話は続いた。
「フフッ、それにしても国一つをようやく手に入れたというのにこんなことになってしまっただなんて、何とも皮肉な話よねぇ――」
女はそう言うと偉そうなのが反応した。
「ん? 国一つだと? バカな――何を言うか、手に入れたのはこの大陸だ!」
「フフフッ、そんな些細な違いどうでもいいじゃないの。どうせこの私のものになるのだからね――」
女は得意げに言うが偉そうなのは笑っていた。その様子に女は少々真剣な顔つきになった。
「フハハハハハハ! まさか我々が本当にあのアガレウスだと思っての犯行だと思うたのか!? 愚かな女よ!」
それはどういうことか、今、彼女の身に起きていることがまさにそれを物語っていた、
なんと、周囲にはたくさんの兵隊たちが!
「この建物の兵隊たちはいつの間にかやられていたようだが我が軍の兵力はこの程度ではなくてな!」
その数、よくわからないがざっと100はいそうである。
アガレウス兵についてはこれまでの話通り、仕方なくついてきた感じのものが多く、
また、ほとんどはガルヴィスが処理してしまっていることもあり、ここまで統率の取れた兵が100も集中してやってくるとは考えにくいが――
「確かにアガレウスとは名乗ったが我々はイングスティアだ!」
なんだって!? すると、例のブツが……槍が到着した、つまりは――
「フハハハハ! バカな女だ! どうやらこちらが本物のようだな! さあ貴様は袋のネズミだ! 始末してやろう!」
だがしかし――
「そう、すべてはでっち上げ。
アガレウスがやったということ自体がまず考えられることではない。
それ自身はもちろん考えておりますよ、ね、姉さま★」
と、そこにいたのはまさかのルルーナだった。
彼女は建物から出てくると、兵隊たちのいる場所を回り込むようにして女の元へと向かった。そして――
「ウフフッ、そう思いまして、準備はすべて整えてありますわ。
ですから――そうと決まればあとはこいつらを始末してその槍を奪えばいいだけ――」
すると、ルルーナの服装もいきなり露出度が高くなった。
トップスはキャミソールみたいな服装へと変化し、ボトムスはかわいらしい短いスカート姿に、
そして、隣の”姉さま”よろしく、大胆わがままボディのその女は邪悪なオーラを引き出し、その身にまとったのである。
服装の色合いは”姉さま”とは対照的に白基調だが、邪悪なオーラをまとうことで灰色のような感じになった。
「なっ、なんだと貴様! 準備だと!?」
偉そうなのがそう言うとルルーナは邪悪な笑みを浮かべながら答えた。
「ええ、簡単なことよ、ちょうどクラウディアス連合軍のお偉いさんがいたもんだからイングスティアに攻めるチャンスだって伝えてあげたわ。
だって、今は私らの相手をしているせいで守りが手薄になっているじゃない?
だからそう伝えただけ――ウフフフフッ、これでこの国もおしまいね! アハハハハハハ! アーッハハハハハハハ!」
その様を見て、姉さまのほうは感心していた。
「ウフフフフッ、流石は私の可愛い妹、抜かりはないわねぇ。
聞くところによると、クラウディアス連合軍の中核であるクラウディアスの特別執行官というのは相当の手練れらしいわねぇ。
なら話は簡単ね、私たちはその槍を奪ってとっとと逃げるだけ、
つまりクラウディアスの相手はあんたたちがすることになるわけね、ウフフフフフフッ……」
すると、偉そうなのが少々悔しそうな面持ちで言った。
「ふん! だから何だというのだ! いずれにせよ、貴様らは籠の鳥であることに変わりはない!
さて、どうやらこちらもそろったようだ、貴様の力が強いことは認めてやってもいいが、この数相手にどれだけやれるのか、試してやろうぞ!
そうとも、我々にはこれがあるのだ! さあ”ブリーズチャート”よ! その力を示せ!」
周りにはいつのまにか200近い兵隊たちが魔女の姉妹を囲っていた!
そして、偉そうなのは槍を天高く掲げた! だが――
「ん? なんだ? どうなっている!? ”ブリーズチャート”よ! その力を示せ!」
しかし反応がない、どういうことか? それは3階を確認すればわかる。
シエーナは3階の窓から下のほうに向かって魔法を発動していた。
「役者がいるということは裏方がいるということを忘れてほしくないですね♪」
シエーナはノリノリだった。
「魔法無効空間か、”ブリーズチャート”から発せられる魔法のシグナルを押さえつけることで発動を押さえつける、と。
でも、そんなことする意味あるのか? いずれにしろ、荒れるだろう?」
そう言うクラフォードに対してシエーナは答えた。
「確かに荒れますが、魔女様たちがご使用なさる分に関しては自らコントロールしてらっしゃいますからその点は安心です。
”ブリーズチャート”のほうについてはおそらくコントロールされません、あの力を全力で開放するとなればそうに決まっています。
ちなみに、魔女様たちの使う魔法系は例によって”フェドライナ・ソーサー”ですが、この空間では”フェドライナ・ソーサー”の使用については制限しておりません。
まあ、したところであの2人の魔力は高いので制限こそかかっても使えることは使えますが――」
クラフォードは訊いた。
「例の”兵器”を振り回すってつもりでそう言ったんだが、まさかの魔法かよ」
シエーナはにっこりしながら答えた。
「当然です、あの数ですからそちらのほうが効率が良いです。
ちなみに言うと、この魔法無効空間ではそもそも”フェドライナ・ソーサー”を抑制することができないので、
”制限していない”のではなく”制限できない”というのが正解ですね。
さてと、敵もずいぶんと集中しましたし、槍も上手くおびき出せたようですのでそろそろ合図をあげましょう、代わりにあげてもらえますか?」
するとクラフォードは呆れつつも、前に出て窓越しに言った。
「はいよ、そんぐらいならお安い御用だ。さて、どうなることやら」
クラフォードは左手を出すと炎魔法を発射し、上空に打ち上げた!