピアーナ領へと通じる関所があるのだという。
 でも、それだけでは目的地はわからなかった。それについてはララーナが話す。
「プリズム族ですので森にいることはほぼ間違いないと思います。 とはいえ、森の中をやみくもに探すわけにはいきませんのでまずは街を探してそれらしい情報を得ることにしましょう」
 ヒュウガは頷いた。
「ルシルメアみたいに”お使い”がいる可能性もあるからな。 森と町が近くにある場所というのがひとつの決め手となるわけか」