エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第1部 果てしなき旅への軌跡 第3章 過去の清算

第53節 敵の勢力、名優の妙技

 そして、いよいよ動き出す。
 一行は主要部にあるとある建物の前までやってきた、イングスティアの国会議事堂だ。
「アガレウス軍もガバガバだな、案外敵の侵入を許している節があるな」
 ガルヴィスが言うとクラフォードが言った。
「アガレウス軍の規模はそこまで大きくないはずだ。 前にも言ったが、元々はウォンター帝国の一部分隊から独立を図った連中がエダルニア軍を名乗りそこからさらに分裂している連中だから、 数の規模で言えば推して知るべしってところだな」
 ティレックスは頷いた。
「キラルディア軍の概算が出てたな、確か、アガレウス全体でおよそ120,000弱だそうだ」
 そう言われてリリアリスは考えた。
「それでも120,000近くの勢力がアガレウスのトップについていったってワケね。 それについては情報ある?」
 リリアリスはそう訊くとクラフォードは頷いた。
「とりあえず、バフィンスからもらっている。 アガレウス軍として分裂した隊はウォンター帝国の中でも特に問題児として有名だったグラストロ=アガレウスってやつが率いていた。 そいつは既に死んでいるが、そもそもエダルニアと分裂することになったきっかけってのがグラストロの死亡なんだそうだ。 アガレウス派としてはエダルニア派の連中が仕組んだことだとして逆恨みしていたようだが真相はわかっていない。 ともかく、それによってエダルニアで内部紛争が起こったワケだがアガレウス派は結局エダルニア派との戦いにも敗れ、 世界の隅っこでくすぶることになったんじゃないかってことらしい」
 いずれにせよ、そのグラストロってやつがカギなのか、リリアリスは訊いた。
「グラストロは一応英雄ではあるな。 巷では”降魔剣のグラストロ”っていう名前がついているらしく、結構な使い手だったそうだ。 だが、問題児と言われる理由については政治に関してはとにかくポンコツという点につきるな。 どのぐらいポンコツなのかというと、早い話が傀儡政権――つまりはグラストロをうまい具合に利用していた影のブレーンってのがいたらしいな。 要は好き放題やれる連中からすると、エダルニア派なんていうのは目の上のたん瘤でしかないってわけだ、 それが分裂の要因ってところだろう」
 その当時の影のブレーンもグラストロと同時期に死亡しているという。 そのためなおさらエダルニア派の謀略である可能性が高いということらしい。
「でも、結局そのグラストロについていった連中の暴走で今のような状態になっていることは否めないわね。 だから申し訳ないけど、連中にはきっついお仕置きが必要ってワケね。」
 リリアリスが言うとクラフォードは頷いた。
「まあ、好きなだけ料理してくれ。ただ、問題は”ブリーズチャート”だな……」

 カスミはトボトボとイングスティアの国会議事堂の前までやってきた。
「おっと、待ちなさい! そこのガキ……いや、お嬢ちゃん! こんなところで何してんだ……何してるのかな!?」
 と、建物の門の前で2人の兵隊に遮られていた、アガレウス軍の兵隊だろう。
「私……おうちに帰りたいの、お姉ちゃんは何処……?」
 カスミは目に涙を浮かべながらそう訴えていた――やるな、この娘も……。
「お姉ちゃんと一緒かい?」
 カスミは目をこすりながら小さく頷いた。
「そっ、それよりも家は……おうちは何処なんだい?」
 カスミは身体を小刻みに震わせ、わからないことを訴えていた。
「参ったぜ、迷子かよ……」
「ったくついてねぇな、こんなところを任された挙句、まさか迷子の面倒まで見ることになるとは――」
 2人はお手上げで、お互いに愚痴り合っていた。
「でもよ、どうしようもねえもんな? ほっとこうか?」
「できればそうしたいが流石にそれはそれでマズイだろう、 泣かれたまんまじゃあたまったもんじゃねえからな」
 だが、目の前の幼子は今にも泣きそうな面持ちである。
「わかったわかった! お兄さんたちが何とかしてやるから! ちょっと待ってな!」
 片方が慌てた様子でそう言うと、もう片方も慌てた様子で言った。
「おい、いいのか!?」
「よくねえよ! けど、ガキの鳴き声を聞き続けることになるぐらいならまだマシだろ!  だからな、そこのガキ……じゃなくてお嬢ちゃん! お兄さんたちと一緒にお姉ちゃんを探してあげるからな!」
「探すったって、持ち場を離れるわけには――」
「大丈夫だ、離れるわけじゃねえ。 迷子ってことはこのガキのその”お姉ちゃん”のほうも探していることは間違いねえからな、 だからここで一緒に待ってりゃそのうち”お姉ちゃん”のほうからやってくるに決まってらぁ!」
「なーるほど、それもそうか! そいつはいい考えだな!」
 と、その様子をカイトとリリアリスは見ていた。
「へえ、これはなかなかの采配だねぇ、まさかそう来るとは。 で、当然ああなるのも織り込み済みなんだろ?」
 カイトがそう言うとリリアリスは頷いた。
「ええそうよ。ちなみにあと数分ぐらいはこのまま待っていることにするわ。 できればどのぐらいか時間がわかればいいんだけど――」
 と、リリアリスはあてつけ気味にカイトに言った。
「そっ、そんなこと言われても。 言っただろ、リリアリス女史が絡んだ内容だと”見えない”って。 でもまあ、そうは時間がかからないだろう――これは”予測”でも何でもなく、ただの”予想”だけどね」

 そしてそれから5分後――
「おいおい! なんだこれは!」
 ガルヴィスが驚いていた。
「こっ、これが召喚王国クラウディアスの真の力か、恐るべし、だな――」
 クラフォードは息をのんでそう言った。それもそのハズ、国会議事堂の前はカスミを中心にお兄ちゃんたちが集まっていたためである。 その風景はなんともほのぼのとした雰囲気、カスミはにっこりとした面持ちで、心配していたお兄ちゃんたちにあやしてもらっていた。
「いやいやいや、どう考えてもやばすぎるだろ、これ!  連中はこんなことしてて大丈夫なのかよ!」
 ティレックスがそう言うとリリアリスは言った。
「連中の心配をしたってしょうがないでしょ、そもそも私の狙いはまさにコレだからね。 年端も行かない小さな小さな女の子が一人迷子になっていて、お兄ちゃんたちが心配になって集まってくる。 末端の兵隊たちについては基本的に何を知らされることなくついてきているだけである可能性が濃厚――エダルニアの時からそれを感じていたから多分同じだなと思ったわ。 だからここでカスミに一肌脱いでもらって情に訴える作戦で突破しようと考えたのよ。 ほら、見なさいよ――」
 と、リリアリスは国会議事堂の周囲を見るように促した。
「確かに兵隊はあの広間だけに集中しているようだな。 つまりは侵入するのなら今がチャンスってワケか!」
 ティレックスはそう言うとリリアリスは頷いた。
「本当はルルーナにひきつける役をしてもらおうと思ったけれども、 むしろ、カスミんのほうが無条件でひきつける能力があると思ってね、方針転換した結果がコレよ。」
 カスミ、恐るべしである。そしてリリアリスはほかのメンツにさっさと抜け道を見つけて議事堂へと侵入するように言った。 各々が入っていく様を見届けたリリアリスはおもむろに――
「さーてと、今度は私の出番ね。」
 カスミのほうへとそろそろと近づきながら言った。
「メリナ! メリナ!」
 その声に対してカスミが反応した。
「あっ、お姉ちゃん!」
 カスミは慌てたような様子でリリアリスに駆け寄ると、リリアリスもカスミのほうへと慌てて駆け寄り、カスミを抱え上げていた。
「メリナ! よかった、見つかってよかった――」
 リリアリスはとても嬉しそうにそう言った。そして、
「ごめんなさいメリナ、すごく寂しかったでしょ?」
「ううん、そんなことない。 だって、お兄ちゃんたちが一緒にいてくれたから――」
 と、カスミはそう言いながら背後のお兄ちゃんたちを指さして言った。
「そうだったのですか! みなさんすみません、いろいろとご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!」
 すると、
「いえいえ俺たちは別に……メリナちゃん、お姉ちゃんが見つかってよかったね!」
 その問いにメリナこと、カスミは満面の笑みを浮かべて「うん!」と元気よく言った。
「ごめんねメリナ! 今日のお夕飯はメリナの好きなお寿司にしてあげるね!」
「わーい!」
 おっ、恐るべし、召喚王国クラウディアスの力!
「ではみなさんすみません、私たちはこれで失礼いたしますね!」
 と、リリアリスはカスミを抱えたまま、その場を一礼して去って行った。
「可愛かったな、あの子……」
「あの子もそうだけど、お姉ちゃんもきれいな人だったなぁ……とにかく、見つかってよかった――」
 残されたお兄ちゃんたちはほのぼのとした様子で2人の後ろ姿を見つめていた。