エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第4章 ネームレスの反撃

第43節 警告

 ブナイストに集まったのは無線通信が可能だからというだけのことではない。 この町は次の敵の拠点を抑えるために都合のいい街だからである。
 次に抑えるのはマルポイル、ブナイストから結構近い町である。 ロサピアーナ軍が占拠した大規模な拠点がある街で次のターゲットでもあるためこの町を待ち合わせ場所にしたのである。
 さすがは多くの敵をなぎ倒してきた猛者たちだらけということもあって作戦は現地集合というなかなか乱暴な感じだが、 それでもついていける者が多いあたり、やはり猛者だらけであることの裏付けと言える。

 その日の早朝、ブナイストを早々に発つとマルポイルへと出撃した。 そして敵が表れるや否や、真正面から敵を叩き潰していっているクラウディアスの援軍たち、 ロサピアーナ軍をどんどんと後退させていった。
 そして時間は昼過ぎを回っていた。
「なんかあっさりだな。すべては”ネームレス”のおかげってか?」
 ガルヴィスはそう自分を皮肉るとクラフォードは息を切らしながら言った。
「ったく、お前戦い方がどっかの誰かさんに似てるな――」
 それに対し――
「あんな無茶苦茶な戦い方するやつほかにいるわけねーだろ」
 と、誰かが言った。その誰かとはあのイールアーズである。だが――
「いや、だからアンタのことを言ってるのよ」
 フロレンティーナは端っこでぼそっとそう呟いていた。

 なかなかあっさりと解放していったクラウディアス軍、いや、表向きはあくまでクラルンベル軍である。 それにしてもあっさりと押し返せたあたり、向こうも不審に思っているのではなかろうか?
「ロケットミサイルは?」
 クラフォードはそう聞くとフロレンティーナが答えた。
「発射された形跡なしね。 ルシルメアからもケンダルスからも特にそういう連絡は来ていないし。 ヘルメイズ軍からも特にそういったことはないって聞いているわ――」
 じゃあこれでとにかく連中の軍事侵攻は収まるのだろうか、 現状ロサピアーナ軍の残党を始末している状況でなんとかクラルンベルから追い出せそうなところまでやってきた、 クラウディアス軍の役目はここまでなのだがあまりにあっさりとしすぎていたためなんだか腑に落ちない。 ”ネームレス”の活躍の賜物だから? 本当にこれでいいのだろうか?  とりあえず残党退治に付き合いつつクラルンベルでの作戦を終えようとしていた。

 とにかくデュロンド軍とティルア軍をはじめとする援軍がクラルンベルの各拠点を防衛しつつこの場を引き上げようとリリアリスたちは考えていた。
「ロケットミサイルが飛んでいないということでなによりだ。 それにロサピアーナ軍も今はおとなしい。 一部国境付近でまだちょっと収拾がつかない状態が続いているが、 とにかくロサピアーナ軍をクラルンベルから追い出せたわけだから良しとしなくては」
 再び首都キーラ、大統領官邸にてザルードはそう言い、リリアリスとまた握手を交わしていた。
「いいのよ、いつでも言ってよ、その際はすぐに駆け付けてくるからね。 今はセラフ・リスタート計画っていうのを手探りでやっている最中だから都合よく来るというわけにはいかないかもしれないけれども、 戦争犯罪者の国に脅かされているとあらば喜んで助けに来るわ。」
 ザルードは悩みながら言った。
「それはありがたいんだが――それよりも私が関わることではないにせよ、ロケットミサイルの脅威は心配ではないのか?  流石にミサイル・ガードだけで防ぎきれるものではないだろう? 防御策を練ったところで完全に防げるものではないだろうし――」
 リリアリスも悩みながら言った。
「確かにそのあたりが悩みどころね。 でも、だからと言って助けてって言われて助けないっていうのはなんか違う気がするからね、 だからそうなったらそうなったでまたクラウディアス連合軍内で考えるよ。 大丈夫、みんなクラルンベルの味方だからきっと助けに来るわよ。」
 今後の復興支援策なども含めて話をし、その場はなんとも和やかなムードで場を収めようとしていた。

 ところが――
「リリア! 大変よ、これを見て!」
 フロレンティーナが慌てた様子でそう言うと端末を操作していたウィーニアがその部屋の大画面のモニタに端末を接続、驚きの光景が!
「……繰り返す、全世界に告げる。 我らはクラルンベルで虐げられている同胞の解放のために戦った。 我々の邪魔をする者はその身をもって償うことになる、これは警告だ。 これより我々の行動が即ち正しいことを証明しよう――」
 一体これは!? するとティルアにいるアローナからの連絡が。今度は彼女がモニタに映っている。
「見た?」
「見ましたけど一体これは!?」
 アリエーラが訊くとアローナは――
「ロサピアーナからデュロンドの各テレビ局に直接話をして放送しろって言ってきたみたいなのよ。 ディグラットのことがあるからデュロンドはクラルンベル情勢には注目しているし、 それで各局速報でこれを流すことにしたみたいなんだけど――」
 しかし、警告って何をするつもりなのだろうか、そう思っていたのもつかの間――
「大変だ! ルシルメアの北の海を見てくれ!」
 今度はアトラストがモニタの向こうに現れて参加してきた!
「ルシルメアですって!? 一体何が!?」
 アリエーラはそう言うとアトラストは、
「いいからまずはルシルメアの防衛システムを確認してくれ! 話はそれからだ!」
 と、焦りながら言った。 それにフロレンティーナが反応しルシルメアの防衛システムにアクセスを試みると、 すでに閲覧許可が下りているらしくその光景を見ることになった、すると――
「ルシルメアの北の海? この船は一体!?」
 ルシルメアにあるアンテナが傍受しているルシルメアの北の海の光景、 そこにはとある船が――
「これはまさかロサピアーナの軍艦?」
 アトラストはさらに言った。
「船よりもその上に載っているやつを見てくれ!」
 上に載っているやつ!? それには見覚えが――
「まさかこれは例の大型破壊兵器では!?」
 ザルードは気が付いてそう言うと、その場にいたものはみんな驚いていた。
「なっ!? 確かにこれ、ディグラット東部にエダルニアが設置していた要塞に似ているやつだな!」
 クラフォードはそう言うとリリアリスは不安気に言った。
「どこに向かっているというのかしら、まさかルシルメアなんてことは――」
 それに対してウィーニアが端末を操作しながら言った。
「それはないと思います。 以前に奪取した設計図から割り出される射程を考えると、 ルシルメアを攻撃するつもりなら既に攻撃していてもおかしくはありません……」
 それに既にルシルメアを通り過ぎようとしている、ターゲットとしては怪しい所だ。 そしてケンダルスは東側なので、既に西側に進路をとっている場合はそちらもターゲットとして外されると思われる。 ということはさらに西――
 するとリリアリスは言った。
「さっき見せてくれたロサピアーナの声明、あれって収録動画?」
 そう言われるとウィーニアはそれをもう一度開いて見せた。
「いえ、これは録画ではなくライブ映像ですね……」
 ということはつまり現在進行形で見せている映像ということだ。 ルシルメアの北の海の動画は左側に陸地がうっすらと見えている、ということはそれはルシルメア大陸である。 進路はそのまままっすぐ進んでいるようだが――
 するとリリアリスは考えながら言った。
「ルシルメアの北で西へと真っすぐ進んでいる船、そしてそれをデュロンドに向けてテレビ中継したってことはつまり――」
 そう言うとリリアリスはさっさと建物の窓から飛び降りて行ってしまった!
「えっ、ちょっと!」
 クラフォードは慌ててそう言ったが後の祭り。
「まったくリリアさんってば!」
「ったく1人で行くなんて! ちょっと待ちなさいよ!」
「そうよ! 無茶するなってあれほど言ってるでしょ!」
 と、彼女に続き、アリエーラ、フィリス、そしてフロレンティーナの3人もそれに続いて行った。 そこへ入れ違いに外から慌ててやってきたヒュウガがやってきて言った。 彼はクラルンベルの通信アンテナを直すために現場監督をしていたところだった。
「俺もあの映像見たぞ。 それで女4人衆が飛び出してきたが、つまりはそう言うことだな……」
 それに対してクラフォードが言った。
「しばらくはティルア軍はデュロンド軍とここに滞在するつもりだから俺たちは動けない。 だからリリアリスのことを頼んでもいいか?」
 ヒュウガは訊き返した。
「リリアリス? デュロンドじゃないのか?」
 クラフォードは首を振った。
「あの人のことだからな、デュロンドを何が何でも守り切るつもりなんだろ。 あれだけの兵器だ、むしろそっちのほうが心配だ。だから――頼めるか?」
 国一つを自らの命で守るつもり――クラフォードはそれはそれで違う気がすると思ったわけだ。 確かにそれはそれで英雄譚だが、だからと言って――