官邸内に入って軍のお偉いさん、総司令であるザルードとリリアリスは早速握手していた。
「軍本部でなくてあくまで官邸に呼んでいただいて。」
リリアリスはそう言うとザルードが答えた。
「クラウディアスのお偉い特別執行官の方、しかも美人の方にわざわざ来ていただけるとは。
無論、あのディスタード本土軍を撃退しエダルニウスまで解体に追い込んだ方々であることは伺っております。
お偉方が直接武器を持って現地に赴くというスタンスとはなかなかのものですね――」
リリアリスは得意げに答えた。
「元々は一介の旅人ですがいろいろと縁あってこの座に落ち着いているのよ。
ああ、それから美人だなんて言われると嬉しいわね。」
ザルードは言った。
「お噂はかねがね。そんな成りをして相当の使い手だとか。
歴戦の戦士たちをも降し、それでいてなおその美しいお顔を維持している様、
そして、あなたの背後にいる戦士たち――まさにあなたの人となりがどのようなものなのかを表しているようですな」
えっ、マジで? リリアリスはそう反応するとザルードは頷いた。
「自分正直に生きている方だと思いますね。
それに――失礼かもしれませんが、変わった価値観をお持ちの方で変わった性格の持ち主だと思います――」
言われてしまったリリアリス、周囲の男どもは大いに頷いていた。
「確かに間違いないわね。
軍事作戦で自分の身を顧みずに直接敵に殴り込もうという女、どうかしているわよね。」
リリアリスは得意げにそう言うとザルードは首を振った。
「いえいえ、それだけ責任感の強い方だと思います。
ただ能力の強いというだけの戦士であればいくらでもいますがあなたほどの方は私の知っている中でもそんなにはいません。
クラウディアス連合軍の声明にもあった”ネームレス”という存在についてももちろん伺っておりますが、
あなたの真の強さは責任感からきているものなのだろうと私は考えています」
実際には”ネームレス”というものをあまり知らないだけだとザルードは笑いながら付け加えていた。
確かに普通なら常識外れた強さは実感しないことにはわからないかもしれない。
話の後、実際の現場へとそれぞれ向かったそれぞれの戦士たち。
リリアリスはとある場所を解放すべく、その場所に単身赴いていた。
「行けって言われたら行くけど――結構無茶苦茶な要求よね。
まあ、私だからオーダーしてんのか。
ホント、”ネームレス”ってマジで何者なのよ――」
リリアリスはそう思いながら車をぶっ飛ばしていた。
見つからないようミスト・スクリーンを利用して移動していた。
無論、この魔法は乗り物ごと隠れるのは難しいハズだがほぼノンストップで移動しているのと単身での移動、
リリアリスなので見つかったところで敵を倒せる自信があるのとでほぼ気にしていなかった。
「さてと、あとちょっとでケルベイナ発電所が見えてくるころね。でもその前に――」
リリアリスはそう思いつつ急にブレーキをかけると、突然進行方向を変えて違う道にそれた。
すると――
「ったく、危ないわね。マジで砲撃してくるなんて頭おかしいのかしら?」
あのスピードのまま走行していたら間違いなく敵が放ってきた戦車砲の餌食となっていたようだ。
それが示すように着弾地点は大きく陥没していた。
「殺る気満々みたいね、そういうことならこっちだって容赦しないわよ!」
リリアリスは急ブレーキをかけるとそのまま車から大空へとダイブ! 発電所の中へと直接侵入した!
「なっ、何だ貴様は! どこから入った!」
敵は次々とリリアリスに射撃を繰り返してきたが、すべて彼女の目の前で無効化されていた。
「どこからってちゃんと見てたでしょあんた、上よ上。」
こういう場所だから当然バリケードのようなもので閉ざされているものだが、
彼女の脚力を前にしてそんなものは意味をなさない。
そしてさらに魔法による攻撃も飛んできたが、
「いっただきまーす♪」
当たり前のように思いっきり吸収すると敵に返した。そして――
「あれが化学兵器!?」
その銃口はリリアリスのほうを向いていた。
銃口から放たれたものは毒気弾だった!
「しまった!」
リリアリスはその場でうずくまるとガスマスクを装備した敵によって包囲されてしまった!
「なんだこいつは!? 女か!? どこから入った!?」
「わかりません。とにかく連行して素性を確認しましょう。
見たところ一般人のようですが、あの戦闘能力、ただ者ではないようです――」
「そうだな、連れていけ!」
ところが――
「ふふっ、ただ者じゃないことがわかってくれたのなら言うことないわね。
ということでさっそくお返しよ!」
と、目の前の女から声が! 焦ったロサピアーナの兵隊たちは銃口を彼女に向けるが――
「遅い遅い遅い!」
リリアリスはその場で”兵器”を振りかざし、かまいたちのごとく毒気をまとったつむじ風を発生!
敵はガスマスクを次々と切り刻まれると敵も毒気を吸い込み、次々とその場で倒れていった!
「ったく、やってくれんじゃないのよ、頭と目が痛くてたまらんわ。
ま、データは取れたわけだし、敵にも同じ目にあってもらったことだし、よしとしとこっか。」
わざと毒を被るとは恐ろしい女である――。
「早い所血清作ってしまいましょ、痛いしつらいし。」
リリアリスはそう考えながら適当なところに身を隠し、何かしらの作業を始めていた。
「ついでだからあんたの血ももらうわよ。」
リリアリスは倒れている男のうち、イケメ……いや、適当な兵士を選んで拘束、
彼の血を奪って作業を続けていた。