しかしオリエンネストはリリアリスを何とか抱えていったものの、
システム・ルームのある3階から上の階へ上ることができないでいた。
階段の前、オリエンネストは階段に腰を掛けるとリリアリスを床に寝かせまいとして、
自分の身体の上に彼女の上半身を乗せた。
「ごめん、農業大臣させてもらっていながら軟弱でさ――」
それに対してリリアリスはにこにこしながら言った。
「ううん、そんなことないよ、こうしてオリ君の胸を借りて横になっているのもいいかな、なんて思ったりしてさ。
私も魔力が有り余っていればオリ君への負担も軽くできたハズなんだけど、私のほうこそごめんね――」
そう言われたオリエンネストはドキドキしていた、リリアさんは悪くない、リリアさんは悪くない――
「でも嬉しいな、私のことが憧れの女性だなんて言ってくれる男の子がいてくれるなんてさ――」
リリアリスはそう言うとオリエンネストはさらにドキッとしていた。
「えっ!? えええええっ!?」
オリエンネストは焦っていた。それに対してリリアリスは楽しそうに話した。
「クラネシアから聞いたわよ。
私ってオリ君の夢に現れるオリ君の憧れの女の子なんですってね!」
なっ、クラネシアのやつ!?
「り、リリアさん――えっと、それは、えっと……」
オリエンネストはもはやしどろもどろだった。それに対してリリアリス――
「まったくオリ君ってば、残るのなら僕が適任とか適当な理由をつけといて、
本当は私と一緒に居たいだけなんじゃないかな♪」
と、楽しそうに言うリリアリスだが、それに対してオリエンネストはあからさまに挙動不審な状態だった――ウソ、図星かよ……リリアリスは愕然としていた。
そんなオリエンネストの様子にリリアリスは落ち着きつつ話を続けた。
「ま、まあ――でもそうね、私たち”ネームレス”って記憶がないからね。
と言ってもこういう問題って記憶がないというだけで片付けられるのだろうかって気もするけど――
だけど私も実はさ、とてもびっくりするような夢を何度も見たことがあるんだよ。
あれって確かオリ君と出会う日の前ぐらいのことだったかな――」
リリアリスは物思いに老けながら話した。
「私っていっつもお転婆でさ、男の子も泣かせるような結構滅茶苦茶な女の子だったんだよ。
記憶がないなりにもそういう子だったことは覚えているけどやっぱり夢と現実ってリンクしているよね、それは思ったんだけどさ――
でも、そんな私に対して好きだって告白してくる男の子がいたんだよね――」
その時のリリアリスの表情は嬉しそうだった。
「と言っても私なんか男には全然興味ないし、
私にそんなことをしてくれる男なんているわけがないと思っているからさ、
だから相手の男の子に怒鳴りつけて、そのまま逃げちゃったんだよね――」
あれ――なんだろう、そう言われると――どういうわけかオリエンネストにも心当たりがあった。
「今思うとなんで私は逃げちゃったんだろうって思ってる。
だけど逃げた私は誰かに言われてその子のことを考えてあげたらどうかなって言われた。
言ったのは多分アリかな、話し方がアリそっくりだったからね。
で、そのアリに言われてその男の子とはお試しで付き合ってみることにしたっていう話なんだよ。」
そしてリリアリスはまた嬉しそうに言った。
「その夢を見て思い出したことが一つあってね、確かあれがあったから今の私がいるんだと思ったんだよ。
あの男の子が告白してくれなかったら私は多分ただ性別が女というだけの男勝りの私だったハズ。
今でもそのきらいはあるのは自覚しているけど、でもあの子が私に告白してくれたから、
私も女の子なんだって思えるようになったんだっけ――って今では思ってるかな。」
その話を訊いてオリエンネストはなおもドキドキしていた。
「で、私に告白してくれた男の子なんだけどさ――
いつもいつも私のことを気にかけてくれるような可愛らしい男の子でさ、
ちょっと頼りないけど――でも私のことをいつでも想ってくれている子だったんだよね――」
頼りない男の子――オリエンネストは自分が言われているようでがっかりしていた。
とはいえ、それはリリアリスとしてはマイナスに受け止めている要素ではない。
「頼りないというよりは控えめっていうのかな、私がやろうとすることにはなんでも賛成してくれるんだよね。
いつも私のことを手伝ってくれるし、そしていざって時には頼りになってくれるんだよ。
それで私は思ったんだっけ、ああ、私はこういう人と一緒になるのかなってさ――」
そう言われてオリエンネストは顔が真っ赤になっていた。
「みんなが言うんだよね、リリアリスって女の人だけど、女の中では性別は男カテゴリの人間だよねって。
ティレックス君も言ってたし、クラフォード君もディア様にも言われたわね。
でも、言われてみればそうかもね、女の子には人気あるし、
最近は一部の男の子からは踏まれてみたい女ってお前らドMかよっていう……」
リリアリスは笑いながらそう言っていた。
「まあ、とにかくこんなに自由にいろいろとやっている女なんだからさ、
一緒になる人を考えた場合、相手が立つよりも私を立たせてくれる人のほうがいいかなーってさ……」
するとリリアリスはその場でじっと見上げ、オリエンネストの目を見つめながら言った。
オリエンネストはずっとドキドキしたままだった。
「オリ君の実際の憧れの女性はもしかしたら別にいるかもしれないし、
私に告白してくれた勇敢だけどちょっと頼りなさそうな男の子もオリ君とは別にいるかもしれない。
でも、それでも良ければ今後も仲良くしてくれるかな?」
こっ、今後もって――オリエンネストはドキドキが止まらなかった、
どうしよう――オリエンネストにとってはまさにストライク・ゾーンのど真ん中にいる目の前の美女相手にどうリアクションすべきなのか迷っていた。
そう、相手はストライク・ゾーンのど真ん中どころか夢の中に出てくる天使そのもの、
それはそれはもうこの上ないほどの嬉しさが込みあげてくると同時にそれほどの憧れの女性がそう言ってくれる事もあり、
逆にどうしていいかわからない状況になっていた。
しかしそこは流石はリリアリス、彼の状況を察して言った。
「オリ君って4階の部屋だっけ?」
それは――オリエンネストはおどおどしていた。