ルルーナとクラフォードはそのまま敵を突っ切り、とある場所へとやってきた。
「監視部屋か、守衛が1人とはこれまた滑稽だな」
監視部屋の中にいた者は既にクラフォードらに片付けられていた。
「人手が足りていないのだから仕方がありません。
話では中枢部の人間はほんの一握り、この人がどうかはわかりませんが、
それよりも傭兵はいないのでしょうか?」
クラフォードは考えた。
「雇われはいなさそうだな、俺の感覚では。
いたら多分面倒だ、そもそも”迷子の子をめでるお兄ちゃん”のハズはないし……子守をする契約だったら別だが。
それに連中は報酬次第で子守以外だったらどんな仕事でもするきらいがあるが、アガレウス軍にそこまでの予算があるとは到底思えないってことだ。
”ブリーズチャート”が出てくるまで世界の片隅でくすぶっていたわけだし、敵の戦力はまず間違いなく”ブリーズチャート”ありきとみて間違いないだろう」
するとルルーナは考えていた。
「なるほど、敵は人も資源もリソースが限られていて”ブリーズチャート”を手にしたとたんに暴挙に及んだ、行き当たりばったりの犯行である可能性が濃厚と。
そして人はともかく資源を狙って大昔で言うところのプライマリー・ステートの1つであるイングスティアに侵攻して世界強国の1つに数えられるように頑張ってみた、と――ふむふむ。
ということはつまり――」
リリアリスとカスミは最下層にたどり着いた。
最下層の直前も例によって最後のカギによる解錠が必要だった。
最下層は何もない広くて暗いだけの空間が広がっていた。
土っぽいにおいがしており、地下坑道であることを思わせる。
「何もない――」
カスミは周りを見渡すとリリアリスは考えながら言った。
「通ってきた感じだと議事堂から”シークレット・ルーム”の入り口の所在は突き止められなかったから別に穴を掘って出入りしているというところみたいね。
まあ、そもそも入り口が議事堂の3階の外側にあるとか普通は考えないだろうし、
私としてもemilyだったらともかく、坑道の入り口だったらそんなところには絶対に作らないからそれもそうかって感じかしらね。」
するとカスミは一点を見つめて言った。
「あっちから光漏れ出てる。出入口近い」
リリアリスは頷いた。
「行きましょ。」
2人は光のほうへと行くと、そこには出口があった。
出口は金属の扉で封鎖されていたようだったが、何者かが内部からものすごい力で破った跡があった。
「すごい力――」
リリアリスは破った跡を丹念に確かめていた。
「坑道の存在自体はシークレット、鉄の扉で関係者以外立ち入り禁止としていたってところか。
以前はキラルディアが今の場所に逃げ込む際にこのラインが使われ、イングスティアから密かに自分たちの資源を持ち去っていたけど、
このラインがイングスティアに見つかってしまい、関係が悪化。もともとキラルディアのものだったのにそれは盗人猛々しい話よね。
とはいえ、キラルディアの資源力は随一でイングスティアもすぐにはキラルディアを攻め込むことはできなかった。
でも、いずれは攻め込んでくることは考えたキラルディアは折衷案を切り出した、
和解とはいかないまでも停戦の条件としてイングスティアに秘密の坑道の存在を教えることで難を逃れようと考えた。
それを皮切りにイングスティアはプライマリー・ステートとして台頭することになり、キラルディアとの条約を破って改めて進出を試みたが、
秘密の坑道の資源力だけではキラルディアの地の利には勝てないと踏んでいた当時のキラルディア大総統ってのは大した腕の持ち主だったみたいね。」
そして、イングスティアは今の停戦の状況でしぶしぶ条件を呑まざるを得ず、現在に至るということだった。
「それはそうと、これを破ったのは間違いなくフィリスね。
扉の劣化具合で言えば割と最近設置されたばかりの扉で見た目通り頑丈だと思うんだけど、
こんなにあっさりとやれるのは重機でも大変、カスミんの魔法のカギでもやれないこともないけれども、
それぐらいのパワーでもないとまず難しいわね。」
リリアリスがそう言うとカスミは追うかどうか聞いた。
「とにかく状況はわかったわ、キラルディアが言っていた古い情報は間違いないみたいね。
早いところここから出ましょう。」
坑道から2人は出ると、そこには――
「あら、向かいにも穴があるわね、まさか秘密の坑道?」
リリアリスはそう言うと、穴の中を覗いていた。
同じように、入り口には鉄の扉がついているが扉は空いていた。
そちらの扉の劣化具合は激しく、さび付いていた。するとリリアリスは――
「そうね、この中にフィリスがいるのは確実みたいね。
でも、肝心の”ブリーズチャート”が見つからないから、やっぱりここは私自ら事を起こすしかないわね。
さて、吉と出るか凶と出るか――」
すると、カスミは頷いて言った。
「私、フィリスお姉ちゃんと合流する。リリアお姉ちゃん、騒ぎを起こす」
リリアリスも頷いた。
「ええ、お願いね。それじゃ、あとで落ち合いましょ。」
2人は分かれるとカスミは坑道の中へ、リリアリスは国会議事堂のほうへと向かっていった。
そして――
「うーん、確かにこのまま探し回っていても”ブリーズチャート”は見つかりっこなさそうですねぇ。
まあいいです、見つからなければ見つからないでこのままリリアさんの言う通りにことを運びましょう――」
シエーナは議事堂の3階部分の窓から空を眺めながらそう言った。すると――
「おや、なんだか下のほうが騒がしいですね、ガルヴィスさんが暴れているというだけではなさそうです」
シエーナは窓を見下ろすと、そこには魔性の気配をまとった女が正門から堂々と近づいてきているではないか――
「なんと、そう来ましたか、これは穏やかではないですね……」
シエーナは愕然としていた。しかも――
「あの人が持っている槍は……」
槍と言えば今回探している”ブリーズチャート”も槍、つまりは――
「ウフフフフフフッ……、この世界は私のもの、
私が真の王者として君臨する日も近いわねぇ……ウフフフフフフッ……」
まさか、あの女が持っている槍が”ブリーズチャート”!?
女は議事堂の前までやってきた。
その女は長い金髪に豊満なバストが形成する深い谷間と悩まし気でセクシーなくびれ、
2本の綺麗な美脚が望める短いスカートで構成されている黒のセクシーなドレスを着こなし、
黒の羽衣のようなアウターで身をまとめ、その姿は都合よく天空から降り注ぐ一筋の光に照らされて神々しく映えていた。
「ななっ!? なんだ貴様は!」
正門に構えていた守衛たちは剣を構え、女にそう激しく言った。
しかし、その様子は明らかに狼狽えていた。
「ウフフッ、なんだですって?
ずいぶんと野暮ったい質問してくるじゃないのよ? 見ればわかるでしょう?
私はこの世界の女神様、お前たち男を楽園に導く最高の存在なのよぉん? うっふぅーん♥」
すると女は身体から妖気を発すると男たちを包み込んだ! また誘惑魔法のパターンか! すると――
「うぅっ……女神様……」
男たちはなんといきなりその場で崩れ落ちた……あれ、男たちを意のままに操ってとかそういう展開ではないのか?
「フフッ、お前たち雑兵の醜男などに用事はないわ、その場で好きなだけおねんねしていなさいな。
私がほしいのはイケメンで素敵な男だけ♪
そう――噂に聞くあの万人斬りか蒼眼クラスの色男だったら相手にしてあげてもいいわよぉん♪」
なんて理想の高い女なんだ、よりにもよって……。